大峰入りの略,入峰(にゆうぶ)ともいう。修験道独特の厳しい修行で,原初形態は葛城山や大峰山で苦行し鬼神を駆使したと伝える役小角(役行者(えんのぎようじや))などの山林抖藪(とそう)にみられる。平安時代の比叡山に始まる回峰行との関連も考えられるが,熊野三山信仰が盛んとなった平安中期,入末法(1052)前後から埋経の聖地となった吉野金峰山(きんぷせん)を連ねる大峰山を仏・菩薩の曼荼羅とみなし,120宿(現在は75靡(なびき))を備えた山の道で結び,いわゆる〈擬死再生〉の十界修行などを重ねて即身成仏の修験者となり,人々を救済しようという峰入りの修行が成立したと思われる。《山伏帳》(1366)によれば春・夏・秋・冬四季の入峰が鎌倉時代初期には記録され,胎蔵界熊野から峰入りして金剛界吉野へ出峰するのを〈順峰(じゆんぶ)〉,その反対を〈逆峰(ぎやくぶ)〉とした。大峰山では大先達をリーダーに聖・俗人の集団が参加する峰入りに発展する過程で,本山派と当山派を生じたが,羽黒山,日光山,白山,伯耆大山,彦山,阿蘇山をはじめ,各地の霊山も大峰山を模した独自の金剛界・胎蔵界を設定して峰入りを行った。その最盛期は室町時代である。江戸時代にはコースの短縮や修行の略勤も目だつが,彦山派の例では男子15歳ころから成人・入門の通過儀礼となっていた。明治以後,諸山の峰入りが断絶したなかで,現在も羽黒山は四季の入峰,大峰山では聖護院による奥駈,三宝院による花供入峰が続いており,諸山に残る講による登拝とともに,日本人の伝統的な登山形態として注目される。
執筆者:長野 覚
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…灌仏会と結合している点も多いが,元来は農事開始に先だって,山から祖霊なり田の神なりを迎えてきて祭ることを目的としたものだと解釈されている。また,山伏の春の峰入りは,このような山籠の信仰を背景にしたものかともいわれている。歌垣毛(もう)遊び【田中 宣一】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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