(読み)いじる

精選版 日本国語大辞典 「弄」の意味・読み・例文・類語

いじ・る いぢる【弄】

[1] 〘他ラ五(四)〙
① 弱い者を困らせたり、苦しめたりする。からかったり、いじめたりする。ちょっとしたことをこせこせ言う。
※茶屋諸分調方記(1693)二三「きはめのごとくはろふべしといぢるきゃくあり。もとより此いろ代のきわめなし」
浄瑠璃大塔宮曦鎧(1723)一「公家衆倒し、百姓虐(せた)げ、町人いぢり」
② 無理に求める。強要する。ねだる。
※浮世草子・好色一代男(1682)四「なれこ舞、何にても芸をせよといじる」
③ 指先でなでたり、ひねったりする。
※雑兵物語(1683頃)上「唐辛をおっつぶして、尻から足の爪さきまでぬれば、凍ゑないもんだぞ。〈略〉とっぱづして目なんどをいじった時、血目玉ががいにうずくべいぞ」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)前「糖(あめ)をいぢって、其指をなめては」
なぐさみに、収集物や器械などをもてあそぶ。ちょっとした物事を手先で扱う。自分の場合は謙遜の気持をこめていう。「庭をいじる」
※異端者の悲しみ(1917)〈谷崎潤一郎〉「寝床の上に据わりながら機械をいぢるぐらゐの事は出来たのである」
⑤ はっきりした方針や目的もなく、または、部分的に、物事にあれこれと手を入れて変えたり、動かしたりする。
抱擁家族(1965)〈小島信夫〉二「あわてて塀なんか、いじったりすると、何もかも台なしになる」
※笹まくら(1966)〈丸谷才一〉六「噂を手がかりにして人事をいじるわけにはゆきません」
[2] 〘自ラ五(四)〙 むずかる。
※信仰之道(1894)〈松村介石安心立命「泣けば勦(いた)はり、意地(イヂ)れば歉(すか)し」
[語誌](一)③の類義語として「もてあそぶ」「いらう」「なぶる」がある。「もてあそぶ」は奈良時代に見えるが、後世には、感情などの抽象的なものをも対象として表現するようになる。「いらう」は室町時代以降に見られ、現在は関西、中国地方で「いじる」の意で使われている。「なぶる」は、平安時代初期から現代まで「からかいもてあそぶ」意味で使われている。

いじく・る いぢくる【弄】

〘他ラ五(四)〙
① 指先でなでたりひねり回したりして、しきりにもてあそぶ。
※落語・殿様の廓通ひ(1890)〈禽語楼小さん〉「千松は庭へ下て雀を玩弄(イヂク)ッたり何かして居る」
② なぐさみに収集物や器械などをもてあそぶ。ちょっとした物事を手先で扱う。自分の場合にはへりくだる気持を含め、他人の場合には、やや軽べつの気持を含めていう。「数字をいじくる」
福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉雑記「君がこんな大造(たいそう)な長い刀を弄(イヂ)くると云ふのは、君に不似合だ」
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉風呂の後「斯う見えて盆栽も弄(イヂ)くるし、金魚も飼ふし」
③ はっきりした方針や目的もなく、または、部分的に物事にあれこれと手を入れて変えたり、動かしたりする。
※道程(1914)〈高村光太郎〉或る宵「誠意のない彼等は事件の人間をさし置いて唯事件の当体をいぢくるばかりだ」

いら・う いらふ【弄】

〘他ハ四〙 (「いろう(綺・弄)」の変化した語か)
① 物をいじる。もてあそぶ。さわる。
※虎寛本狂言・仏師(室町末‐近世初)「其うへいらふて見ましたればまだ人肌で御座った」
※あひゞき(1888)〈二葉亭四迷訳〉「『ヴクトル』は袂時計の鎖をいらひだした」
② 人をなぶる。からかう。おもちゃにする。
※浄瑠璃・極彩色娘扇(1760)六「あんまり深切が過て、人をいらふ様な言分(いいぶん)
③ 手を加える。手入れをする。修理する。
歌舞伎桑名屋徳蔵入船物語(1770)四「船宿するによって、裏の離れをいらうたばかり」
[補注]「いらふて」「いらうて」などは「イローテ」と読んだと思われるから、「いろう」と厳密には区別しにくい点がある。→いろう(綺)

ま‐さぐ・る【弄】

〘他ラ五(四)〙
① 手でいじる。てなぐさみにする。もてあそぶ。
落窪(10C後)一「琴を臥しながらまさぐりて」
② 手または足先をしきりに動かして、あたりを捜し求める。
※細君(1889)〈坪内逍遙〉二「懐膨らし草履をまさぐり貌は後ろを振返り」
③ 心の中をあれこれとたどってみる。思いめぐらす。思いまわす。
※死霊‐三章(1946‐48)〈埴谷雄高〉「それは誰しも少年期の涯もない憂愁のなかで一度は自身のなかにまさぐってみた最初の疑問に違いない」

ろう‐・する【弄】

〘他サ変〙 ろう・す 〘他サ変〙 (古くは「ろうず」)
① あざける。嘲弄する。また、からかう。ひやかす。なぶる。
※伊勢物語(10C前)九四「猶人をば恨みつべき物になんありけるとて、ろうしてよみてやれりける」
② 手に持って遊ぶ。もてあそぶ。また、自由勝手にあやつる。
※中華若木詩抄(1520頃)上「文章を弄じて、進士及第なんどをするに因たること也」
※思ひ出す事など(1910‐11)〈夏目漱石〉一四「まだ是程に機略を弄(ロウ)し得るものかと」

いじり いぢり【弄】

〘名〙 (動詞「いじる(弄)」の連用形の名詞化) いじること。また、いじめること。「庭いじり」「嫁いじり」などのように他の名詞と熟して使われる。
※黒潮(1902‐05)〈徳富蘆花〉一「政党いぢりは細君いぢめより猶(まだ)(いい)わ」
※唐人お吉(1928)〈十一谷義三郎〉序「古いもの弄(イヂ)りなど、余り好きでない」

ろう‐・す【弄】

〘他サ変〙 ⇒ろうする(弄)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「弄」の意味・読み・例文・類語

ろう【弄】[漢字項目]

常用漢字] [音]ロウ(漢) [訓]もてあそぶ
もてあそび楽しむ。「玩弄がんろう嘯風弄月しょうふうろうげつ
なぶりものにする。「愚弄嘲弄ちょうろう
思うままに操る。「弄舌翻弄

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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