出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
徳島県西部、吉野川中流部の峡谷。ボケ、ボキは崩壊の字もあてるが、大股(おおまた)で歩いても小股で歩いても危ないほど谷の両岸が迫り、切り立った崖(がけ)が続く所の意ともいわれる。またホケ、ホキには崖の意もある。JR土讃(どさん)線、国道32号が通じているが、補修工事が絶えない。吉野川が北流する約20キロメートルは四国山地を横断する横谷で、とくに土讃線の大歩危駅から小歩危駅間4キロメートルは奇岩怪石や深い淵(ふち)があり、剣(つるぎ)山国定公園の一部になっている。大歩危駅から観光遊覧船の船着き場まで1.5キロメートル、川船に乗っての大歩危峡見物に約30分を要する。近年ではゴムボートで急流下りを楽しむラフティングも行われている。洞床付近は三波川(さんばがわ)系の結晶片岩があり、別子層とその下部にある大歩危層の美しい露頭がみられる。大歩危層は石墨片岩や緑泥片岩などの累層からなり、二つの大背斜軸をなして東に連なっている。含礫(れき)片岩の露頭は県指定天然記念物。1974年(昭和49)大歩危と祖谷(いや)の蔓(かずら)橋を結ぶ有料道路(1998年無料開放、主要地方道西祖谷山山城線)が開通した。
[高木秀樹]
徳島県西部にある吉野川の峡谷。高知県側から東流してきた吉野川が四国山地を横断する際,北流して横谷をなす約20kmの間をいう。ボキ,ボケは山間の断崖地の呼称で,崩壊の字もあてるが,この両岸は標高1000m前後の山がせまり,かつてはわずかに小路が通じていた。1935年川岸に沿って開通した土讃線の阿波川口駅から南に5kmで小歩危,さらに4kmで大歩危となるが,その間がとくに峡谷美をなす。大歩危は奇岩や怪石が多く,深い淵があって男性的で,小歩危は岩石の露出が少なく,奇岩も小さく女性的といわれる。大歩危と小歩危の間には遊覧船の便もあり,両岸は新緑時のツツジ,秋の紅葉時のながめがすぐれている。この峡谷には三波川(さんばがわ)帯結晶片岩のうちおもに砂質片岩が分布している。また,この周辺は地質学的に有名な地点で,典型的な背斜構造がみられ,その軸が赤野北方1.7kmの遊覧船折返し点を通る。遊覧船発着場付近にレキ質片岩があり,県の天然記念物に指定されている。64年剣山国定公園に指定され,74年大歩危と東の祖谷(いや)渓を最短距離で結ぶ県営祖谷渓有料道路(98年無料開放)が開通したため,大歩危駅は祖谷地方への観光基地としての役割をもつようになった。土讃線も国道32号線も補修工事の多い難所でもある。
執筆者:高木 秀樹
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