( 1 )日本では縄文時代の土製のものがみられるが、青銅の鈴がつくられたのは古墳時代以降である。
( 2 )令制下の駅制においては、馬に乗る身分証として「駅鈴」が用いられた。寺院の幡(ばん)や社寺の華鬘(けまん)にもつけられる。神社拝殿の鈴などは、鈴の音に邪気を払い神を招く役割をになわせたものである。
振り鳴らす発音具の一種。世界の諸民族の間で共有され、日本にも古くから伝えられてきた。青銅、金銅、銑(あらがね)、金銀などを用いた金属製のもののほかに土、木製などがある。いずれも球形のものに裂け目をつくり、空洞内に丸く固めた小球を入れ、これを振って鳴らす。江戸後期の国語辞書『和訓栞(わくんのしおり)』(谷川士清(たにがわことすが)編)には、その音が澄んでいる涼しさからこの名がついたとある。鈴を打ち鳴らせば悪魔をはらう呪力(じゅりょく)があると信じられ、神事の祭具などに用いられたのが起源と思われる。それがさらに清らかな音を伴う魔除(まよ)けの装身具類にも発達した。古墳文化時代の墳墓の副葬品や埴輪(はにわ)の土人形にもそれがみられる。手や足につけたり、鏡などの品に固着したりした。『古事記』には、犬や鷹(たか)など飼っている動物類につけたことがすでに記されている。馬具にも用いた。岩手県滝沢市の鬼越蒼前(おにこしそうぜん)神社(旧駒形(こまがた)神社)に飼い馬の安泰を祈って参詣(さんけい)する「ちゃぐちゃぐ馬こ」の祭礼は、これら「南部馬」の首に飾った鈴の音から生まれた名称である。また律令(りつりょう)時代には朝廷から出張する官人に支給した駅鈴(えきれい)があり、これを鳴らして各駅で馬を徴発したりするのに用いられた。
鈴には球形のほかに釣鐘形のものがあり、古代には鐸(たく)といい銅や青銅製の大形のものの中に舌(ぜつ)を吊(つ)るし振り鳴らした。楽器として用いられたとも思われる。現代では小形のもので鋳物、ガラス製の風鈴類がある。一般参拝者が神前で振り鳴らす大鈴もある。振り鳴らす小形のこの種の鈴は、中世から狂言・能、江戸時代の歌舞伎所作事(かぶきしょさごと)などにも取り入れられた。土製は、土鈴(どれい)とよばれて素朴な音色と多種多様な形態のものが、全国各地の神社で授与されており、郷土玩具(がんぐ)のなかでも特異な位置を占めている。江戸時代初期、京の伏見(ふしみ)人形の一つとしてつくられたのが始まりとされる。富山県の蛇の目鈴、英彦山(ひこさん)神社(福岡県)のガラガラ鈴、金桜(かなざくら)神社(山梨県)の虫切り鈴などが知られ、江戸中期の国学者で『古事記伝』を完成させた本居宣長(もとおりのりなが)は、鈴を愛して「鈴屋(すずのや)」と自ら号した。
[斎藤良輔]
楽器としての鈴は、その形態から、割れ目のある中空の器体内部に丸(がん)(適度な重さと堅さをもつ小物体)を封じ込めたものと、小形のカップ状で内部に舌(ぜつ)(打ち棒や小球など。クラッパーともいう)を取り付けたもの(ベル)の2種に大別される。両者とも楽器自体を振って鳴らすが、その発音原理から、前者は振奏体鳴楽器(ラットル)、後者は打奏体鳴楽器に分類される。どちらの形もアジア全域、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカで古くから用いられている。
