房室ブロック(読み)ボウシツブロック

デジタル大辞泉 「房室ブロック」の意味・読み・例文・類語

ぼうしつ‐ブロック〔バウシツ‐〕【房室ブロック】

心臓を拍動させる電気刺激が、心房から心室に伝わりにくくなる障害。リウマチ熱冠動脈硬化・急性心筋梗塞心筋症などによる刺激伝導系の器質的病変が主な原因。心拍数が低下し、めまい・失神・息切れ・疲れやすいなどの症状が起こる。重症の場合、ペースメーカーによる治療が必要となることがある。AV(atrioventricular)ブロック

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内科学 第10版 「房室ブロック」の解説

房室ブロック(徐脈性不整脈)

(2)房室ブロック(atrioventricular block)
定義・概念
 房室ブロックは心房から心室への伝導途絶または伝導遅延を有するものと定義される.したがって,房室伝導系(房室接合部,His束,脚,Purkinje線維)の器質的障害によるものばかりでなく,副交感神経活動の過剰状態による機能的障害も含まれる.カテーテルを用いたHis束電位記録の開発によってブロックの部位同定や重症度評価が可能となった(Scherlag ら, 1969).また治療としてはペースメーカ治療が確立し,患者の予後やQOLが著しく改善した.
分類
1)原因と経過からの分類:
①急性または慢性,②機能的(一過性)または器質的.
2)伝導障害の程度とパターンによる分類:
洞調律時の心電図で第1度(図5-6-37A),第2度(図5-6-37B,C),第3度房室ブロック(図5-6-37D)に分類する.
3)伝導障害の部位による分類:
His束心電図で診断された障害部位または伝導遅延部位に基づいて以下の3つに分類する.①房室結節内ブロック(A-Hブロック,図5-6-38A),②His束内ブロック(H-H′ブロック,図5-6-38B),③His束下ブロック(H-Vブロック,図5-6-38C).
原因・病因
1)急性(一過性)房室ブロック:
虚血,急性リウマチ熱,心筋炎(ジフテリア,ウイルス性),迷走神経緊張,薬剤.
2)慢性(恒久性)房室ブロック:
特発性(変性),心筋症,慢性虚血性心疾患,石灰化弁,高血圧,浸潤(サルコイドーシス,ヘモジデローシス,アミロイドーシスなど),外傷(心臓手術で起こる房室ブロック),先天性,など.このうち特発性(変性)が最も多い.
疫学
 一過性のものとしては,急性心筋梗塞(特に下壁)の約8%に一過性房室ブロックを生じ,そのうち約5%が慢性房室ブロックに移行することが報告されている.また急性リウマチ熱では5.6%に一過性房室ブロックが認められるとされているが,多くは1度房室ブロックで高度房室ブロックはまれである.慢性の房室ブロックに関して,Harrisらは剖検例の検討で刺激伝導系における原因不明の線維化と硬化変性が慢性房室ブロックの約50%であったと報告している(Harris ら, 1969).これらの変性は冠動脈病変を伴わず,加齢による変化と考えられているが,高血圧,糖尿病,肺性心などの病気をもっている場合に起こりやすい.サルコイドーシスでは10〜20%に心病変が認められるが,サルコイドーシスの心病変は心室中隔に認められることが多いので,房室ブロックが発生しやすくサルコイドーシスの初発症状となる場合がある.最近,心筋Naチャネルの責任遺伝子(SCN5A)の異常で家族性房室ブロックが生じることが報告されている.
臨床症状
 房室ブロックの症状は,失神,全身倦怠感,息切れである.失神は,発作性房室ブロックまたはtorsade de pointes (QT延長を伴う多形性心室頻拍,図5-6-39)によることが多い(大江,2007).全身倦怠感・息切れは,第3度房室ブロックによる徐脈の場合が多い.第3度房室ブロックの身体所見として,頸動脈(左室収縮に対応)と頸静脈(右房収縮に対応)が別々に拍動しcannon波を認めることがある.またI音の強さが一定でないことも特徴である.第2度房室ブロックでは,脈が飛ぶのを自覚することがある.第2度房室ブロックの身体所見では頸静脈が規則正しく拍動しているのに対し,頸動脈がときおり欠落していることが観察される.
診断
1)心電図:
a)第1度房室ブロック(図5-6-37A):心電図上PQ時間が0.21秒以上に延長しているが,1:1の房室伝導は保たれている.
 b)第2度房室ブロック(図5-6-37B,C):心房から心室への伝導がときどき途絶するもので,心電図上はP波に続くQRS波が間欠的に脱落する.このうちPR間隔が徐々に延長した後にQRS波が脱落するタイプをWenckebach型(図5-6-37B),PR時間が一定のままで突然QRS波が脱落するタイプをMobitz Ⅱ型(図5-6-37C)に分類する.Wenckebach型第2度房室ブロックは房室結節内の伝導障害による場合が多く,Mobitz Ⅱ型第2度房室ブロックはHis束以下の伝導障害による場合が多い.心房が連続1~2個以上心室に伝導しないものを高度房室ブロックとよぶ.発作性房室ブロックはMobitz Ⅱ型の特殊なパターンで,突然ブロックが持続し補充調律が出現しない.
c)第3度房室ブロック(図5-6-37D):心房から心室への興奮の伝導が完全に途絶して,P波とQRS波は互いに独立した周期で出現する.心室興奮は接合部またはPurkinje線維から発生する補充調律である.第3度房室ブロックで注意すべきことは,徐脈に伴うtorsade de pointesの出現である(図5-6-39).
2)電気生理学的検査:
電気生理学的検査は,症状と房室ブロックの関連性,房室ブロックの確定診断および房室伝導の障害部位の診断を目的として施行される.房室ブロック部位の同定は,房室ブロック時のHis束心電図の記録で行う.ブロック部位より①房室結節内ブロック(A-Hブロック,図5-6-38A),②His束内ブロック(H-H′ブロック,図5-6-38B),③His束下ブロック(H-Vブロック,図5-6-38C)の3つに分類する.His束内あるいはHis束下ブロックの場合はペースメーカ植え込みの適応となることが多い.
3)運動負荷・薬剤負荷試験:
機能的な房室伝導の低下(運動選手など)の場合は運動やアトロピン負荷によって伝導能が改善する.一方,His束以下の伝導障害の場合は,洞調律の頻度が増すほど伝導障害が生じやすいため,運動負荷で房室ブロックが起こることがある.また症状との因果関係を調べるためATP (アデノシン三リン酸)を静注して房室ブロックを一過性に発生させることがある.
治療
 一過性の場合は原因疾患の治療が最も重要であるが,徐脈による症状や突然死の危険性がある場合は房室伝導が回復するまで体外式ペースメーカを挿入する.高度房室ブロックを伴う心房頻拍の場合はジギタリス中毒を疑う.慢性の場合は,薬剤などの明らかな原因がない場合,徐脈による症状,ブロックの部位・程度,およびブロックが進行する危険性などを総合的に診断して治療を行う.徐脈による症状を有する場合はペースメーカ植え込みの適応となる(表5-6-8)【⇨5-6-3)-(3)】が,何らかの理由でペースメーカ植え込みができない場合,補足的な手段としてイソプロテレノールの持続点滴静注や硫酸アトロピンの静注を行う.慢性投与にはアトロピン,硫酸オルシプレナリンの経口投与があるがペースメーカに比べ効果は不確実である.[草野研吾]
■文献
Scherlag BJ, Lau SH, et al: Catheter technique for recording His bundle activity in man. Circulation, 39: 13-18, 1969.
Harris A, Davies M, et al: Aetiology of chronic heart block. A clinico-pathological correlation in 65 cases. Br Heart J, 31: 206-218, 1969.
大江 透:房室ブロック不整脈.221-232,医学書院,東京,2007
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六訂版 家庭医学大全科 「房室ブロック」の解説

