民事訴訟法上は、訴訟代理権を有する者をいい、刑事訴訟法上は、例外的に認められた訴訟行為を代理する者をいう。
[内田武吉・加藤哲夫]
民事訴訟における訴訟代理人は、訴訟遂行のための代理権をもった任意代理人のことである。任意代理人は、その選任が当事者たる本人の意思に基づく点で法定代理人とは異なる。民事訴訟法第54条は、次の2種類の訴訟代理人を認めている。
(1)当事者の個別的授権による訴訟代理人(狭義の訴訟代理人) この代理人は原則として弁護士でなければならないが、簡易裁判所においては許可を得て弁護士でない者を訴訟代理人にすることができる。
(2)その資格に基づく訴訟代理人 これは本人の業務につき包括的な代理権を法令上与えられており、その結果、裁判上の行為をする権限をも包含している法令上の代理人で、たとえば支配人(会社法11条1項)、船舶管理人(商法700条)、船長(同法713条)などである。法令上の訴訟代理人の権限は、もっぱら当該関係法令によって定まる。
訴訟委任による訴訟代理人の権限も法定されており(民事訴訟法55条1項、2項)、これを制限することはできない(同法55条3項)。代理人が法律専門家たる弁護士であることを信頼し、訴訟手続の円滑な運営を期待できるからである。
[内田武吉・加藤哲夫]
刑事訴訟法では、法律上訴訟行為の代理を認めたのはごくわずかな場合にすぎない。すなわち、被告人が法人のときはその代表者が、被告人が特定の事件について意思無能力者である場合にはその法定代理人が、訴訟行為を代理し(刑事訴訟法27条、28条)、また、被告人が法人である場合および軽微な事件については公判期日に代理人の出頭を許し(同法283条、284条)、さらに弁護人に対し独立代理権を認め(同法41条)、告訴およびその取消しの代理を認めている(同法240条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
民事訴訟において,訴訟追行のための包括的な代理権を持つ任意代理人をいう。究極的には本人の意思に基づく代理人(これを任意代理人という)である点で,本人の意思と無関係の法定代理人とは異なる。
訴訟代理人には,一定の地位(支配人,船舶管理人,船長)に法令が訴訟代理権を与えるという形のもの(法令上の訴訟代理人)と,本人が直接に訴訟代理権を与える形のもの(訴訟委任に基づく訴訟代理人)の2種類がある。前者も,ある者をそのような地位につかせるか否かは本人の意思によるのであり,やはり任意代理人である。後者の訴訟委任に基づく訴訟代理人は弁護士の中から選任しなければならない。ただし,簡易裁判所では裁判所の許可を得れば,弁護士でない者も訴訟代理人になることができる(民事訴訟法54条)。訴訟には必ず弁護士たる訴訟代理人を付けなければならないとする国もあるが(弁護士強制主義,ドイツがその例),日本は,訴訟委任をするか否かは本人の自由とし(本人自身が追行する訴訟を本人訴訟という),ただし訴訟委任をするのであれば弁護士に頼まなければならないとする方式を採る(弁護士代理の原則。もっとも,国ないし行政庁はその職員を代理人にすることができる)。
訴訟代理人の行為の効果が本人に及ぶことは民法の代理と同様であるが,代理権の範囲は法定されている。法令上の訴訟代理人の代理権の範囲はそれぞれの根拠法令による(商法38条1項,700条,713条)。弁護士たる訴訟代理人は,引き受けた事件の処理に必要な包括的代理権(たとえば,弁済の受領,仮差押え,仮処分,強制執行)を持つものとされ,本人もこれを制限することはできない。ただし,事件処理の通常の範囲を超える請求の放棄,和解,上訴の提起等には本人からの特別の授権が必要である(民事訴訟法55条)。訴訟代理人がいても本人の訴訟追行が排除されるわけではなく,本人もまた弁論ができる。また,本人が訴訟代理人を解任することもできる。ただし,法律関係の明確さのため,代理権の消滅は相手方に通知しなければ訴訟上の効果を生じない(59条)。他方,本人が死亡したり(自然人の場合)合併したり(法人の場合)したとしても,代理権は当然には消滅しないとされている(58条)。訴訟はなお続くからである。
なお,刑事訴訟でも,法人が被告人であるときにその代理者,被告人が意思無能力者であるときにその法定代理人が,訴訟行為の代理権を持つとされているが(刑事訴訟法27条,28条),これらは民事訴訟法の訴訟代理人の概念とは異なる。刑事訴訟において民事訴訟の訴訟代理人に対応するものは弁護人である。ただし,弁護人は被告人の保護者の地位をも有し本人の持たない権利を与えられていることもあり,訴訟代理人の枠を超えるところもある(刑事訴訟法41条参照)。
執筆者:高橋 宏志
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