日本には、神楽鈴(かぐらすず)や三番叟(さんばそう)の鈴などの容器状のもの、金剛鈴(こんごうれい)などのベル形のものがある。神楽鈴は、1本の柄の先にいくつかの鈴を取り付けたもので、古代以来巫女(みこ)の舞に使われている。一方、同形のものが呪師(じゅし)の芸能に用いられ、能楽の『翁(おきな)』の三番叟や歌舞伎(かぶき)舞踊、民俗芸能に残っている。金剛鈴は柄のついた手鈴(しゅれい)の一種で、仏教の法会(ほうえ)で用いられる。天台宗や真言宗の鈴(れい)は柄に5種の形があり、五種鈴とよぶ。インドネシアのバリ島では、グントラクとよばれる木製の枠に複数の小さなベル形の鈴を吊るしたものが用いられている。インドでは、ヒンドゥー教が紀元前6世紀には容器状の鈴を取り入れ、とくに鈴を足につけて踊ることが神を喜ばせる行為とされ、今日もマニプリ・ダンスやカタック・ダンスに使用されている。
アフリカでは、ベル形の鈴が行進の音楽や舞踊で盛んに用いられる。容器状の鈴は、ベル形に比べて、より強い魔力をもつと考えられ、みだりに使用されない例が各地にある。
南アメリカのプレ・インカ期の遺跡から出土される金や銀製の容器状の鈴は、儀礼の道具として、また舞踊の装身具として用いられた。今日でも伝統的な祭りでは、この種の鈴を足首につけて行う舞踊が多い。ヨーロッパ人の侵入以前のアメリカ大陸では、ベル形は比較的少ない。
ヨーロッパでは、教会の鐘が発達したため、ベル形の鈴が非常に目だつ。遅くとも14世紀には、ベルをいくつかセットにしたベル・チャイムで音楽的表現を行う試みがみられる。のちに奏法や装置がくふうされ、鍵盤(けんばん)操作や機械仕掛けで複数のベルを鳴らすカリヨンcarillon(フランス語)が発達した。近年では、電気や圧縮空気を利用した自動演奏装置付きのものもみられる。また、ハンド・ベルとよばれるハンドル付きの小形ベルは、本来イギリスで教会の組鐘を何人かで鳴らす技巧練習用であったが、今日ではそれから独立して、数人があわせて音楽を演奏する形態ができあがっている。
[卜田隆嗣]
中空の身の中に,丸(がん)を封じた楽器,鳴物。身は球形で一端に細い口(鈴口(すずくち))をあけるのが一般であるが,扁平なものや砲弾形,多角形のものもあり,また何ヵ所もの口をあける場合がある。比較的小型で,金属のほか土や木でもつくられ,吊り下げるための鈕(ちゆう)をもつ。〈がらがら〉などと同じように,乾燥した木の実などに,その原型を求める説もある。
日本では古く〈須須(すず)〉と書かれ(《和名抄》),その語源は朝鮮語起源説(《東雅》),〈音の涼しきより名づくならむ〉(《和訓栞(わくんのしおり)》)などと諸説あるが,明らかではない。今日用いる〈鈴〉の字は,中国では本来,構造の異なる青銅製の2種の〈カネ〉(鐘)を指している。一つは上述したような〈スズ〉で,いま一つは〈レイ〉である。レイは有鈕有舌,すなわち筒状の身の閉じた方の端に鈕をそなえ,もう一端は開いて終わり,内側に発音用の棒(舌(ぜつ))を吊して,これが身を打って発音する。このレイを日本では,銅鐸,風鐸,馬鐸などのように,古くから鐸(たく)と呼ぶ。しかし中国で鐸とするのは有柄有舌のカネで,鈕によって吊り下げるのではなく,把手をそなえ,これを握って揺らし鳴らすものをいう。しかもこれに対しては,日本では密教法具の金剛鈴(こんごうれい)のように〈レイ〉と呼び,鐸と鈴(れい)の関係が逆転しているので注意を要する。
