大織冠(読み)タイショカン

デジタル大辞泉 「大織冠」の意味・読み・例文・類語

たいしょかん〔タイシヨクワン〕【大織冠】

幸若舞曲。室町後期成立。作者未詳。藤原鎌足が、八大竜王に奪われた宝珠海士あまを使って取り返すという玉取り伝説に取材したもの。
大職冠浄瑠璃時代物。五段。近松門左衛門作。正徳元年(1711)大坂竹本座初演。などをもとに、藤原鎌足蘇我入鹿そがのいるか討伐に玉取り伝説を配して脚色したもの。→たいしょっかん(大織冠)

たい‐しょっかん〔‐シヨククワン〕【大織冠】

《「だいしょっかん」とも》
大化の改新後定められた冠位制で最高の冠位。のちの正一位に相当する。実際には藤原鎌足が授けられただけである。
藤原鎌足の称。

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精選版 日本国語大辞典 「大織冠」の意味・読み・例文・類語

たい‐しょかん‥ショクヮン【大織冠】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙たいしょっかん(大織冠)
    1. [初出の実例]「ながれをくみてみなもとをたづねてこそはよく侍べきを、大織冠(タイショクヮン)よりはじめたてまつりて申べけれど」(出典:大鏡(12C前)一)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 幸若の曲名。室町時代成立。作者不詳。大織冠藤原鎌足と契った海女が、八大龍王に奪われた宝珠を一身を捧げて奪い返すという玉取伝説に取材したもの。謡曲海士(あま)」と同材。
    2. [ 二 ] ( 大職冠 ) 浄瑠璃。時代物。五段。近松門左衛門作。正徳元年(一七一一)頃成立。幸若舞曲「大織冠」「入鹿(いるか)」や謡曲「海士」などにより、藤原鎌足が蘇我入鹿を討った話に、玉取伝説などを加えて脚色したもの。朝鮮人来朝を当て込んで作られたという。

たい‐しょっかん‥ショククヮン【大織冠】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 孝徳天皇大化三年(六四七)に定められた一三階の冠位の最高位。その後天智天皇の時までに一九階、二六階と増階されたが、いずれも、その冠位の最高位。後の正一位に相当する。実際には、天智天皇の八年(六六九)に、藤原鎌足が授けられただけである。だいしきのかぶり。だいしき。たいしょかん。
    1. [初出の実例]「これには、大職冠の御事につきて、甚深の義侍べり」(出典:名語記(1275)九)
  2. [ 2 ] 藤原鎌足の称。
    1. [初出の実例]「多武の峯は大織冠の御廟也」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)

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改訂新版 世界大百科事典 「大織冠」の意味・わかりやすい解説

大織冠 (たいしょかん)

幸若舞の曲名。作者不明。上演記録の初出は1553年(天文22)(《言継卿記》)。大織冠藤原鎌足は娘の紅白女(こうはくによ)を唐の太宗に嫁がせる。太宗はその返礼に万戸将軍を使者として釈迦の霊物を納めた玉をはじめ多くの宝物を鎌足に贈る。途中,修羅をかたらってこの玉を奪おうとした竜王は万戸に退けられ,計略を用いて竜女〈こひさい女〉を万戸の船に忍び込ませる。色香に迷った万戸は竜女に気を許し房前(ふささき)の浦の沖で玉を盗まれる。これを聞いた鎌足は身をやつして房前の浦に下り,海女(あま)と契って子をもうけ,素性をあかして海女に玉を取り返すことを頼む。海女は竜宮に忍び入り首尾よく玉を盗むが,小竜に見つかって食い殺される。その死骸を引き上げると玉は乳房を切り裂いて隠してあった。玉は興福寺の本尊の眉間に納められ,子は大臣藤原房前となった。これは海女が身を捨てて海中の玉を取る話だが,《日本書紀》允恭紀にあるように古い神話的原型に由来する。これが仏教伝来説話に結びつくと《今昔物語集》巻十一などに見える元興寺縁起の眉間の玉将来の説話が生じ,中世には興福寺縁起として成立した。能の《海士(あま)》と同材であるが,能が主として讃岐国志度寺縁起の絵解きの台本によるのに対し,幸若舞は《大鏡底容鈔》や《春日秘記》などにうかがわれるような中世南都に流布した興福寺,春日社の民衆的な縁起の唱導にもとづく。興福寺,春日社の縁起では藤原不比等の物語となっているが,幸若舞では姉妹作《入鹿(いるか)》が鎌足の出生譚を扱うのを受けて,本作も鎌足の物語として統一され,万戸と修羅の合戦や万戸と〈こひさい女〉との問答など本筋の物語に芸能上の趣向を加えて物語をふくらませている。後に,井上播磨掾の《大職冠知略玉取》や近松門左衛門の《大職冠》などに影響を与えた。
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百科事典マイペディア 「大織冠」の意味・わかりやすい解説

