藤原氏祖先の伝記。《藤氏家伝》ともいう。始祖〈鎌足伝〉(〈大織冠伝〉)を上巻,鎌足の孫〈武智麻呂(むちまろ)伝〉を下巻として《群書類従》に収められている。伏見宮家本には鎌足の長子〈貞慧(定恵)伝〉を付す。次子〈史(不比等)伝〉ははやく失われたとある。上巻の撰者を大師と記すが,大師は太政大臣の唐名で,武智麻呂の次子藤原仲麻呂(恵美押勝)がそれに任ぜられた。彼が曾祖父顕彰のため760-761年(天平宝字4-5)ころに編纂したと推定される。上巻は《日本書紀》鎌足関係記事と類似共通点が多く,両者には共通の原史料が存在したらしい。美化や誇張は多いが,鎌足の事跡を知る上で貴重な史料である。〈貞慧伝〉は短文だが,彼の唐での修学状況などがわかり好史料で,巻末の道賢作の誄(しのびごと)は,当時の誄の形を知る上に貴重である。不比等の長子武智麻呂の伝である下巻の撰者は延慶。下巻も美化した点が多いが,奈良前期の政治や文化を知る上に参考になる点が多い。〈大織冠伝〉は,東大寺宗性抄出本がある。東大寺図書館蔵。
執筆者:横田 健一
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…生没年不詳。藤原氏《家伝》下巻〈武智麻呂伝〉の著者。《続日本紀》天平宝字2年(758)8月2日条に〈外従五位下僧延慶,形俗に異なるをもって,その爵位を辞す。…
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