房室ブロック
ぼうしつブロック
Atrioventricular block (AV block)
(循環器の病気)

どんな病気か

 心臓の刺激伝導システムのどこかに異常が生じると、心臓の内部で伝導時間の延長や伝導の途絶が起こります。これをブロックといいます。この病気では心房からの刺激が心室に伝わる過程に異常があるために、心室の興奮が通常より遅れたり、欠落したりしてしまい(これを心房­心室間の伝導ブロック、房室ブロックという)、脈が遅くなります。

原因は何か

 急に起こる房室ブロックの原因として、心筋梗塞(しんきんこうそく)異型狭心症(いけいきょうしんしょう)心筋炎(しんきんえん)などの心臓病、薬剤性(β(ベータ)遮断薬など)、高カリウム血症、過度の迷走神経亢進状態などがあります。慢性あるいは再発性の房室ブロックの原因としては、冠動脈疾患心筋症心サルコイドーシス膠原病(こうげんびょう)、先天性ブロックなどが知られています。

症状の現れ方

 ブロックは起こり方によって、持続性のものと時々現れるもの(一過性、間欠性)があります。一過性、間欠性の場合には房室ブロックが現れた時にのみ徐脈(じょみゃく)になります。持続性房室ブロックでは、補充収縮(後述)の出現回数の程度により症状もさまざまですが、徐脈の持続により心不全(息切れ、浮腫など)に至ることもあります。

