社伝によれば、神武天皇東征のとき国土安定祈願のため天種子命が勅命を奉じ、東方山上の霊地神津嶽に天児屋根大神・比売大神の夫婦神を奉斎したのに始まるという。白雉元年(六五〇)に平岡連らが山上より現在地へ奉遷し、次いで宝亀九年(七七八)斎主大神・武甕槌大神二神を合祀したと伝える。右の伝承の史実性は確かめがたいが、天種子命は「日本書紀」神武天皇即位前紀に、筑紫国菟狭国造の祖の一人菟狭津媛と結婚した侍臣としてみえ、中臣氏の遠祖とある。天児屋根大神は神代紀の天石窟隠りの段に中臣連の遠祖とみえ「中臣神」ともよばれており、天孫降臨の段には五部神の一として中臣の上祖とみえ、「古事記」に中臣の連らの祖とある。このように天種子命・天児屋根命ともに記紀神話で中臣氏の祖とされており、「新撰姓氏録」には天児屋根命を祖神とする多数の中臣氏氏族名がみえる。平岡連は同書河内国神別に津速魂命一四世孫鯛身臣の後とあり、河内国の中臣系氏族の多くが津速魂命を遠祖とし、同書に「津速魂命三世孫天児屋根命」とみえるように中臣氏と関係の深い氏族であった。以上のことから創建事情を想定すれば、当社の東方に突出する神津嶽(奥ノ宮)を神の降臨地とする山岳信仰が始源で、それを当地域の豪族である平岡連が山麓で奉斎するようになったのであろう。中央の有力豪族である中臣氏と深い氏族関係をもつことにより、中臣氏の遠祖天児屋根命を祀るようになったと思われる。
「新抄格勅符抄」に引く大同元年(八〇六)牒に「枚岡神」とみえ、河内四戸・丹波五六戸の神封があった。「続日本後紀」承和三年(八三六)五月九日条に、河内国河内郡従三位勲三等天児屋根命に正三位、従四位下比売神に従四位上を授くとあり、平安初期には少なくともこの二神が当社の祭神であったことが知られる。神階は同六年一〇月二九日にそれぞれ従二位・正四位下に(同書)、「三代実録」貞観元年(八五九)正月二七日条には従一位勲三等枚岡天児屋根命が正一位、正四位上勲六等枚岡比神が従三位に進階したとある。「続日本後紀」承和一〇年六月八日条に平岡大神社神主らが把笏にあずかったことがみえ、「文徳実録」斉衡三年(八五六)一〇月一九日条には幣布二四反を加えたとある。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
大阪府東大阪市出雲井(いずもい)町に鎮座。天児屋根命(あめのこやねのみこと)、比売神(ひめのかみ)、武甕槌(たけみかづち)命、斎主(いわいぬし)命を祀(まつ)る。創建年代不詳。社伝では、神武(じんむ)天皇が日向(ひゅうが)より大和(やまと)へ遷幸の途次、天種子(あめのたねこ)命にその祖神天児屋根命、比売神を本社東方の神津嶽(こうづだけ)に奉斎させたことに始まり、のち孝徳(こうとく)天皇のとき現社地に奉遷したという。およそ天児屋根命の子孫中臣(なかとみ)氏一族の平岡連(むらじ)が当地方で勢力を占めてその祖神を祀り、奈良時代中臣氏(藤原氏)が平城京の春日(かすが)神社に武甕槌命、斎主命をあわせ祀ったのに倣い、本社も四祭神としたものとみられる。古くより朝廷の崇敬厚く、806年(大同1)神戸(かんべ)60戸を寄せられ、859年(貞観1)天児屋根命を正一位に、延喜(えんぎ)の制で四座とも名神大とし、祈年(としごい)・月次(つきなみ)・相嘗(あいなめ)、新嘗(にいなめ)の幣を奉られ、22社の1、河内(かわち)国(大阪府)一宮(いちのみや)とされ、明治の制で官幣大社。現本殿、四殿よりなる春日造(づくり)系統の枚岡造は1826年(文政9)造立。例祭2月1日。特殊神事として1月15日の御粥占(おかゆうら)神事、5月21日の平国(くにむけ)祭がある。
[鎌田純一]
大阪府東大阪市に鎮座。天児屋根(あめのこやね)大神(第一殿),比売(ひめ)大神(第二殿),斎主(いわいぬし)大神(第三殿),武甕槌(たけみかづち)大神(第四殿)をまつる。神武天皇東行の際,国土平安祈願のため神津岳の磐境(いわさか)にまつられ,650年(白雉1)平岡連たちが現在地に社殿を建てて移し,のち778年(宝亀9)斎主・武甕槌2柱の神を合祀したと伝える。《延喜式》の名神大社。河内国の一宮。旧官幣大社。奈良の春日大社の本社とされ,本殿は1826年(文政9)造営になる4棟の春日造彩色のもの。例祭は2月1日。10月14,15日の秋大祭には神幸がある。また特殊神事として1月11日の粥占祭と12月25日の注連掛祭が有名。
執筆者:宝来 正彦
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