居酒屋(読み)イザカヤ

デジタル大辞泉 「居酒屋」の意味・読み・例文・類語

い‐ざかや〔ゐ‐〕【居酒屋】

(昔、酒屋の店先で飲む酒を居酒といったことから)店内にテーブル席、小座敷などを用意し、酒と食べ物を出す店。酒は日本酒を主に、ビール・焼酎など。食べ物はつまみ程度からかなり凝った料理まで、店によりいろいろ。
[補説]店先に赤ちょうちんを下げたり、入り口縄のれんをかけたりしたので、別名を「赤ちょうちん」「縄のれん」ともいう。大衆向けの安価な店が多い。洋酒を飲ませる店は「バー」、ビールを主に出す店は「ビアホール」という。
書名別項。→居酒屋
[類語]酒場飲み屋割烹縄暖簾ビヤホールビヤガーデンパブスナッククラブキャバレーバーレストラン料亭料理屋食堂飲食店飯屋喫茶店菜館飯店茶房茶店割烹店パーラーグリルカフェテリア

いざかや【居酒屋】[書名]

《原題、〈フランスL'Assommoirゾラの小説。1877年刊。洗濯女ジェルベーズの運命を中心に、パリの下層階級の生活を写実的に描く。

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精選版 日本国語大辞典 「居酒屋」の意味・読み・例文・類語

いざか‐やゐざか‥【居酒屋】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 店先で気楽に酒を飲ませる酒屋。また、安酒を飲ませる店。もと、味見に飲ませたものが一杯売りとなり、のちに、簡単な料理を提供するようになったもの。居酒店。いざけ。いざけや。
    1. [初出の実例]「居酒屋に人がら捨て呑んでいる」(出典:雑俳・雲鼓評万句合‐宝暦元(1751))
  2. [ 2 ] ( 原題[フランス語] L'Assommoir ) 長編小説。ゾラの出世作。一八七七年刊。洗濯女ジェルベーズと、ブリキ職人クーポーの夫婦が、ふとしたことから転落してゆく話を軸に、貧しい労働者たちの悲惨を描く。フランス自然主義文学の先駆とされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「居酒屋」の意味・わかりやすい解説

居酒屋 (いざかや)

店先などで手軽に酒を飲ませる店の称。

江戸時代の前期,すでに街道筋の茶店は酒肴(しゆこう)をひさいでおり,都市の煮売屋が酒を提供したことも考えられるので,専業の居酒屋はそれらから分化して,江戸時代中ごろには成立していたと思われる。しかし,造酒屋や小売酒屋がそうした商いをしたのははるかに古いことで,実質的な居酒屋営業は奈良時代にさかのぼる。《続日本紀》天平宝字5年(761)3月己酉の記事に見られるのがそれで,この日,忍壁(おさかべ)(刑部)親王の孫の葦原王なる人物が種子島へ流罪になるのだが,この王が殺人の罪を犯したのは,〈喜んで酒肆(しゆし)に遊ぶ〉うち〈博飲して忽ち怒を発し〉ていっしょに飲んでいた相手を刺殺してしまったというのである。居酒屋の語が見られるようになるのは江戸時代後期になってからであるが,このころにはいたるところにあったようで,大坂では橋の上にまで居酒屋が店を出していたという。
執筆者:

中国では酒店,酒家,酒壚(しゆろ),酒肆,酒亭,酒楼あるいは旗亭などとよばれ,戦国時代以来存在したが,よく知られているのは唐都長安の酒肆である。李白の詩に〈笑って入る,胡姫酒肆の中〉とうたわれ,韋応物の詩にも〈長安の街に豪勢な飲屋ができた。ぽっかりと姿を現した楼は高さ百尺,緑の飾窓は透けて春風を納(い)れ,銀字の看板と五色の幟(のぼり)で上客を迎える〉とある。店の所在を示す酒旗は青色を用いるのが一般的であった。宋代になると,都市や都市的集落である鎮・市の発展,商業の発達,庶民の台頭などによっていっそうの広がりをみせたが,開封と杭州の酒肆が有名であった。それらは〈綵楼(さいろう)〉とか〈歓門〉という一種の暖簾(のれん)をかかげ,男女の使用人を多数かかえ,白昼から夜にかけて営業した。主たる顧客も貴族層から庶民層へと移り変わった。酒肆の営業形態は南宋時代にほぼ確立し,元・明・清時代を通じて全国各地に存在して,庶民たちの憩いの場所となった。
執筆者:

ヨーロッパの居酒屋を指す語は,英語ではタバーンtavern,パブリック・ハウスpublic house(パブ),フランス語ではカバレcabaretである。ヨーロッパで居酒屋がどのようにして発生したか,古代ローマとの連関はどうかといった点は明らかでない。しかし庶民の日常生活との関係を重要視した場合,少なくとも一つは旅人を対象として街道筋に発展したこと,もう一つは大きな村に〈旅籠はたご)〉として発達したとされている点に注目すべきである。後者は旅人が宿泊するだけでなく,村人たちが集まって酒を飲んで語り合い,日用品をそこで買い求めることもある。村の共同生活の中心であったという。しかしすべての村々に居酒屋があったわけではないし,旅籠にしても古い時代や辺境の地にはまれにしかなかったとも指摘されている。農民は外の世界に対する警戒心をもっていて,街道筋の居酒屋に出かけることは少なく,大きな村の旅籠に農民たちが出かけるのも,市の立つ日や日曜日のミサの後などであった。

 農民が居酒屋にしばしば規則的に通うようになったとすれば,それは村落生活で重要な家族のきずなや〈夜の集い〉のような伝統的な習慣と矛盾してくる。したがって村々で居酒屋が日常生活にその場を占めるという状態は,伝統的生活を表現するのではなく,その変容を示すものだと説かれる場合もある。都市において居酒屋が増加しはじめるのは18世紀からであり,19世紀はその増加の頂点をなしていた。これは工業化の進展にともなうものであり,労働者層に居酒屋に通う習慣が浸透したことを示す。こうして18世紀の半ばころから労働者層の間に,イギリスでブルー・マンデー,フランスでサン・ランディと呼ばれる,月曜日も居酒屋ですごして仕事をしないという習慣も発生した。この習慣が顕著にみられた都市の一つがパリである。ここでは19世紀になると民衆居住街区の内部に多数の居酒屋が生まれ,これまでのような墨客・文人の通うようなりっぱなものは減少した。人々はそこで食事をとるだけでなく,仲間から稼ぎ口を紹介され,カードなどの遊びに興じる。字の読める者が新聞を読んできかせ,政治結社の活動の場にもなった。1860年までは,市門の外には入市税のかからぬ安い酒の飲める〈関の酒場〉が広がり,日曜日や月曜日は,市内の民衆居住街区から大挙して人々がそこに押し出して来た。大道芸人の舞台,各種の屋台がそこに連なり,祭りのにぎわいを呈した。それはあたかも,パリとその文明の埒外(らちがい)に,もう一つの自律的な民衆の世界が存在しているかのごとくだった。ストライキ運動の組織化もこの〈関の酒場〉でおこなわれた。

 19世紀の半ばを過ぎると,社会学者や衛生学者,モラリストたちは,居酒屋の危険を強調する。それは家庭の平和を脅かし,父親の権威を低落させ,貯金を不可能にすると,彼らは労働者と居酒屋のつながりを指弾する。この時期に公衆衛生学で初めてアルコール中毒症(アルコール依存症)という言葉が生まれるが,それは以上のような危機感を背景としている。
カフェ →キャバレー →バー →パブ
執筆者:


居酒屋 (いざかや)
L'assommoir

フランスの小説家ゾラが〈ルーゴン=マッカール〉シリーズの第7作目として発表した長編小説。1877年刊。ゾラの代表作の一つ。原題のアソモアールは労働者のたまり場の酒場の名。本来は〈棍棒〉の意味で,強い安酒の酔いの比喩でもある。題名からも想像がつくように,この小説は,パリの下層労働者が生活の悲惨さを忘れようとして酒に身を持ち崩し,破滅するさまを描いたものである。人間を獣性において描くゾラの自然主義はこの作品で頂点に達し,その描写のどぎつさは読者に反発をいだかせ,非難攻撃の声が上がった。しかし当時の代表的作家,ゴンクール兄弟,フローベールらは賞賛し,支持し,ゾラの作家的地位は固まった。なお,女主人公ジェルベーズと屋根職人の夫クーポーとの間に生まれた女の子がナナである。1955年にルネ・クレマン監督によって映画化され,ジェルベーズ役をマリア・シェルが演じて好評をえた。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「居酒屋」の意味・わかりやすい解説

居酒屋(酒場)
いざかや

店先で手軽に酒を飲ませる酒屋、または酒肴(しゅこう)を供する簡易酒場。酒類販売店が店頭で枡酒(ますざけ)を飲ませる立ち飲みの風習は古くからみられ、鎌倉時代には街道や宿場で飯屋が酒と簡単な肴(さかな)を用意して旅人や駕籠(かご)屋などの求めに応じたが、一膳飯屋(いちぜんめしや)の発達に伴い酒肴のみを専業とする店が現れて居酒屋とよばれた。江戸時代には灘(なだ)の酒が船で江戸に運ばれるようになり、元文(げんぶん)年間(1736~1741)には鎌倉河岸(がし)の酒店豊島(としま)屋が店を広げて田楽(でんがく)を肴に樽酒(たるざけ)を安く飲ませたので、行商人、中間(ちゅうげん)、船頭、日雇い労働者などが好んで利用し、同じような形態の店が江戸の町々にでき、関東一円の村々にも普及した。これらの居酒屋では、店内に粗末な食卓を置き、しょうゆの空き樽などを椅子(いす)の代用にして、蠅(はえ)の侵入を防ぐために入口に縄のれんを下げたので縄のれんは居酒屋の代名詞のようになり、いまも各地にみられる。現在は焼きとり屋、おでん屋、炉端(ろばた)焼き屋、田舎(いなか)料理屋ほかさまざまな形態のものがあり、また和風、洋風など趣向を凝らしたものも多い。

