改訂新版 世界大百科事典 「山川イズム」の意味・わかりやすい解説
山川イズム (やまかわイズム)
山川均によって提唱された,1920年代前半の日本マルクス主義の指導理論。1922年に発表された山川の《無産階級運動の方向転換》(《前衛》7・8月合併号)は,創設されたばかりの日本共産党の理論として,労働運動に大きな影響を与えた。とくに無政府主義的サンディカリスムが支配的であった労働運動の清算に少なからぬ役割を果たした。それは労働階級の解放は部分的な改良では無意味であり,資本主義の撤廃によってのみ達成されるという,観念的な革命主義に対する批判であり,革命的な意識に純化した少数先進者の孤立化状態から,大衆との結合を図るべき運動への方向転換であった。以後,運動は〈大衆へ〉〈政治闘争〉をスローガンに,大衆の現実的な要求に根ざすものとなり,運動の分裂を防ぐのに一役を担った。23年6月の第1次共産党事件後,山川は大衆の成長を待たずに前衛党を結成することの愚を説き,無産階級政治運動に戦線を拡大するための,単一協同戦線党論を展開した。それは労働組合,農民組合,思想団体などの協同戦線による,合法無産政党の結成をめざす運動論で,23年10月普通選挙法案が閣議で承認されると,無産政党組織運動として現れ,25年12月労働農民党(労農党)が結成された。しかし,この協同戦線党論は,福本和夫によって,政治運動と経済運動の折衷主義であると批判され(福本イズム),コミンテルンからは〈27年テーゼ〉で解党主義と批判された。以後,山川イズムは労農派にうけつがれた。
執筆者:大塚 孝嗣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報