東北(読み)とうほく

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

東北(中国)
とうほく / トンペイ

中国北東部の地区名。遼寧(りょうねい/リヤオニン)、吉林(きつりん/チーリン)、黒竜江の3省からなる。北は黒竜江、東はウスリー川でロシアと、南東は豆満(とまん)江(中国名図們(ともん)江)および鴨緑(おうりょく)江を隔てて北朝鮮と境を接している。南は遼東(りょうとう/リヤオトン)半島が突出し、その東は黄海、西は渤海(ぼっかい)に属する遼東湾に面する。西は内モンゴル自治区および河北省と接する。面積78万7900平方キロメートル、人口約1億0655万(2000)、人口密度1平方キロメートル当り135人。
 1949年から54年までは大行政区として東北行政区があり、遼東、遼西、吉林、黒竜江、熱河(ねっか)、松江の6省と瀋陽(しんよう/シェンヤン)、鞍山(あんざん/アンシャン)、本渓(ほんけい/ペンシー)、撫順(ぶじゅん/フーシュン)、旅大(りょだい/リュイター)、長春(ちょうしゅん/チャンチュン)、ハルビンの7市を管轄していた。これは現在の東北のほかに内モンゴル自治区と河北省の一部が加わっていた。清(しん)王朝を建てた満洲族の故地であるため、満州(マンチュリア)と称したこともある。清代から民国初期の北洋政府の時期には東三省(とうさんしょう)とよばれた。これは山海関の東にあることから出た呼称である。現在の東北は旧東三省の大部分を占めるが、大興安嶺(だいこうあんれい/ターシンアンリン)以西の部分は「文化大革命」期間中、一時現在の3省の行政区域に含まれたことがある。
 主要都市としては瀋陽、長春、ハルビンの省政府所在地のほか、大慶、鞍山、撫順をはじめとする鉱山都市、大連のような港湾都市があり、全部で90(2001)の市を数える。[河野通博]

自然・地誌

地形は、西辺は大興安嶺とその東斜面にあたり、北部は黒竜江河谷の南に小興安嶺の低山性山地が横たわる。大興安嶺北部から、小興安嶺にかけては広く針葉樹林に覆われ、中国の重要な林業地域となっている。東部には長白(ちょうはく)山脈をはじめ、老爺(ろうや)嶺、張広才(ちょうこうさい)嶺、威虎(いこ)嶺などの諸山脈がほぼ平行に走る長白山地があり、その余波は千山山脈となって南西に延び、遼東半島の脊梁(せきりょう)をなす。長白山地の北と西にも前山として丘陵性山地が横たわり、いずれもチョウセンマツを主とする森林に覆われ、トラ、リス、クロテンなどの毛皮獣が生息している。ノロ、シカなども多く、薬草もチョウセンニンジンをはじめ豊富である。山間部には延吉(えんきつ/イエンチー)盆地など多くの小盆地が発達し、朝鮮族が水稲を栽培している。
 大・小興安嶺と長白山地に三方を取り囲まれて東北平原(松遼(しょうりょう)平原ともいう)が横たわる。東北平原は南の遼河水系の流域に属する遼河平原と、北の黒竜江水系の松花(しょうか)江、嫩(どん)江流域である松嫩(しょうどん)平原とに分かれ、その分水界は標高200メートルで低い。また北東部の松花江、ウスリー川と黒竜江本流との合流点付近には、三江平原とよばれる湿地性の平野がある。ここは排水の困難さと深い泥炭層が存在するために開発が遅れ、従来、北大荒(ほくたいこう)とよばれてきた荒野であったが、解放後多くの国営農場が建設され、新しい穀倉地帯への改造が目ざされている。東北平原ではコウリャン、トウモロコシ、アワ、小麦、米、大豆のほか、北部ではテンサイ(サトウダイコン)、亜麻(あま)、南部では綿花の産出が多い。また丹東(たんとう/タントン)付近では柞蚕(さくさん)が盛んに飼育されている。
 南部の遼東半島は丘陵性の千山山脈が海に突出しているので、沿岸はリアス式海岸をなし、水産資源が豊富で、また天日製塩も盛んである。陸上ではリンゴの栽培が盛んで、全国的に有名である。
 気候は、冬季は寒さが厳しく、南端の大連(だいれん/ターリエン)でも1月の平均気温が零下5℃、北部では零下30℃前後を示す。そして冬の期間もハルビンでは8か月に及び、6か月は河川が凍結する。夏は短期間であるが高温で、大半の地域で7月の平均気温は20℃を超える。年降水量は500ミリメートル以上の地域が多い。[河野通博]

