斐伊川(読み)ひいかわ

精選版 日本国語大辞典 「斐伊川」の意味・読み・例文・類語

ひい‐かわ ‥かは【斐伊川】

島根県東部を北西流し、出雲平野にはいって東流して宍道(しんじ)湖に注ぐ川。中国山地船通山に源を発する。古くは出雲平野を西流して直接に日本海に注いでいたが、寛永一六年(一六三九)以後現在の流路に変わった。素戔嗚尊(すさのおのみこと)八岐大蛇(やまたのおろち)を退治した簸川(ひのかわ)にあてられる。全長一五三キロメートル。出雲大川

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デジタル大辞泉 「斐伊川」の意味・読み・例文・類語

ひい‐かわ〔‐かは〕【斐伊川】

島根県東部を流れる川。中国山地に源を発し、北流してから東流して宍道しんじに注ぐ。長さ153キロ。上流は古く簸川ひのかわとよばれ、八岐大蛇やまたのおろちの伝説地。

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日本歴史地名大系 「斐伊川」の解説

斐伊川
ひいがわ

県東部最大の河川。仁多にた郡・飯石いいし郡・大原郡・出雲市・簸川ひかわ郡・平田市を流れる。「古事記」上巻に「出雲国の肥の河上」とあり、これは当川上流部をさすと推測され、肥河(ヒノカワ)と称されていたらしい。「日本書紀」神代上には「簸の川」とみえる。「出雲国風土記」ではおもに山間部で斐伊川・斐伊河・斐伊大川、平野部で出雲大川・出雲河などと記される。「雲陽誌」は全流域の一般的な名称として斐伊川を用いる。明治期に出雲川の名称が廃れ、斐伊川が定着した。

鳥取県境の船通せんつう(一一四二・五メートル)北麓仁多郡横田よこた五反田ごたんだに源を発し、北流しながら仁多郡・飯石郡・大原郡に枝状に広がった大小七〇有余の支流を集めて出雲平野に出る。その後北西から北へと流れを変え、出雲市・平田市・斐川ひかわ町境で東へ大きく屈曲して宍道湖に注ぐ。おもな支流は上流部の亀嵩かめだけ川・大馬木おおまき川・三沢みざわ川・三所みところ川・八代やしろ川・阿井あい川・奥湯谷おくゆのたに川、中流部の阿用あよう川・深野ふかの川・久野くの川・三刀屋みとや川・あか川、下流部では宍道湖に注ぐ新建しんたて川・平田船ひらたふな川などである。流長七五・二キロ、流域面積九二三・九平方キロ。一級河川斐伊川水系本川の一部をなし、全体は斐伊川―宍道湖(二二・五キロ)大橋おおはし(七・六キロ)―中海(三八・七キロ)―境水道(八・七キロ)を含み、総延長一五二・七二キロに及ぶ。斐伊川水系の河川は二二一、水系全体の面積は島根県の約五分の一にあたる。最上流部から横田盆地までは比較的谷が開け、標高約四〇〇メートルに横田盆地や三成みなり盆地が形成されている。続いて丘陵地・低山地に入り、川幅は狭まって急緩を反復しつつ木次きすき盆地に入る。山間部を抜けて出雲平野に出るが、扇状地の形成は不明瞭である。これは斐伊川流域の大部分が花崗岩で、山間部を流れる間に大半の花崗岩の礫が破砕されるため、平野に出たところでの堆積があまり進まないことによる。林相は悪く、山地面積の約二割は立木がない。河床は粗砂で構成され、大半は花崗岩起源の石英・黒雲母・長石粒で、第三系の安山岩・流紋岩の細礫も含まれ、一〇グラム当り七―八個の鉄滓も混じる。

ウルム氷期最盛期には、現在の中海・宍道湖にあたる地域は海退のため陸化しており、現松江市を流れる大橋川の塩楯しおたて島付近から古宍道川が西流し、古斐伊川は古宍道川を合流して日本海に流れ込んでいた。古斐伊川の流路を現大社たいしや浜山はまやま砂丘の南側にとる説と、北側にとる説がある。後氷期に気候の温暖化が進み、海面の上昇によって古宍道川に沿って内陸部深くに海が侵入し、約七千年前に大社湾から松江に延びる古宍道湾が形成された。

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改訂新版 世界大百科事典 「斐伊川」の意味・わかりやすい解説

斐伊川 (ひいかわ)

鳥取・島根県境の船通(せんつう)山(1142m)付近に源を発し,島根県東部を北流して宍道(しんじ)湖に注ぐ川。宍道湖までの長さは75kmであるが,河川法による斐伊川は宍道湖,大橋川,中海,境水道までを含み,幹川流路延長153km。全流域面積2070km2は,出雲地方のほとんど全部を覆う広さである。古くは簸(ひの)川,出雲大川とも呼ばれ,上流部は八岐大蛇(やまたのおろち)神話の舞台とされる。下流部は出雲平野を形成しており,《出雲国風土記》の時代には大社湾に注いでいたが,のち数度の洪水でしだいに東流するようになり,1639年(寛永16)には完全に宍道湖へ流入するに至った。