検査と診断

 心電図の波形から3つに分けられます(図23­C、D、E)。心房→心室の伝導時間が病的に長い第Ⅰ度ブロック、心房→心室への刺激の一部が心室に伝わらない第Ⅱ度ブロック、心房→心室への伝導が完全になくなってまったく心室に伝わらない第Ⅲ度ブロックです。第Ⅰ度ブロックでは徐脈にはなりませんが、第Ⅱ度・第Ⅲ度ブロックでは脈が遅くなり予備の刺激中枢から発生する刺激により心臓が興奮します。これを補充調律といいます。

 一過性、間欠性ブロックの診断には、長時間の心電図記録(ホルター心電図検査・植込型ループレコーダー)が必要になります。心臓電気生理学的検査では、刺激伝導システム内のどこで房室ブロックを起こしているかがわかり、重症度の判定に有用です(コラム)。

治療の方法

 薬物・電解質異常・虚血(きょけつ)などの原因の明らかなものはそれを取り除きます。アダムス・ストークス症候群(後述)などによる緊急時には、一時的に心臓を体外から刺激する(ペーシングする)方法が確実です。静脈から電極カテーテルを右心室に入れて、1分間に60回以上刺激します。β(ベータ)刺激薬やアトロピンの投与はペーシング実施まで行える方法です。

 一般的には、第Ⅰ度ブロックは治療不要です。第Ⅱ度・第Ⅲ度ブロックで脳の虚血症状があれば、脈拍数を増やす治療が必要です。徐脈が続く場合には、恒久的にペースメーカーを植え込む必要があります(コラム)。

病気に気づいたらどうする

 高血圧頻脈性(ひんみゃくせい)不整脈の治療のために房室ブロックを来す可能性のある薬剤を内服している場合には、薬剤内服法について主治医に至急指示をあおぐ必要があります。また、ペースメーカー治療などについては、循環器専門医の診察を受けることが必要です。

平尾 見三


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「房室ブロック」の解説

ぼうしつぶろっく【房室ブロック Atrio-Ventricular Block】

[どんな病気か]
 心房(しんぼう)と心室(しんしつ)の境界にある房室結節(ぼうしつけっせつ)の機能が低下して、心室に電気が伝わらなくなるために脈が遅くなる病気です。重症度により1度、2度、3度に分けられます。
 運動をよく行なう人では、迷走神経(めいそうしんけい)の機能が亢進(こうしん)して房室結節の電気伝導力が低下するため、1度または2度のブロック(伝導の障害)がおこることがありますが、生理的なもののため、心配はありません。
 心筋梗塞(しんきんこうそく)や心筋症(しんきんしょう)のような病気にともなって、2度~3度の房室ブロックがおこった場合は、極端に脈が遅くなったり、ときには、心臓がそのまま止まってしまうことがあります。洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん)(「洞不全症候群」)と同様に、脈が遅くなったときにふらつきやめまい、失神(しっしん)、心不全(しんふぜん)などがおこるため、注意しなければなりません。
[原因]
 洞不全症候群は高齢者におこりやすいのですが、房室ブロックでは、もとに病気が隠れていることが多いのです。そのため、病気を見つけるための検査を十分に行なわなければなりません。
[治療]
 洞不全症候群と房室ブロックの治療は、脈が遅いためにめまいや失神などの症状が現われる人にはペースメーカー(「心臓ペースメーカー」)の植え込み手術が必要です。症状がなくとも、3度の房室ブロックや4秒以上の心停止が見つかった場合は、ペースメーカーを植え込むことがあります。長年の肉体労働やトレーニングなどで、洞結節や房室結節の機能が生理的に抑制されているだけの場合は、ペースメーカー治療の必要はありません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「房室ブロック」の意味・わかりやすい解説

房室ブロック
ぼうしつブロック
atrioventricular block

心房,心室間の刺激伝導障害。その程度に従って,房室伝導時間の延長する第1度ブロック,ときどき伝導が中断されて,興奮が心室から心房に伝わらなくなる第2度ブロック,伝導が完全に遮断される第3度ブロックに分けられる。第3度ブロックは,急性心筋梗塞,狭心症のときにみられる。アダムス=ストークス症候群,心不全を伴う場合には,人工ペースメーカーの埋込みの適応が考えられる。

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世界大百科事典(旧版)内の房室ブロックの言及

【刺激伝導系】より

…ヒス束の分岐した左右の脚はそれぞれプルキンエ繊維として心室に入るが,左脚は右脚より太いことが多い。 このような伝導路での異常はブロックblock(刺激伝導障害)と名づけられ,房室ブロック,脚ブロックなどがある。これらは刺激伝導系細胞の変性(炎症,血液供給障害),あるいは細胞群の部分的死滅により発生する。…

※「房室ブロック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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