日本大百科全書(ニッポニカ) 「方硼石」の意味・わかりやすい解説
方硼石
ほうほうせき
boracite
塩素を含むマグネシウムのホウ酸塩鉱物。ホウ酸塩の結晶構造的分類はほぼ確立され、ケイ酸塩同様の基本基の重合の度合いで細分されるようになったが、ホウ酸塩の場合には最小重合基本単位に[BO3]と[BO4]の2種類があるため、ケイ酸塩の場合よりさらに複雑になる。この方硼石の場合も1[BO3]+6[BO4]が立体的に結合しているもので、非常に強固な結合を与え、高い硬度に反映されている。ちなみに成因的には蒸発岩起源で続成作用の影響があったと考えられる。自形は、等軸晶系の対称を与える立方体を基調としたもので、高温相の仮晶とみなされている。ただ純粋な端成分について、常圧で転移温度268℃とされ、続成作用で出現する温度としては高すぎるという見方もある。常温で安定な斜方(擬等軸)相をα(アルファ)相、高温変態をβ(ベータ)相ということもある。なお、少量のFe2+をマグネシウムのかわりに含む相は三方晶系に変形した格子をもち、新鉱物トレムバート石trembathite(化学式(Mg,Fe)3[Cl|B7O13])として1992年記載された。岩塩など可溶性の塩類鉱物と共存する場合と、石膏岩や硬石膏岩のように水に難溶あるいは不溶の鉱物と共存する場合とがある。英名ボラサイトはホウ素(boran)を多く含む化学組成に由来する。
[加藤 昭]