守銭奴(読み)しゅせんど

精選版 日本国語大辞典 「守銭奴」の意味・読み・例文・類語

しゅせん‐ど【守銭奴】

[1] 〘名〙 金銭に執着し、貯めることだけに熱心な人。けちな人をののしっていう蔑称。守銭虜。
江戸繁昌記(1832‐36)五「一雀道ふ、世間守銭奴並に是れ是れ。何ぞ独那廝ならん」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉六「これまで小説に書かれたり、芝居に為組まれたりしてゐる守銭奴(シュセンド)は」
[2] (原題L'Avare) 戯曲。五幕。モリエール作。一六六八年パレ‐ロワイヤルでモリエール一座初演。けちで貪欲(どんよく)高利貸アルパゴン本性を通して、金銭欲が人間を非人間的にしたり、親子関係をも狂わせてしまうことを批判的に描いた散文喜劇尾崎紅葉の戯曲「夏小袖」はこの作品を翻案したもの。

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デジタル大辞泉 「守銭奴」の意味・読み・例文・類語

しゅせん‐ど【守銭奴】

金をため込むことばかりに執心する、けちな人。
[補説]戯曲名別項。→守銭奴
[類語]けち吝嗇りんしょくしみったれしわい渋いしょっぱい細かいみみっちい(けちな人)けちん坊しわん坊握り屋締まり屋吝嗇漢倹約家始末屋

しゅせんど【守銭奴】[戯曲]

《原題、〈フランスL'Avareモリエールの戯曲。5幕。1668年初演。守銭奴アルパゴンが息子や娘に金のための結婚をさせ、自分は息子の恋人と再婚しようとして引き起こす、こっけいな騒動を描いた喜劇。プラウトゥスの戯曲「黄金の壺」などに基づく。

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改訂新版 世界大百科事典 「守銭奴」の意味・わかりやすい解説

守銭奴 (しゅせんど)
L'avare

モリエール作の五幕散文喜劇。初演1668年。プラウトゥスの《黄金の壺》,ボアロベールの《美しい訴訟女》を下敷きに書かれ,イタリアのコメディア・デラルテの老父役パンタローネをフランス化した守銭奴アルパゴンを主人公とする作品。モリエール自身が主役を演じた。金銭欲に取りつかれて生涯を過ごした男が,晩年に至り,心に隙間風の吹くのを覚える。弱気を打ち消そうとした彼アルパゴンが立てた計画は,子供たちを金持の老人に縁付かせ,自分は老残の身も顧みず若い娘と結婚することだった。周囲に波風を立てたあげく,息子の下男に財産の入った金箱を盗まれて半狂乱となり,息子の結婚を許可することを条件に,金を返してもらい,やっと息をつく。主人公アルパゴンは,やや性格上の統一に欠けるものの,主観的には悲劇的人物であるが,客観的には滑稽そのものという,モリエール劇の主人公に共通する姿を,あますところなく表現している。なお,尾崎紅葉の《夏小袖》(1892)は,この作品を翻案したものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「守銭奴」の意味・わかりやすい解説

守銭奴
しゅせんど
L'Avare

フランスの劇作家モリエールの戯曲。五幕散文喜劇。1668年初演。吝嗇(りんしょく)な高利貸アルパゴンは年がいもなく若い女性マリアーヌを後妻に迎えようとするが、彼女は息子クレアントの恋人であることがわかり、奇妙な三角関係が生じる。他方、アルパゴンの娘のエリーズは執事バレールとひそかに愛し合っているが、父親は金持ちの老人アンセルムに嫁がせる意向で、こちらの恋も前途多難である。下男がクレアントのために、吝嗇なアルパゴンが宝としている金貨の箱を盗み出す。それを返すという条件で息子はようやくマリアーヌと結ばれる。また、巡り会いの偶然から執事とマリアーヌが兄妹、アンセルムがその父という関係が判明し、エリーズの恋も成就する。アルパゴンという強烈な個性の創造とともに、古株の料理番兼馭者(ぎょしゃ)、とりもち稼業の女など、多彩な人物を通じ町人階級の風俗が生き生きと描き出されている。

[井村順一]

『鈴木力衛訳『守銭奴』(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「守銭奴」の意味・わかりやすい解説

守銭奴【しゅせんど】

モリエールの戯曲。《L'avare》。散文5幕。1668年初演,モリエール自身が主役を演じた。パリの老商人アルパゴン(〈コメディア・デラルテ〉のパンタローネをフランス化した主人公)はけちで欲張り。自分の息子,娘を金を目当てに結婚させようとするが,自分は若い女にほれていることから喜劇が発展する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「守銭奴」の意味・わかりやすい解説

守銭奴
しゅせんど
L'Avare

フランスの劇作家モリエールの喜劇。5幕,散文。 1668年パレ=ロワイヤル座で初演。 69年刊。プラウツスの『金の壺』,ボアロベールの『美しき訴訟女』 (1655) を粉本に,貪欲な老人アルパゴンが金のために娘の幸福を妨げ,息子と恋人を奪い合う姿を描いて,高利貸を風刺し,金銭欲にとらわれた人間の堕落をあばいた作者中期の性格喜劇の傑作で,古典喜劇の代表作。

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世界大百科事典(旧版)内の守銭奴の言及

【翻訳劇】より

…明治20年代(1888‐97)に入ると文学的翻訳と演劇的翻案とに二分化し出す。すなわち,福地桜痴作《舞扇恨之刃(まいおうぎうらみのやいば)》(V.サルドゥー原作《トスカ》,1891年歌舞伎上演)や尾崎紅葉作《夏小袖》(モリエール原作《守銭奴》,1897年新派上演)のように日本化されて歌舞伎や新派の脚光を浴びる翻案上演が進む一方で,森鷗外訳のG.E.レッシング戯曲(1892)や高安月郊訳のH.イプセン劇(1893)など,さまざまな西欧近代戯曲の翻訳も始まった。 原作に忠実な文学的翻訳戯曲の上演は明治40年代(1908‐12)に入ってからであり,文芸協会,自由劇場の新劇運動ではイプセン劇などの翻訳劇上演が主体となり,1924年の築地小劇場創立により名実ともに翻訳劇時代を確立するにいたった。…

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