大織冠【たいしょくかん】

藤原鎌足が死を前にして与えられた,後の正一位に相当する官位。他の人に授けられた例がないので,鎌足自身を指していうことばとして定着した。幸若舞の《大織冠(たいしょかん)》は,筋立てが金春系統の古作である謡曲《海人》に重なり,興福寺金堂建立のため,唐の后となった娘から送られた無価宝珠を,鎌足が海人の助けを借りて竜王から取り戻すというもの。香川県志度寺の縁起との関係が注目される。浄瑠璃では近松門左衛門に同名の作があり,また藤原氏と蘇我氏の対立抗争を描く作品の系列をこう呼ぶ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大織冠」の意味・わかりやすい解説

大織冠
たいしょくかん

「たいしきかん」とも読む。冠位十三階制、十九階制、二十六階制の最高階で、647年(大化3)から685年(天武天皇14)まで存続。織冠は綴錦(つづれにしき)の冠とされ、服色は深紫。この冠は容易には授けられない高貴なもので、授けられた例は藤原(中臣(なかとみ))鎌足(かまたり)のみである。669年(天智天皇8)鎌足は死去の前日、天智(てんじ)天皇から大織冠と大臣(おおおみ)を授けられ、藤原姓を賜ったといわれる。だから8世紀に成った鎌足の伝記を『大織冠伝』ともいう。

[押部佳周]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大織冠」の意味・わかりやすい解説

大織冠
たいしょくかん

室町時代の幸若舞 (こうわかまい) 曲。王朝物。中国から送られた宝珠が瀬戸内海で竜に奪われたのを残念に思った大織冠藤原鎌足が,海女と契ってその女に竜宮の宝珠を取返させるという玉取り伝説。『志度寺 (しどじ) 縁起』に取材した幸若舞曲の代表作で,謡曲『海士』と同材。江戸時代に入って同名の古浄瑠璃や,近松門左衛門作『大職冠』を生んだ。

大織冠
たいしょくかん

古代冠位の一つ。大化3 (647) 年に制定された七色十三階冠位制の最高位。天智8 (669) 年中臣鎌足 (→藤原鎌足 ) が死の前日,内大臣となり,藤原姓を賜わると同時に,大織冠を授けられたのが唯一の例。冠位の制は冠の質,色,形などによって位階を表わしたが,大織冠についての詳細は不明。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「大織冠」の解説

大織冠
たいしょくかん

647年(大化3)の冠位制で十三階の最高位の冠位。649年と664年(天智3)の改訂でも同じく最高位とされ,685年(天武14)正位(しょうい)を最高位とするまで続いた。ただし669年中臣(なかとみ)(藤原)鎌足(かまたり)が死の直前に与えられたのが唯一の例で,鎌足個人をさす語ともなった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「大織冠」の解説

大織冠
たいしょくかん

大化の改新政府の定めた官位の最高位
647年7色13階,649年19階,664年26階冠位の制で,いずれも最高位。669年藤原鎌足が臨終に際して天智天皇の勅で任命され,以後任命をみない。のち鎌足の代名詞となった。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「大織冠」の解説

大織冠
(別題)
たいしょっかん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
大職冠
初演
元禄11(江戸・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の大織冠の言及

【藤原鎌足】より

…幼名は仲郎とも伝えられるから,早世した兄がいたのであろう。早くから儒教の古典や兵法に親しみ,青年時代には《日本書紀》によれば南淵請安(みなぶちのしようあん),《大織冠伝(たいしよくかんでん)》によれば僧旻(みん)ら,唐からの帰国者について学び,官途にはつかなかった。飛鳥寺の蹴鞠の会で脱げた皮鞋(かわぐつ)を捧げ,中大兄(なかのおおえ)(後の天智天皇)と親しくなった逸話は有名。…

【王朝物】より

…歌舞伎狂言では《天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)》など。とくに,《妹背山》のように蘇我氏と藤原氏の抗争が基底となっている作品の系列を〈大織冠〉と呼ぶ。【藤田 洋】。…

【藤原鎌足】より

…幼名は仲郎とも伝えられるから,早世した兄がいたのであろう。早くから儒教の古典や兵法に親しみ,青年時代には《日本書紀》によれば南淵請安(みなぶちのしようあん),《大織冠伝(たいしよくかんでん)》によれば僧旻(みん)ら,唐からの帰国者について学び,官途にはつかなかった。飛鳥寺の蹴鞠の会で脱げた皮鞋(かわぐつ)を捧げ,中大兄(なかのおおえ)(後の天智天皇)と親しくなった逸話は有名。…

※「大織冠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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