先史時代以来,粘土をこね焼成してつくった土鈴(どれい)は,世界各地で知られている。青銅のスズは,他の器物と一体につくられた付属のスズが中国では殷代に始まり,単体の独立したスズは,それより遅れるらしい。戦国時代のころには,中国北方および西方にかけての遊牧民の間でスズ付きの竿頭が発達し,西はヨーロッパ,東は朝鮮半島にも及んだ。日本では縄文時代に土鈴ともみられる土製品があるが,青銅のスズが伝わったのは古墳時代で,独立のスズには馬具の一種である馬鈴(ばれい)があり,犬や鷹狩りの鷹にスズを付けたことも埴輪から知られる。付属のスズには鈴鏡(れいきよう),鈴釧(すずくしろ),環鈴(かんれい)(3個のスズを銅鐶でつなぎ,三環鈴(さんかんれい)とも呼ぶ)など,日本独自のものもある。古代以来,寺院の幡(ばん),社寺の華鬘(けまん)にもスズが付けられ,駅馬を使う資格の証(あかし)としては,大化(645)以来,駅鈴(えきれい)が用いられた。神社の拝殿のスズ,神楽用のスズは,神霊を招き邪悪を払うものとされ,寺院の鐘や鰐口(わにぐち)とともに,人びとと神仏を結ぶ役割を担ったといえよう。
一方,日本で鐸と呼びならわしたレイは,中国では殷・周代以来,青銅器や旂(き)(一種の旗),佩(はい)などに吊された。また家畜の頸(くび)につるすレイも大いに発達した。古代西アジアやその以西に分布する家畜のレイは,中国起源ともいわれる。家畜用のレイは,戦国から漢代にかけて朝鮮半島にも伝わり,独自の朝鮮式小銅鐸が生まれ,日本の九州にまで及んでいる。ただし稲作の伝来に際して家畜を伴わなかった日本では,レイが祭儀に用いられる銅鐸として発展し,ついには音を出さない〈見る銅鐸〉となった。これとは別に,古墳時代になってレイが伝わり,馬鐸と呼ばれるが,これも中国ふうにいえば〈馬鈴〉である。平安時代初期に,空海ら入唐八家がもたらした密教法具のレイは金剛鈴と総称され,把手の形によって独鈷鈴(どつこれい),三鈷鈴,五鈷鈴,九鈷鈴,宝珠鈴,塔鈴などがあり,また身の部分の装飾によって,三昧耶鈴(さまやれい),種字(梵字)鈴などがある。
スズは,余韻がない,という音の性質から,ほとんどの場合,人間や動物の動きに伴う用い方がなされる。牛やヤギ,羊,また馬などにつけられる鈴は,その位置を知らせたり,動きを華やかにすると同時に,蛇などの害獣から守るためのものとも考えられた。踊りや宗教的祭儀では,スズを体につけたり,またうち振ったりされたが,多数のスズを互いに触れ合わないよう間隔をあけて紐などに結びつけたものを,手,足,胴に巻きつけ,拍を強調しながら踊る例は,インド,アフリカ,ヨーロッパなどの広範囲でみられる。また鈴は魔よけとも考えられ,中世ヨーロッパには衣服の装飾を兼ねて縫いつけられた例がある。日本でも子どもの衣服やはき物,また財布などの小物にスズをつける習慣があるが,これも本来,魔よけなど中世ヨーロッパの例に類するものであろう。
→鐘
執筆者:佐原 眞+郡司 すみ
〈鈴〉の字をレイと読む場合,日本では有柄有舌の体鳴楽器,すなわち把手をもち内部に舌(ぜつ)を吊るして,振ると舌が本体の内側を打って発音するものをいい,一般には密教法具の金剛鈴(こんごうれい)を指す。しかし中国で〈鈴〉とするものは,スズや日本のレイと異なり,有鈕有舌の鐘(かね),すなわち吊り手をもち,内部に舌を吊るすものをいい,日本ではこれを古くから鐸(たく)と呼んでいる。さらに中国ではレイにあたる有柄有舌のものに鐸の字を用いており,混乱を招きやすい。
