住民登録制度ができる前の制度で,本籍以外の一定の場所において,90日以上住所または居所をもつこと。1914年の寄留法および寄留手続令によれば,寄留事務は市町村長が管掌し,関係事項は寄留者本人の届出,または市町村長の職権により,寄留簿に世帯を単位として記載された。寄留制度は,はじめ1871年(明治4)の戸籍法に規定された。そこでは,寄留は,公私の用により一時的に本籍を離れるものであり,ただ旅行と違うのは90日以上の長期にわたることであった。しかし人口の流動化の進行に伴い,本籍を離れる人口が増加すると,寄留の重要性も増大し,とくに86年の二つの内務省令(出生死去出入等届出方及寄留者届出方,戸籍取扱手続)によって寄留制度の整備がなされた。そのため,民法の付属法令として98年の戸籍法が制定されたときも,それは,寄留については,従来どおり1871年の戸籍法および86年の二つの内務省令によるものとした。しかし,日露戦争後の日本社会の発展は,より整備された寄留制度を要求したので,前述の1914年の寄留法と寄留手続令が制定された。さらに第2次大戦における総動員体制は,物資の配給制度等の実施のため,世帯のより正確な把握を必要としたので,40年ころから市町村は世帯台帳を作成するに至った。51年の住民登録法は,これを法制化し,寄留法を廃止した。さらに住民登録法は,67年の住民基本台帳法によって代えられた。しかし,今なお,住民基本台帳(〈住民票〉の項参照)への登録を,寄留と俗称する人もある。
執筆者:利谷 信義
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…これに対して,府藩県全体を通じて,全国的に統一的な戸籍制度を確立したのが,71年4月4日の戸籍法(太政官布告)である。これは民部省(のち大蔵省をへて内務省)の管轄下にあり,前文,本文全33則,および各種書式(戸籍表式,職分表式,寄留人届書,戸籍書式)から成る。その特質は,中央集権的な戸籍事務機構をもって,全国民を〈戸〉において一元的に把握した点にある。…
…また後者は,(1)選挙人名簿の登録(選挙権は住民票所在地で行使される),(2)国民健康保険・国民年金の被保険者の資格,(3)児童手当の受給資格,(4)米穀類の消費者の資格,である(7条)。 ところで本籍以外の一定の場所で,90日以上住所または居所をもつことは,かつては〈寄留〉と呼ばれてきた。1914年の寄留法を廃止して51年に制定された住民登録法の施行下では,国民健康保険,国民年金,食糧配給に関する届出など住民の届出に関する制度は,各種の行政ごとに個々に定められていた。…
… 大正期に入ると,行政の側からの世帯概念の明確化がいっそう進展する。〈寄留手続令〉(1914公布)は寄留簿を〈世帯ヲ同クスル者ニ付テハ世帯毎ニ区別シテ編製〉することと規定し,世帯主には寄留に関する届出義務を課すことにしている。これは,寄留簿に記載される現実の生活共同体を把握するため,行政手続用語として世帯を導入したのであり,新しい世帯概念が国の法令条文中に登場した最初のものといえる。…
※「寄留」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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