県東部最大の河川。
鳥取県境の
ウルム氷期最盛期には、現在の中海・宍道湖にあたる地域は海退のため陸化しており、現松江市を流れる大橋川の
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
鳥取・島根県境の船通(せんつう)山(1142m)付近に源を発し,島根県東部を北流して宍道(しんじ)湖に注ぐ川。宍道湖までの長さは75kmであるが,河川法による斐伊川は宍道湖,大橋川,中海,境水道までを含み,幹川流路延長153km。全流域面積2070km2は,出雲地方のほとんど全部を覆う広さである。古くは簸(ひの)川,出雲大川とも呼ばれ,上流部は八岐大蛇(やまたのおろち)神話の舞台とされる。下流部は出雲平野を形成しており,《出雲国風土記》の時代には大社湾に注いでいたが,のち数度の洪水でしだいに東流するようになり,1639年(寛永16)には完全に宍道湖へ流入するに至った。
上流域は,黒雲母花コウ岩や花コウセン緑岩などの風化した地帯で良質の砂鉄を含み,これを原料とするたたら製鉄が中世以降盛んに行われた。このため浸食に弱い花コウ岩山地からの自然流砂に加えて鉄穴流(かんなながし)の人工流砂が多く,下流域では水運を欠く天井川となってはんらんが助長された。東流後の流路変更による河口部の沖積地化は速く,17世紀前半には現在の出雲市の旧平田市街地と出雲市斐川町荘原を結ぶ線にあった宍道湖西部の湖岸線は,今日では約5kmも東進している。治水の歴史も古く,明和・安永年間(1764-81)には二十間川,1832年(天保3)には新川(1939廃川)などの分流開削が行われた。これらの人為的な流路変更は〈川違え(かわたがえ)〉と呼ばれ,新たな沖積地をつくりだすという意味も含んでいた。それでも1635年(寛永12)から1848年(嘉永1)までの間に30回をこす洪水の記録があり,明治に入ってからも3度の水害に見舞われ,とくに1893年には松江市街地が1週間水浸しになるほどであった。一方,1687年(貞享4)には豪農大梶七兵衛が斐伊川の水を引いて用水の高瀬川を開き,出雲平野を灌漑している。
1922年内務省直轄事業として,下流部の数本の分流を一本化して堤防を強化し,大橋川の浚渫(しゆんせつ)で排水をよくする斐伊川改修事業が始まり,1954年には斐伊川・宍道湖・中海総合開発計画が立案された。その後も,中海地区新産業都市計画(1966指定)や中海干拓・淡水化事業など,水系全域にかかわりをもつ治水・開発計画が策定され,一部が進行したが,中海・宍道湖の淡水化計画は1989年,農水省が中止を決定した。
執筆者:池田 善昭
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島根県東部を北西流して宍道(しんじ)湖に注ぐ川。延長153キロメートル。流域面積2550平方キロメートル。一級河川。出雲(いずも)(島根県)と伯耆(ほうき)(鳥取県)の境にある中国山地の船通山(せんつうざん)に源をもち、大馬木(おおまき)川、阿井(あい)川、三刀屋(みとや)川などをあわせて出雲平野に出、向きを東に変えて宍道湖に流入する。支流数223。かつては出雲平野で西流して日本海の大社湾に注いでいたが、数度の洪水により東流するようになり、一説によると1639年(寛永16)完全に東流する。上流は風化した花崗(かこう)岩山地で古くは鉄穴(かんな)流し(水流による比重選鉱)が盛んで、天井川をなし、しばしば大氾濫(はんらん)した。その結果下流は沖積化し新田の造成が進み、湖岸線は約5キロメートル東進した。旧河道の堤防上に築地(ついじ)松に囲まれた家屋の散村をのせる。雲南(うんなん)市木次(きすき)町では水害逃れの盛り土した「一文上り(いちもんあがり)」の家屋をみる。下流の出雲市来原(くりはら)付近から神戸(かんど)川に向けて放水路開削工事が進められている。上流は記紀の簸川(ひのかわ)にあたり、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治の地として知られる。
[野本晃史]
『長瀬定一編『斐伊川史』復刻版(1977・出雲郷土誌刊行会)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…東は宍道(しんじ)湖,西は大社湾を経て日本海に臨む。斐伊(ひい)川と神戸(かんど)川による沖積平野で,斐伊川の河道変遷により成長した。南西部の神西(じんざい)湖は《出雲国風土記》の神門水海(かんどのみずうみ)で,付近には沼沢地がかなり広がっていた。…
※「斐伊川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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