金剛鈴は金剛杵(しよ)とともに,密教教義に即した機能と形状を有している。金剛杵が煩悩を破る武器としての形状を杵の両端に示しているのに対して,金剛鈴は仏を驚覚・歓喜させる目的で手で振り鳴らすベルであり,小さな釣鐘状の響銅(さはり)製本体に,内部に吊るした舌が当たって澄んだ音がする。保持するための柄の先が金剛杵の片側と共通する形状で,その部分の形の差異により,独鈷(どつこ)鈴,三鈷鈴,五鈷鈴,宝珠鈴,塔鈴などと呼ばれる。密教法会で導師が用いるが,似た形状の鈴を御詠歌の伴奏にも用いる。この他,仏教楽器で鈴とも称されるのは,柄のついた球状の本体に一文字の割れ目があり,中の球が触れて音がする鐃(によう)(金鐃(こんによう))である。南都の悔過(けか)系法要で大導師や呪師などが用いる。
→鐘,鉦 →鈴(すず)
執筆者:高橋 美都
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…響銅製で小さな鉢の形をしており,下に座布団を敷き,細い金属製の棒,または木製の細棒で縁を打って音を出す。鏧,鏧子(けいす),小鏧(しようきん),鋺(金椀)(かなまり),鈴(りん)などともいう。また打鳴は寺院で用いる大型のものを指す場合もある。…
…身の他端は,梵鐘(ぼんしよう)(=釣鐘)のように開いて終わるものが多い。しかし鈴(すず)のように包まれた形のものもある。発音のための構造としては,ヨーロッパの教会の〈鐘(かね)〉や家畜のベルのように身の内側に舌(ぜつ)clapperとよぶ棒をつるす場合と,鈴のように丸(がん)を入れる場合,舌,丸いずれももたない場合がある。…
…第2の鋪設用祭具は祭場の神座をしつらえ,幣帛を包む薦(こも),食物をすえる麻簀(あさす),案・机の上下に敷物として用いる蓆(むしろ),畳,茵(しとね)などである。第3の装飾用祭具としては榊,注連(しめ),鈴(すず),鰐口(わにぐち)があげられている。榊は栄木(さかき)で常緑樹の総称であったが,後に一種の樹を特定して指すようになった。…
…前者は〈やまとぶえ(大和笛,倭笛)〉と呼ばれ,後者は〈つづみ(鼓)〉と呼ばれる。鈴も喜ばれたらしい。1943年,静岡市郊外の登呂遺跡から,小型の5弦琴らしいものが発見されたが,その後,千葉県,滋賀県,福岡県などからも発掘された。…
…古墳時代の仿製鏡(ぼうせいきよう)の一種。円盤形で,背面を図像文様で飾り,その中央に半球形の鈕(ちゆう)をそなえる点では,他の仿製鏡と同じであるが,周縁に球形に近い鈴が突出付加された形状となったもので,本来鏡のもった映像反射機能をほとんど失って音響発振具と化した,鏡としては日本独自のものである。鈴部分は,鏡本体部分と同一の鋳型で同時に鋳造したもので,別に製作した鈴を本体に接合したものではない。…
…中空の身の中に,丸(がん)を封じた楽器,鳴物。身は球形で一端に細い口(鈴口(すずくち))をあけるのが一般であるが,扁平なものや砲弾形,多角形のものもあり,また何ヵ所もの口をあける場合がある。比較的小型で,金属のほか土や木でもつくられ,吊り下げるための鈕(ちゆう)をもつ。…
…〈どう〉ともいう。鉦(かね)・銅鑼(どら)の類,鈴(れい)類,銅鈸(どうばつ)類のいずれについても用いられた名称。古代中国では舌をもたない大型の鈴をいい,のちには舌をつけたものも指す。…
※「鈴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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