室町末期の剣豪で、新当(しんとう)流(鹿島(かしま)新当流、卜伝流、墳原(つかはら)卜伝流など)の祖。卜伝の伝記は巷説(こうせつ)が多く明らかではないが、常陸大掾(ひたちだいじょう)鹿島家の四宿老(しゅくろう)の一つで、鹿島社(鹿島神宮)の祠官(しかん)、卜部(うらべ)(吉川(よしかわ))覚賢(かくけん)の二男に生まれ、初名朝孝(ともたか)、幼くして塚原(茨城県鹿嶋(かしま)市)の小領主塚原土佐守(かみ)安幹(やすもと)に養われ、長じて新左衛門尉(しんざえもんのじょう)高幹(たかもと)といい、のち卜伝斎(ぼくでんさい)、土佐入道と称した。少年のころから剣を好み、父から家伝の鹿島中古流を、ついで養父から飯篠長威斎(いいざさちょういさい)の天真正伝神道(てんしんしょうでんしんとう)流を学び、さらに廻国(かいこく)修行を重ねて剣名をあげた。1512年(永正9)、このころから鹿島一族の内訌(ないこう)が激化し、1523年(大永3)卜伝35歳のとき高天原の合戦となり、卜伝も奮戦して高名の首21ほかの戦功をあげた。その後、卜伝はもっぱら剣術の修行に打ち込み、鹿島社に参籠(さんろう)して兵法の奥儀を開眼し、極意を「一(ひとつ)の太刀(たち)」と名づけ(杉本政信の創案とする異説もある)、流名を新当流と唱え、多数の門弟を率いて諸国を歴遊し、もっぱらその弘布(こうふ)に努めた。『甲陽軍鑑』によれば、一行の総勢、上下80人を召し連れ、大鷹(たか)三疋(びき)を据えさせ、馬三頭を引かせて威光を示し、華美にふるまったという。その足跡は西国に及んだが、甲州武田氏の家臣、山本勘介(かんすけ)らに教授したのをはじめ、伊勢(いせ)の国司北畠具教(きたばたけとものり)に一の太刀を伝授し、京都に上っては、将軍足利義輝(あしかがよしてる)や細川藤孝(ふじたか)らの大名に刀槍(とうそう)の術を指南したという。
晩年は郷里に帰って隠棲(いんせい)し、1556年(弘治2)養子彦四郎幹秀(ひこしろうもとひで)を迎え、1571年(元亀2)2月、高弟松岡兵庫助則方(まつおかひょうごのすけのりかた)の屋敷で、83歳の波瀾(はらん)に富んだ一生を閉じたという。法号は宝剣高珍居士(ほうけんこうちんこじ)、墓は旧塚原城に近い梅香寺(ばいこうじ)跡にある。なお松岡兵庫助は、1603年(慶長8)ころ、徳川家康の招きで江戸に出府し、秘伝の一の太刀を伝授して感賞を受け、新当流の正統を保持すべきの黒印状を与えられた。江戸で松岡の伝を広めた大高弟として、甲頭刑部少輔(かぶとぎょうぶしょうゆう)と多田右馬助(うまのすけ)の両名が有名である。
[渡邉一郎]
(早乙女貢)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
戦国時代の剣客。新当流の流祖。字は高幹(たかもと)。常陸国(茨城県)鹿島神宮の祝部(はふりべ)である卜部覚賢(うらべあきたか)の次男として生まれた。その生涯については不明の点も多いが,卜部家には鹿島の太刀の秘伝が伝わり,卜伝が養子となった塚原家は天真正伝神道流が伝えられていたといわれ,卜伝はこの二つの流れを学び,鹿島神宮に参籠して,〈一の太刀〉という極意を感得して新当流を起こした。卜伝は多数の門人を従えて諸国を武者修行し,将軍足利義輝の師として京都に一時滞在したともいわれる。23歳から72歳までの50年間に,戦場への出陣39回,その間真剣勝負19回を数え,一度も敗れなかったといわれる。後代の剣客に比べ豊富な実戦体験をもち,生死を超越したところに〈一つの太刀〉という絶対必勝の位を得たのであろう。卜伝の作といわれる《卜伝百首》に生死を超えた心境がうたわれている。〈一つの太刀〉の秘伝は,門人北畠具教(とものり)を通じて息子彦四郎幹秀に伝わったといわれ,他に松岡兵庫助,真壁道無,天(天道)流を開いた斎藤伝鬼坊などの門人がいる。
執筆者:中林 信二
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…武士の当社への信仰は室町・戦国時代にも変わらなかったし,要石(かなめいし),息栖(いきす)神社(摂社)の男瓶・女瓶などの伝承も生まれ霊験縁起の原型が形成された。武神であるので武道の場となり塚原土佐守は天真正伝神道流を学び,その孫養子(養子ともいわれる)の塚原卜伝(ぼくでん)は鹿島新当流の祖となった。1595年(文禄4)豊臣秀吉は常陸の検地を実施し,神官,供僧分として405石を認めた。…
※「塚原卜伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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