産業財産権にかかわる手続を代理することができる国家資格を有する者をいう。弁理士法は、「弁理士の使命」として、「知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする」と定めている(同法1条)。
弁理士の業務については、弁理士法が、「他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠若(も)しくは商標又は国際出願、意匠に係る国際登録出願若しくは商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、実用新案、意匠又は商標に関する行政不服審査法(中略)の規定による審査請求又は裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理並びにこれらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務を行うことを業とする」と定めている(同法4条1項)。
しかし、弁理士の業務はこれにとどまらない。特許庁における取消決定または審決に関して知的財産高等裁判所で訴訟代理人となり、特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り訴訟代理人(付記特定侵害訴訟代理人)となり、侵害訴訟において、補佐人となることができる。
また、裁判外の紛争解決手続について、産業財産権またはJPドメイン名に関する日本知的財産仲裁センターの手続きや、半導体集積回路の回路配置利用権または特定不正競争に関する代理、税関における輸出入差止め申立手続きでは権利者のみならず輸入者や輸出者の代理も行う。
弁理士制度は、1899年(明治32)に日本が工業所有権保護同盟条約(パリ条約)加盟した際に、「特許代理業者登録規則」が発布されたのが始まりとされている。1909年(明治42)には、特許法に特許局への手続等は特許弁理士でなければ行うことができないこと、および特許弁理士以外が代理を行った場合の罰則規定が初めて設けられ、「特許代理業者」の名称が「特許弁理士」に改められた。1921年(大正10)には、弁理士法が制定され「特許弁理士」の名称が「弁理士」と改められた。弁理士法は多くの一部改正を経て、2000年(平成12)に全面改正された。
弁理士の資格は、弁理士法に定められており、毎年一回行われる弁理士試験(国家試験)に合格した者、弁護士となる資格を有する者、特許庁で審判官または審査官として審判または審査の事務に従事した期間が通算して7年以上になる者であって、実務修習を修了していなければならない。弁理士の業務を行うには弁理士登録をしなければならない(同法17条)。なお弁理士としての登録者数は、1899年末時点で138名であったが、2020年(令和2)3月末現在1万1460人(特許業務法人を除く)である。
有用な発明であっても特許として強い権利をとるためには、経験を積んだ弁理士を利用することが肝要である。弁理士の品位を保持するなどのため、日本弁理士会が弁理士法に基づき弁理士の指導、連絡および監督を行っている。日本弁理士会には会員や弁理士試験合格者のための研修を行う研修所、知的財産を研究する中央知的財産研究所、知的財産権に関する紛争の仲介を行う日本知的財産仲裁センター等が設置されている。
[角田政芳 2021年4月16日]
『日本弁理士会編著『弁理士白書』平成26年度版(2015・日本弁理士会) https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/05/benrishihakusyo_all.pdf』▽『奥田百子著『こんなにおもしろい弁理士の仕事』第4版(2018・中央経済社)』▽『日本弁理士会編・刊『弁理士Info』(2019・日本弁理士会)』
工業所有権諸法に定められた手続のなかには,特許庁に対して行う事項と通商産業大臣に対して行う事項とがあり,前者には特許,実用新案,意匠,商標,または国際出願があり,後者には,これらに関する異議申立てまたは裁定がある。弁理士とは,これら一連の事項の代理,鑑定,その他の事務を行うことを業とする者をいう(弁理士法1条)。弁理士の制度は,1889年の〈特許代理業務者登録規則〉に始まり,1909年の〈特許弁理士令〉に変わってからは特許弁理士と呼ばれた。21年,特許制度の改正に伴って新たに弁理士法が制定され,以後,単に弁理士と呼ばれ今日に至っている。弁理士の資格,登録,権利・義務等は,21年の弁理士法で定められている。弁理士になろうとする者は,弁理士会に備える弁理士登録簿に登録を受けることを要する(6条2項)。弁理士となる資格を有するためには,日本国民または通商産業大臣の定めるところにより外国籍を有する者で成年者であること,国内に住所を有すること,および弁理士試験に合格したこと,の三つの条件を備えなければならない(2条)。ただし,弁護士の資格を有する者,特許庁において7年以上審判官または審査官として審判・審査の事務に従事した者は,弁理士試験を必要としないで,弁理士の資格を有する(3条)。弁理士は,弁理士の品位を保持し,業務の改善進歩を図る目的で設けられる弁理士会の会員となる(11条,12条の2)。弁理士会は,会の秩序または信用を害するおそれのある者を退会させ,必要ある場合には,特許庁長官を経由して通商産業大臣に対し,弁理士の懲戒を申告することができる(16条,19条)。なお,弁理士でない者は,報酬を得る目的で,法が弁理士の行うものとしている業務を業として行うことを禁止され,また,利益を得る目的で弁理士,特許事務所その他これに類似する名称を使用することを禁止され,これらに違反した場合には刑罰に処せられる(22条の2~22条の4)。
執筆者:三平 圭祐
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