群馬県みどり市笠懸町阿左美(かさかけちょうあざみ)の字岩宿から字沢田にわたって存在する縄文文化発生前の旧石器時代の遺跡。桐生(きりゅう)市の西郊、JR桐生駅西南西約4.4キロメートル、標高196.2メートルの三角点のある、南北にひょうたん形をした独立丘の中央鞍部(あんぶ)を北東から南西方向へ切通しで通ずる道路の両側を中心に、この丘陵地帯のほぼ全域にわたっているようである。
1946年(昭和21)、当時桐生市在住の一無名青年考古学研究家であった相沢忠洋(ただひろ)が、毎朝納豆行商をしながらこの切通しを通過し、崖(がけ)上畑面の黒土層よりかなり深い位置のローム層中に黒曜石片が介在するのを発見、不思議に思い、毎朝の通過のたび切通し崖面を観察、1949年早春ごろまでに十数片の黒曜石片をローム層中から採集した。同年夏にはついに黒曜石製の長さ約5センチメートルの石槍(いしやり)を発見、関東ローム層中にも、縄文文化以前の土器をもたない、上部更新世(洪積世)の旧石器時代人が生活していたことを確信し、これらの遺物を芹沢長介(せりざわちょうすけ)(1919―2006)、江坂輝彌(えさかてるや)(1919―2015)らに提示し、1949年9月、杉原荘介(そうすけ)(1913―1983)、芹沢ら明治大学文学部考古学研究室で発掘調査をした。表土近く堆積(たいせき)の黒色土層下部に縄文早期の稲荷(いなり)台式土器片などの遺物を発見し、ローム層面を約50センチメートル発掘したローム層中から瑪瑙(めのう)、黒曜石製の切出し型ナイフなどの小形石器を発見。ローム層上面から約1メートルの下位にその下約40センチメートルの厚さに黒みを帯びた有機質を含むローム層があり、この層中から頁岩(けつがん)製の大形ブレード、握槌(にぎりつち)状石器などを発掘した。杉原は上部を岩宿Ⅱ、下部を岩宿Ⅰ文化と命名した。明治大学による本遺跡の発掘調査が今日の日本旧石器文化の本格的研究への端緒になったものであり、相沢忠洋の発見は、日本考古学史上に不朽の業績として記録されるべきものである。
1970年この岩宿Ⅰよりさらに下層、下末吉(しもすえよし)ローム該当層から、早水台(そうずだい)、星野(ほしの)にも匹敵する前期旧石器文化の文化層(「珪岩(けいがん)製旧石器」群)が発見され、芹沢長介が調査、岩宿ゼロ文化と名づけている。1979年国史跡に指定された。出土品は国指定重要文化財。
[江坂輝彌]
『杉原荘介著『群馬県岩宿発見の石器文化』(1956・明治大学)』▽『相沢忠洋著『岩宿の発見』(講談社文庫)』
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
第2次大戦後まもなく相沢忠洋が発見し,1949年明治大学考古学研究室が発掘調査して,洪積世にさかのぼる,縄文時代以前の先土器時代文化が日本に存在することを,最初に確認した学史的に記念すべき遺跡。遺跡は赤城山南麓の群馬県みどり市の旧笠懸町岩宿にあって,地表下約50cm以下に堆積するローム層中に,特徴の異なる二つの石器文化層が認められた。上層の黄褐色ローム層(阿左美層)にはナイフ形石器(切出状),削器などの小型剝片石器を主とする岩宿Ⅱ石器文化が,また下層の暗褐色粘土層(岩宿層)中からは,刃部を磨いた特徴的な楕円形石器(敲打器)や大型の石刃からなる岩宿Ⅰ石器文化が層位的に出土した。こうした石器群が無遺物層とされてきた火山灰層(ローム層)から出土したこと,縄文土器を全く伴わないことなどが,この発掘で明らかにされ,日本の先土器時代文化の発見と研究は飛躍的に進展した。
→旧石器時代
執筆者:戸沢 充則
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群馬県みどり市笠懸町の赤城山東南麓大間々扇状地の孤立丘上にある旧石器時代遺跡。1946年(昭和21)相沢忠洋によって関東ローム層中から黒曜石の剥片(はくへん)が土器を伴うことなく発見された。1949・50年相沢と杉原荘介らの発掘で,日本で最初に旧石器時代遺跡であることが確認された。縄文時代以前に人類生活の痕跡はないとする日本考古学界の定説がくつがえされ,1万年前の更新世の旧石器時代研究がここに開始された。調査では礫群や炭化物片とともに層位的に文化層が検出され,その後の研究の基盤が得られた。岩宿Ⅲ石器文化は尖頭器(せんとうき)文化,岩宿Ⅱ石器文化は切出形石器を伴うナイフ形石器文化,岩宿Ⅰ石器文化は局部磨製石斧を伴うナイフ形石器文化初期の所産である。出土石器は重文に,遺跡は国史跡に指定され,岩宿博物館がある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
(天野幸弘 朝日新聞記者 / 今井邦彦 朝日新聞記者 / 2007年)
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