仮名草子。浅井了意作。6巻6冊。刊年未詳。1688年(元禄1),1708年(宝永5)に後印本がある。成立は1659年(万治2)ごろと思われる。楽阿弥という道心者が四国遍路から伊勢熊野を巡り,熊野浦から海路江戸に向かい,鉄砲洲に上陸して江戸見物の後,京へ上り黒谷あたりに住もうと志し,芝口で会った若者と道連れになり,途中神社仏閣名所旧跡を訪ね,その由来を述べ,狂歌俳諧をものしつつ,京へ上るという,どちらかといえば必然性を欠いた緩い構成をとっている。同伴者が要請されるなど,その趣向は《竹斎》にならっている。五十三次の各駅ごとの里程を記し,道中の名所旧跡,風俗人情,宿泊の心得などを詳細に述べるという実用性と,おそらく俳諧精神の裏打ちによる軽妙洒脱な文章の保つ娯楽性とを兼ね備えた優れた仮名草子であり,近世中期のヒット作品である十返舎一九の《東海道中膝栗毛》はいうまでもなく,後代のおびただしい道中記,名所記などに多大な影響を与え,道中記ものの原点といってよいだろう。
執筆者:松田 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仮名草子。六巻六冊。浅井了意(りょうい)作。1659年(万治2)成立。諸国を遍歴してきた青道心楽阿弥(らくあみ)が、まず江戸の名所を見物し、その後、連れの男とともに東海道の名所を見物し、気楽な旅を続けながら京に上るという構想のもとに、名所・名物の紹介、道中案内、楽阿弥らの狂歌や発句、滑稽(こっけい)談などを交えて、東海道の旅の実情を啓蒙(けいもう)、紹介した作品。主人公は『竹斎(ちくさい)』の系統にたち、娯楽性をも備えているが、同時に、「道中記」を十分に取り入れ、旅行案内として実用性をもったことが、読者に歓迎される一因となった。
[谷脇理史]
『野田寿雄校注『日本古典全書 仮名草子集 下』(1962・朝日新聞社)』▽『朝倉治彦校注『東海道名所記』全二巻(1979・平凡社・東洋文庫)』
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