小督(読み)コゴウ

デジタル大辞泉 「小督」の意味・読み・例文・類語

こごう〔こがう〕【小督】

中納言藤原成範ふじわらのしげのりの娘。高倉天皇に愛されたため、建礼門院の父平清盛によって追放された。小督のつぼね。生没年未詳。
謡曲四番目物金春禅竹こんぱるぜんちく作。高倉院の命を受けた源仲国が、名月の夜に嵯峨野さがの法輪寺辺で、琴の音に導かれて小督の局を捜しあてる。
箏曲そうきょく山田検校作曲。横田岱翁の作詞という。平家物語題材をとる。山田流四つ物の一。

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精選版 日本国語大辞典 「小督」の意味・読み・例文・類語

こごう こがう【小督】

[一] 中納言藤原成範(しげのり)の娘。はじめ冷泉少将隆房と愛し合ったが、建礼門院徳子の命で入内。高倉天皇の寵愛により平清盛に憎まれ、嵯峨野に身を隠したが、勅使、源仲国に捜し出され、宮中に戻り、範子内親王を産んだ。後に清盛に捕えられ、二三歳のとき尼にされて追放された。「平家物語‐巻六」に小督局の章がある。
[二] 謡曲。四番目物。各流。金春禅竹作。古名「仲国」。高倉院の命を受けた勅使、源仲国は、中秋名月の夜、法輪寺近くで琴の音を聞いて小督の隠れ家を捜しあて、院の御書を渡す。
[三] 箏曲。横田岱翁(たいおう)作詞。山田検校作曲。正称「小督の曲」。「平家物語」に題材をとる。山田流四つ物の一つで、気品の高い美しい曲。

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改訂新版 世界大百科事典 「小督」の意味・わかりやすい解説

小督 (こごう)

(1)平曲の曲名。平物(ひらもの)。フシ物。高倉天皇のもとに小督という美女が居た。中宮が上がらせた女で琴の上手だった。小督には冷泉少将(れいぜいのしようしよう)が心を通わせていたが,帝に召されてからはすげない応対であった。中宮の父で少将の義父に当たる清盛が怒っていると小督は知り,ひそかに身を隠した。帝の嘆きはひと通りでなく,夜は月ばかりを眺めていた(〈中音(ちゆうおん)〉)。八月十五夜の夜更け,源仲国が帝に召され,嵯峨野にあるらしい小督の隠れ家を訪ねるように命じられた。仲国は御所に笛の役で出仕したおりに小督の琴と合奏したことがあった。今夜は名月だから小督は琴を弾くに違いないと思いつつ,仲国は馬を走らせた。牡鹿鳴くこの山里と和歌に詠じられた嵯峨野の秋は,もののあわれもひとしおだったが,片折戸の小邸をつぎつぎに回ってみても琴の音はなかった(〈中音・初重(しよじゆう)〉)。もしやと法輪寺の方へ行くと物音が聞こえる。峰の嵐か松風かと近づくとまさしく小督の琴の音で,しかも夫を思って恋うという名の想夫恋(そうふれん)の曲だった(〈三重(さんじゆう)〉)。仲国はおして対面し,帝の御心を伝え,返事を受けて邸を出た。内裏では帝が夜を明かして待っていたので,委細を奏上し,また勅命によって後日小督を連れ戻って内裏の片隅に忍ばせた。やがて姫宮が誕生したが,清盛の知るところとなり,小督は尼にさせられた。この件が原因でか帝は病死した。帝の父後白河法皇は,〈悲しみの至って悲しきは,老いて後子に後れたるより悲しきはなし……〉という詩を思い起こした(〈三重〉)。平曲の中でもっとも長文の曲の一つで,中音・三重などが聞きどころ。(2)能の曲名。四番目物現在物作者不明。金春禅竹(こんぱるぜんちく)作ともいう。シテは源仲国。仲国が勅命を受けるところから,小督(ツレ)の隠れ家を辞去するところまで平曲の筋を舞台化した能だが,辞去の前に仲国が杯を受けて舞を舞うというように仕立ててある。嵯峨野を馬上で尋ね回る所(〈駒ノ段〉),帝の心を知った小督の感慨(〈クセ〉),仲国の舞(〈男舞〉)が中心。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小督」の意味・わかりやすい解説

小督
こごう

能の曲目。四番目物。五流現行曲。金春禅竹(こんぱるぜんちく)作。『平家物語』巻6の「小督事」によった叙情的な現在能である。平清盛(きよもり)を恐れて身を隠した小督の局(つぼね)のことを深く嘆かれる高倉(たかくら)天皇。勅使(ワキ)は弾正大弼仲国(だんじょうのだいひつなかくに)(シテ)にその捜索を命ずる。場面は嵯峨野(さがの)に変わり、小督(ツレ)と侍女がわびしく住んでいる。宿の主が都の高貴な女性を泊めていることを語り、名月の夜とて琴を所望する。小督の身の上の嘆き。後シテは馬上の態で登場。「駒(こま)の段」とよばれ、月下の嵯峨野の描写が美しい。『想夫恋(そうぶれん)』の琴の音を聞きつけ、仲国は案内を請い、身分を明かそうとせぬ小督に天皇の嘆きを伝え、御書を渡す。玄宗と楊貴妃(ようきひ)の悲恋を引いて、つらい小督の恋心が語られ、仲国は小督に宮中へ帰られるよう説得する。直接の返事を手にした仲国は、別れの宴にさわやかに舞う。

 これを箏曲(そうきょく)に写した山田流の大曲に、山田検校(けんぎょう)作曲『小督』がある。また、新歌舞伎(かぶき)十八番に福地桜痴(おうち)作『雪月花三景(みつのながめ)』(通称「仲国」)があり、長唄(ながうた)にも『嵯峨秋』があるが、ともに明治期の作である。

[増田正造]

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百科事典マイペディア 「小督」の意味・わかりやすい解説

小督【こごう】

能の曲名。四番目物五流現行。題材は《平家物語》巻6によるが作者不詳(一説に金春禅竹作とも)。高倉天皇の愛人小督の局に宣旨を伝えるため,源仲国が隠れ家の嵯峨野を訪れる。

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