振出(読み)フリダシ

デジタル大辞泉 「振出」の意味・読み・例文・類語

ふり‐だし【振(り)出(し)】

物を振って出すこと。また、振って小さい穴から出すように作った容器。
双六すごろくさいを振りはじめる出発点
物事の始め。出発点。「小さな店を振り出しに大経営者になった」
手形小切手などを発行すること。
茶道で、小型の菓子器。また、香煎を入れる器。
振り出しぐすり」の略。
[類語](3出だし滑り出しはじめ最初当初初期初頭劈頭へきとう冒頭初手しょて出端ではなはな初っぱな起点始点出発点スタート

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「振出」の意味・読み・例文・類語

ふり‐だ・す【振出】

〘他サ五(四)〙
① 容器を振って中から物を出す。ゆすって出す。
※俳諧・俳諧新選(1773)二「葉柳にふり出されけり蝉の声〈春来〉」
② 市(いち)で手を振って合図をし、せりの値をつける。
浮世草子世間胸算用(1692)五「宿の亭主は売口銭一割のきほひにかかって、ふり出しける」
③ 物を振りはじめる。
浄瑠璃心中宵庚申(1722)上「早お立ちとお供廻りがふり出す毛鑓」
振出薬を湯の中で振り動かして、成分を溶け出させる。
※あきらめ(1911)〈田村俊子〉一七「守田の振出しを熱く振出したのを湯呑に入れて」
⑤ 湯水につけて振ってよごれをおとす。
※歌舞伎・お染久松色読販(大南北全集所収)(1813)序幕「わたしが仕事単物が油染みたが、どうぞ振り出しておくんなさいな」
⑥ 振って、前方もしくは左、右などに出す。
歩兵操典(1928)附録「一旦右臂を曲げ其弾撥力を利用して前方に振り出し体重を左足に移し」
⑦ 物事をし始める。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉老俗吏「奏任官の筆頭にならうといふ勢で振出したら奏任官の端くれ位になれさうなものだ」
為替または手形・小切手などを発行する。
※立会略則(1871)〈渋沢栄一〉廻状為替「為替手形を振出すには、元帳に基金高人名居所及ひ為替の旨趣を詳細に記入して割印を押切」
⑨ 遊女などが客をつめたくあしらう。ふる。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)五「初会に其客の様躰を見ちがへ、睟(すい)だての男と思ひ、にくさにひょっとふり出して、どふも仕舞のつかざるを」

ふり‐だし【振出】

〘名〙
① 振って中のものを出すこと。振り出すこと。
② 中に入れてあるものを、振って小さい穴から出すように作ってある容器。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「行李の中へしまった箱は、金米糖のふり出(ダ)しにちげへねへと」
※浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)五「お手廻り針立本道、ふり出(ダ)しをふり立てのますなど」
④ (「丹前振出」の略) 歌舞伎の演技の一つ。花道の出、または引込みに両手を振って足を踏み出すしぐさ
※評判記・野郎立役舞台大鏡(1687)嵐三右衛門「六法のふりだし天上天外唯我どくそんとは此人なるべし」
⑤ 歌舞伎の大道具の一つ。回して樹木を舞台の方へ向けるしかけ。人をのせて出すことが多い。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)四立「左右の柱紅葉の大樹のふり出し、水引一ぱいに紅葉の釣枝下り」
⑥ 手形・小切手を発行する行為。〔商法(明治三二年)(1899)四四五条〕
道中すごろくなどで、采(さい)をふり始める所。
※銀の匙(1913‐15)〈中勘助〉後「ふりだしの日本橋に鰹うりの絵のついてゐたことも」
⑧ 転じて、物事の初め。出発点。でだし。
当世商人気質(1886)〈饗庭篁村〉二「振り出しは東京(とうけい)真中の日本橋、斜めに富士を睨みて立つとき」
⑨ 千社札(せんじゃふだ)を貼るときに用いるつぎ竿(ざお)

ふり‐い・ず ‥いづ【振出】

[1] 〘自ダ下二〙 振り棄てて出る。思いきって出て行く。ふりず。
※宇津保(970‐999頃)吹上下「袖ひちてひさしくなれば冬中にふりいでてゆくとふがあふやと」
[2] 〘他ダ下二〙
① 紅(べに)を水に振り出してものを染める。ふりず。
※古今(905‐914)恋二・五九八「紅のふりいでつつなく涙にはたもとのみこそ色まさりけれ〈紀貫之〉」
② 声を高く張り上げる。声をふりしぼって出す。ふりいだす。
※古今(905‐914)夏・一四八「思ひいづるときはの山の郭公唐紅のふりいでてぞなく〈よみ人しらず〉」

ふり‐いだ・す【振出】

〘他サ四〙
① 声を高く張り上げる。ふりいず。
※蜻蛉(974頃)中「さざなみや志賀の唐崎など、れいのかみごゑふりいだしたるも」
② 振って中から物を出す。ふりだす。
※御伽草子・福富長者物語(室町末)「何やうとも御のぞみにしたがひて、ふり出し侍らんと」
③ 茶などを煎じだす。振り始める。ふりだす。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)六「茶をたつる有様〈略〉茶入をぬぐふよりして、ふり出(イダ)す手のしな」

ふり‐・ず ‥づ【振出】

[1] 〘自ダ下二〙 =ふりいず(振出)(一)
※元輔集(990頃)「すべらぎのすずのかぎりしありければふりでてゆくもつらからなくに」
[2] 〘他ダ下二〙 =ふりいず(振出)(二)
※躬恒集(924頃)「秋深きもみぢの色のくれなゐにふりでてのみぞなく鹿の声」

ふり‐で【振出】

〘名〙 紅(べに)を水に振りだして染めること。
※永久百首(1116)春「紅のふりでの色の岡つつじ妹がま袖にあやまたれつつ〈藤原仲実〉」

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