 上流域は,黒雲母花コウ岩や花コウセン緑岩などの風化した地帯で良質の砂鉄を含み,これを原料とするたたら製鉄が中世以降盛んに行われた。このため浸食に弱い花コウ岩山地からの自然流砂に加えて鉄穴流(かんなながし)の人工流砂が多く,下流域では水運を欠く天井川となってはんらんが助長された。東流後の流路変更による河口部の沖積地化は速く,17世紀前半には現在の出雲市の旧平田市街地と出雲市斐川町荘原を結ぶ線にあった宍道湖西部の湖岸線は,今日では約5kmも東進している。治水の歴史も古く,明和・安永年間(1764-81)には二十間川,1832年(天保3)には新川(1939廃川)などの分流開削が行われた。これらの人為的な流路変更は〈川違え(かわたがえ)〉と呼ばれ,新たな沖積地をつくりだすという意味も含んでいた。それでも1635年(寛永12)から1848年(嘉永1)までの間に30回をこす洪水の記録があり,明治に入ってからも3度の水害に見舞われ,とくに1893年には松江市街地が1週間水浸しになるほどであった。一方,1687年(貞享4)には豪農大梶七兵衛が斐伊川の水を引いて用水の高瀬川を開き,出雲平野を灌漑している。

 1922年内務省直轄事業として,下流部の数本の分流を一本化して堤防を強化し,大橋川の浚渫(しゆんせつ)で排水をよくする斐伊川改修事業が始まり,1954年には斐伊川・宍道湖・中海総合開発計画が立案された。その後も,中海地区新産業都市計画(1966指定)や中海干拓・淡水化事業など,水系全域にかかわりをもつ治水・開発計画が策定され,一部が進行したが,中海・宍道湖の淡水化計画は1989年,農水省が中止を決定した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「斐伊川」の意味・わかりやすい解説

斐伊川
ひいかわ

島根県東部を北西流して宍道(しんじ)湖に注ぐ川。延長153キロメートル。流域面積2550平方キロメートル。一級河川。出雲(いずも)(島根県)と伯耆(ほうき)(鳥取県)の境にある中国山地の船通山(せんつうざん)に源をもち、大馬木(おおまき)川、阿井(あい)川、三刀屋(みとや)川などをあわせて出雲平野に出、向きを東に変えて宍道湖に流入する。支流数223。かつては出雲平野で西流して日本海の大社湾に注いでいたが、数度の洪水により東流するようになり、一説によると1639年(寛永16)完全に東流する。上流は風化した花崗(かこう)岩山地で古くは鉄穴(かんな)流し(水流による比重選鉱)が盛んで、天井川をなし、しばしば大氾濫(はんらん)した。その結果下流は沖積化し新田の造成が進み、湖岸線は約5キロメートル東進した。旧河道の堤防上に築地(ついじ)松に囲まれた家屋の散村をのせる。雲南(うんなん)市木次(きすき)町では水害逃れの盛り土した「一文上り(いちもんあがり)」の家屋をみる。下流の出雲市来原(くりはら)付近から神戸(かんど)川に向けて放水路開削工事が進められている。上流は記紀の簸川(ひのかわ)にあたり、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治の地として知られる。

[野本晃史]

『長瀬定一編『斐伊川史』復刻版(1977・出雲郷土誌刊行会)』

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百科事典マイペディア 「斐伊川」の意味・わかりやすい解説

斐伊川【ひいがわ】

中国山地に発し島根県東部を流れ,宍道(しんじ)湖に注ぐ川。長さ153km。出雲平野(簸川(ひのかわ)平野)の大半はこの川の三角州で,流域面積2540km2。上流は古来砂鉄採取が行われ,流砂が多い。江戸時代の舟運は川方役所が置かれ,推進された。
→関連項目鬼の舌震木次[町]島根[県]仁多[町]斐川[町]横田[町]横田荘

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「斐伊川」の意味・わかりやすい解説

斐伊川
ひいかわ

島根県東部,奥出雲町と鳥取県日南町の境にある船通山に源を発し,出雲平野を貫流して宍道湖に注ぐ川。全長 153km。古くは簸川 (ひのかわ) と呼ばれ,八岐大蛇 (やまたのおろち) の神話で知られる。かつて下流は西流して日本海に注いでいたが,寛永 12 (1635) 年からの数度の洪水でしだいに東流し,同 16年以後は宍道湖へ注ぐようになった。上流は花崗岩山地で流砂が多く沖積化が早いため,宍道湖岸線は 17世紀中頃から今日までに約 5km東進。治水の歴史も古く出雲平野には早くから良田が開かれた。上流域では砂鉄を産し,古くからたたら製鉄が発達。

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世界大百科事典(旧版)内の斐伊川の言及

【出雲平野】より

…東は宍道(しんじ)湖,西は大社湾を経て日本海に臨む。斐伊(ひい)川と神戸(かんど)川による沖積平野で,斐伊川の河道変遷により成長した。南西部の神西(じんざい)湖は《出雲国風土記》の神門水海(かんどのみずうみ)で,付近には沼沢地がかなり広がっていた。…

※「斐伊川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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