 西洋では古代ギリシア・ローマ時代に居酒屋があって一般大衆が利用していたことが文献にみえる。中世のイギリスにはエール(ビールの一種)・ハウスとよばれる居酒屋があって旅行者を泊めたりしたが、近世になって、ジンやぶどう酒などを飲ませるタバーンtavernと、ビールを飲ませるパブリック・ハウスとに分かれた。ターバンはのちにサルーンsaloonとよばれる高級酒場になり、パブリック・ハウスはパブpubと略称される大衆的な酒場になった。アメリカでもだいたいイギリス風に発展したが、西部では宿屋と酒場を兼ねたサルーンの形式が発達し、都会ではバーが多くみられる。フランスでも中世にぶどう酒を飲ませるカバレーcabaretまたはタベルヌtaverneなどがあって旅行者を泊めたが、18世紀末にパリに高級酒場ができたのに伴って、19世紀にはビストロbistroと俗称される大衆的な居酒屋が多くできた。

[佐藤農人]



居酒屋(ゾラの小説)
いざかや
L'Assommoir

フランスの小説家エミール・ゾラの長編小説。新聞連載中から大きな反響をよび、1877年『ルーゴン・マッカール双書(そうしょ)』第7巻として刊行された。洗濯女ジェルベーズは、情人ランチエに逃げられ、実直な板金工クーポーと結婚、一心に働いてこぎれいな洗濯屋を構えるが、大けがをした夫はアルコール中毒になる。そこへ情人が舞い戻って奇妙な共同生活が始まると、やがて彼女自身も身を持ち崩し、酒におぼれ、乞食(こじき)同然に零落して飢え死にする。「パリの場末の悪臭漂う腐敗した環境における労働者一家の避けようもなかった転落」を書くことが作者の目標であったという。巧みな構成、庶民の卑俗なことばや言い回しを自由間接話法で地の文に溶け込ませたダイナミックな文体、ヒロインの生涯に重ね合わせつつ第二帝政下の変貌(へんぼう)するパリを描いていく都市小説的な手法が相まって、叙事詩のような雄大なスケールをつくりあげている。

[工藤庸子]

『清水徹訳『世界文学全集 55 居酒屋』(1978・集英社)』『古賀照一訳『居酒屋』(新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「居酒屋」の意味・わかりやすい解説

居酒屋
いざかや
L'Assommoir

フランスの小説家エミール・ゾラの小説。 1877年刊。大作「ルーゴン=マカール叢書」の第7巻。パリの下層労働者の愛憎にまみれた生活にアルコール依存症の悲惨さをからませて描き,ゾラの作家としての地位を確立するとともに,自然主義文学の勝利を決定づけた作品。

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デジタル大辞泉プラス 「居酒屋」の解説

居酒屋〔映画〕

1956年製作のフランス映画。原題《Gervaise》。エミール・ゾラの同名小説の映画化。監督:ルネ・クレマン、出演:マリア・シェル、フランソワ・ペリエ、アルマン・メストラルほか。第10回英国アカデミー賞作品賞受賞。

居酒屋〔曲名〕

日本のポピュラー音楽。歌手の木の実ナナと五木ひろしによるデュエット曲。1982年発売。作詞:阿久悠、作曲:大野克夫。カラオケの男女デュエット曲の定番として人気が高い。

居酒屋〔落語〕

古典落語の演目のひとつ。「ずっこけ」の前半部分が独立したもの。「ないものねだり」とも。三代目三遊亭金馬が得意とした。オチは地口オチ。主な登場人物は、小僧、酔っ払い。

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世界大百科事典(旧版)内の居酒屋の言及

【看板】より

…内部に照明を設ける場合が多い。建看板は,江戸時代に店の前の道路に柱を立てて看板を掲げた形式で,欧米の居酒屋看板にもこの形が見られる。絵看板は江戸初期から見世物・劇場に用いられ,今日でも映画館で行われているが,最近アメリカを中心として日本でも,絵に代わって巨大な写真をはる方法が急激に増えている。…

【清酒】より

…さらに〈大篩で酒を篩う〉とあり,いずれもろ過したすみ酒であった。 民間での酒造も古くから行われていたようで,《万葉集》巻十六には能登の熊来(くまき)酒屋の名が見え,《続日本紀》には761年当時すでに居酒屋風の店のあったことが記録されている。鎌倉時代,京都には藤原定家が〈員数を知らず〉としたほどの土倉があり,その大半は酒屋であった。…

【バー】より

…昔のヨーロッパの居酒屋tavernには宿屋innを兼営しているものが多かった。それが,今日のイギリスで総称的にパブと呼ばれている居酒屋の原型である。…

※「居酒屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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