歴史

東北地区南部では戦国時代すでに、華北地区の農民が遼陽(りょうよう)以南に移住してきているが、北部は粛慎(しゅくしん)、東胡(とうこ)、扶余(ふよ)などの諸部族の居住地で、漁猟、牧畜を営んでいた。南北朝時代には遼寧省中部以東は高句麗(こうくり)の支配する領域となり、また唐代には黒竜江省南東部の寧安を国都とする渤海(ぼっかい)が興り、唐のほか新羅(しらぎ)、日本とも国交を結んでいた。このころ中原(ちゅうげん)の文明が盛んに取り入れられ、織物、鉄製品、楽器(鼓)などの手工業も発達し、特産物の交易が行われた。唐末になると契丹(きったん)が勃興(ぼっこう)して、渤海を滅ぼし遼(りょう)を興したが、12世紀には、契丹も女真(じょしん)にとってかわられ、女真の建てた金(きん)は華北地方に進出し、その勢力下に収めた。13世紀後半にオノン川のほとりから勢力圏を拡大したモンゴルは宋(そう)と金を滅ぼして元(げん)王朝を建て、全中国を統一する大帝国となった。東北地区ではその勢力範囲は三江平原以東にまで及んだ。だが元はもともと遊牧民族であったから、農業、手工業を軽視したため、在来の経済的基盤は大きく破壊された。
 明(みん)代には東北地区の経営はほとんど行われず、わずかに鴨緑江下流部の開発がやや進んだだけであった。しかし開原などではチョウセンニンジン、毛皮、絹、工芸品などの特産物と中国の物産との取引が行われていた。明末に興起した女真の一族である満洲族はやがて全中国を統一し、清王朝を樹立した。1653年には遼東招墾令が出され、戦乱で荒廃した東北南部の開墾が奨励され、当時大干魃(かんばつ)に悩んでいた華北地区から大量の農民が移住した。しかし大量の移民の流入は満洲族の生活を脅かしたため、18世紀なかばになると東北を封禁の地として移民禁止政策がとられた。ところがロシア帝国の東進により、北方辺境地域への圧力が強まると、農業移民を東北へ移住させる必要性が痛感されるに至り、封禁は撤廃されることとなった。
 19世紀末以後ロシア帝国が鉄道を建設しつつ東北地区に進出するに及んで、東北は帝国主義列強の利権争奪の場となり、日露戦争後は東北南半部は日本の勢力圏となった。さらに1931年(昭和6)以後日本は東北全域を植民地化し、傀儡(かいらい)政権の「満州国」をつくった。清朝最後の皇帝であった宣統帝溥儀(ふぎ)を満州国皇帝に擁立したが、実質は完全な日本軍部とそれに結び付いた資本家の支配下に置かれた。またソ連(現ロシア)との国境地帯では中国農民の土地を強制買収して、そこに「満蒙(まんもう)開拓」と称して日本人の農業移民を入植させた。一方では100万と称せられる大量の軍隊を駐留させ、地下資源を開発して、製鉄所を建設するなど重工業を発展させた。日本の敗戦により「満州国」は瓦解(がかい)し東北はふたたび中国の一部となった。
 東北はその歴史的過程からみてもかつては少数民族の世界であった。今日では大量の漢族移住者の定住により、大部分は漢族からなるが、なお満洲族、モンゴル族、朝鮮族、ダフール族、オロチョン族、エベンキ族、ホジェン族、シボ族、回族、ロシア族、キルギス族も居住している。とくに朝鮮族は吉林省東部に延辺(えんぺん)朝鮮族自治州をつくり集団居住している。[河野通博]

資源

東北の地下資源は、鉄、石炭、石油、油母頁岩(ゆぼけつがん)をはじめ、金、銀、銅、鉛、亜鉛、タングステン、モリブデン、ニッケル、ボーキサイトなど多種類に上っている。とくに鉄は鞍山、本渓、通化周辺に産し、石炭は鶴崗(かくこう/ホーカン)、双鴨山(そうおうざん/ショワンヤーシャン)、七台河(しちたいか/チータイホー)、鶏西(けいせい/チーシー)、阜新(ふしん/フーシン)、北票(ほくひょう/ペイピヤオ)、遼源、瀋陽、鉄法、撫順などに埋蔵され、また石油は広大な大慶油田のほか、遼河、扶余などの油田がある。包蔵水力も豊かで、鴨緑江の水豊、太平湾、老虎哨(ろうこしょう)、雲峰、松花江上流部の白山、紅石、豊満、渾江(こんこう)の桓仁(かんじん)、太平哨(たいへいしょう)など出力10万キロワット以上の水力発電所が9か所建設されている。とくに白山発電所は出力90万キロワットで東北最大を誇る。[河野通博]

工業

これらの資源により東北は中国ではもっとも工業化の進んでいる地区の一つである。ことに鞍山製鉄所は中国最大の鉄鋼コンビナートであり、長春には国営第一自動車製造工場がある。そのほか大連の鉄道車両、造船、ハルビンの発電用タービン、チチハルの鉄道車両、吉林の化学薬品、大慶と撫順の石油化学、遼陽の合成繊維、瀋陽の重機械、牡丹江(ぼたんこう)の製紙をはじめ、錦州(きんしゅう/チンチョウ)、営口、通化など多くの工業都市が発展し、大連に外資との合弁による経済技術開発区が建設されている。[河野通博]

交通

東北は、中国でもっとも鉄道網の密度の高い地区でもある。東北の鉄道はロシア帝国の建設した東清鉄道(現在の浜洲(ひんしゅう)、浜綏(ひんすい)両鉄道)、旧南満州鉄道(現在の哈大(こうだい)鉄道)をはじめ、日本の支配下にあったころ建設された鉄道が多いことは事実であるが、解放後建設されたものとしては、通譲(つうじょう)鉄道(通遼―大慶の譲湖路)、嫩林(どんりん)鉄道(嫩江―古蓮(これん))、伊加鉄道(伊図里河(いとりが)―加格達奇(ジャクダチ))などがある。これらの諸線のなかには、ロシアとの間に国際列車の走る浜洲、京哈(けいこう)両鉄道や朝鮮に通じる瀋丹(しんたん)、梅集、鳳上(ほうじょう)などの諸鉄道もある。ただしこの3本のなかで国際列車の走るのは瀋丹鉄道のみである。[河野通博]

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