助ける,援助するの意から転じて,武士が米などを支給して家来や奉公人を抱え置くこと,またはその支給する米をいう。戦国時代以前にも,家臣に米を給することを扶持と呼んでいたが,江戸時代に入って制度的に整い,武士1人1日の標準生計費用を米5合と算定して,1ヵ月に1斗5升,1年間に1石8斗,俵に直して米5俵を支給することを一人(いちにん)扶持と呼び,扶持米支給の単位とした。これは知行(ちぎよう)高5石の蔵米取(くらまいとり)御家人が1年間に受け取る切米(きりまい)に相当する。扶持米の支給方法は,切米の支給に準じ,支配頭の裏書奥印のある扶持受取手形を御蔵(おくら)または御金蔵(おかねぐら)(金蔵)に持参して,米または金を受け取った。
扶持米支給の基準は多様であり,(1)最下級の御家人や藩士を召し抱えたときに支給する扶持米は,封禄の一種とみることができ,(2)御蔵門番,鷹匠,鳥見,大奥女中などの職に就いたときに支給する扶持米は,給金の一種とみられるが,これらの職が世襲されれば封禄と同じになる。また大奥女中などは,退職後も在職中の功により扶持を続けて受ける場合もあった。(3)旗本が駿河加番,大坂船手(ふなて)役などの役に就くと,分限高に応じて扶持米が支給されるが,これは役料の一種であり,役扶持,手当扶持と呼ぶこともある。(4)陣屋に赴く江戸詰めの代官や将軍の日光社参に従う従者に対して,江戸出立から帰府までの期間支給される扶持は,出張手当の一種である。(5)武士以外のものにも,褒賞的に扶持が与えられた。例えば特別の技能を買われた能楽師や力士,行政の末端に参与して功労のあった町年寄,殿様に多額の献金をした豪商,善行で表彰された百姓などに,生涯あるいは臨時的に扶持を支給し,あわせて帯刀を許す場合があった。
執筆者:大口 勇次郎
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主人から家来に下付した給与米の一種。1人1日玄米5合を標準に、1か月分(30日で1斗5升)を支給するのを一人扶持といい、身分や役職により何人扶持と数えた。大名が家臣に土地を与える(地方知行(じかたちぎょう))かわりに蔵米(くらまい)を支給することは戦国時代からおこり、近世に入って武士の城下町在住が一般化して兵農分離が進むにしたがい、蔵米知行の一部として普通に行われるようになった。三季に支給される通常の蔵米取より下級の御家人(ごけにん)や藩士、御用達(ごようたし)町人らに給せられ、月俸とよぶこともあった。二十人扶持が1年(350日)分で35石となり、3斗5升入りの蔵米の100俵取の実質収入と同じとみなされた。なお、本来の禄高(ろくだか)に加えて役料(職務給)として扶持若干を給される場合もあった。
[北原 進]
本来は扶助の意味。転じて,戦国末~江戸時代に下級家臣に支給された給与。江戸時代には,主として蔵米取(くらまいとり)の一部の武士に本給として支給される米穀(扶持米)を扶持というようになった。扶持米の支給をうける武士を扶持(米)取・扶持人・扶持方という。蔵米取に付加給与として支給される米穀も,加扶持・役扶持・宛行(あてがい)扶持などとよばれた。これらの場合,扶持米の量の単位となったのは1人(いちにん)扶持で,1日あたり5合を基礎とする月俸1斗5升,年1石8斗に該当。2人扶持なら2倍の月俸3斗,年3石6斗となった。武士以外の身分の者に対する褒賞にも扶持が用いられた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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