支配権力による特定個人の表彰は古今東西を問わず広くみられる。中世ヨーロッパにおける領主や教会による栄誉表彰は,近代国家の確立とともに〈国家〉によって行われることになった。外国の事例としては,イギリスのガーター勲章,フランスのレジオン・ドヌール,ドイツの功労勲章,アメリカの自由勲章,旧ソ連の赤旗勲章などが有名である。日本の事例としては律令制以来の位階を筆頭に,近代では制定順に1875年勲章,81年褒章,84年爵位,90年金鵄(きんし)勲章,1937年文化勲章をあげうる。これら栄典の制度化は日本近代化と密接不可分の関係にある。まず最初の叙勲者が台湾出兵の功労者西郷従道だったことに,近代日本のアジア進出が象徴される。次に爵位に基づく華族制度の創設は,維新期の功労者の栄誉体系への組みこみにほかならなかった。さらに金鵄勲章の制定により,武功に応じた軍人の栄誉体系が確立する。このように明治憲法体制の中に制度化された栄誉体系は,十五年戦争期に科学文化振興を背景に制定された文化勲章によって,軍・官・民および文化のすべての領域にわたって完成されたのである。しかし戦後,爵位,金鵄勲章は廃止,位階勲等は一時停止となり,明治国家の栄誉体系は改廃を余儀なくされた。芦田均内閣以後歴代内閣の提出した新栄典法案は,結局逆コースのシンボルとして与野党の対立点と化し成立をみなかった。戦後体制の安定を背景に,64年池田勇人内閣の下で生存者叙勲,戦没者叙勲が開始された。また近年,省庁・地方公共団体レベルでもさまざまの栄典の制度化がみられる。戦後の栄誉体系は,特権こそ伴わぬものの,きめ細かな制度化や民間人への対象領域の拡大を特徴として発展している。
→位階勲等
執筆者:御厨 貴
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栄誉を表すために天皇が位階・勲等などを与える制度。律令制以来の位階,近代では勲章(1875制定),褒章(1881制定),爵位(1884制定),金鵄(きんし)勲章(1890制定),文化勲章(1937制定)がある。明治憲法では栄典の授与は天皇の大権とされ,日本の近代化と密接に結びついていた。第2次大戦後,爵位・金鵄勲章は廃止,位階勲等は一時停止されたが,1964年(昭和39)池田内閣により生存者叙勲と戦没者叙勲が再開された。2003年(平成15)には勲等が廃止されるなど,制度の改正が行われた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…国家社会に勲功のある者を賞すべく授けられる位と勲章と等級。第2次大戦前の日本において,爵と並んで天皇大権に基づく栄典制度の根幹をなすものであった。律令時代以来の伝統的な位階と西洋諸国をモデルとした勲章との和洋折衷的組合せに,日本の近代化が象徴されている。…
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