栄典制度(読み)えいてんせいど

精選版 日本国語大辞典 「栄典制度」の意味・読み・例文・類語

えいてん‐せいど【栄典制度】

  1. 〘 名詞 〙 国家への功労者栄誉を表彰する制度。第二次大戦後、爵が廃止され、現在は文化勲章と外国人に対する勲章ほか、昭和三九年(一九六四)に復活した生存者叙勲叙位故人のみ)がある。いずれも、無特権、受領者一代かぎりが原則。現憲法の規定で、内閣の助言と承認をへて、天皇の国事行為として行なわれる。民間人対象には褒章制度がある。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「栄典制度」の意味・わかりやすい解説

栄典制度 (えいてんせいど)

支配権力による特定個人の表彰は古今東西を問わず広くみられる。中世ヨーロッパにおける領主や教会による栄誉表彰は,近代国家の確立とともに〈国家〉によって行われることになった。外国の事例としては,イギリスのガーター勲章,フランスのレジオン・ドヌール,ドイツの功労勲章,アメリカの自由勲章,旧ソ連の赤旗勲章などが有名である。日本の事例としては律令制以来の位階筆頭に,近代では制定順に1875年勲章,81年褒章,84年爵位,90年金鵄(きんし)勲章,1937年文化勲章をあげうる。これら栄典の制度化は日本近代化と密接不可分の関係にある。まず最初の叙勲者が台湾出兵の功労者西郷従道だったことに,近代日本のアジア進出が象徴される。次に爵位に基づく華族制度の創設は,維新期の功労者の栄誉体系への組みこみにほかならなかった。さらに金鵄勲章の制定により,武功に応じた軍人の栄誉体系が確立する。このように明治憲法体制の中に制度化された栄誉体系は,十五年戦争期に科学文化振興を背景に制定された文化勲章によって,軍・官・民および文化のすべての領域にわたって完成されたのである。しかし戦後,爵位,金鵄勲章は廃止,位階勲等は一時停止となり,明治国家の栄誉体系は改廃を余儀なくされた。芦田均内閣以後歴代内閣の提出した新栄典法案は,結局逆コースのシンボルとして与野党の対立点と化し成立をみなかった。戦後体制の安定を背景に,64年池田勇人内閣の下で生存者叙勲,戦没者叙勲が開始された。また近年,省庁・地方公共団体レベルでもさまざまの栄典の制度化がみられる。戦後の栄誉体系は,特権こそ伴わぬものの,きめ細かな制度化や民間人への対象領域の拡大を特徴として発展している。
位階勲等
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「栄典制度」の意味・わかりやすい解説

栄典制度
えいてんせいど

社会に対する功労者の栄誉を表彰するために国法上与えられる特殊な地位に関する制度。大日本帝国憲法時代には,爵,位,勲章および褒章があり,その授与は天皇の大権事項であった(15条)。日本国憲法下にいたってしばらくは文化勲章だけが授与されていたが,1963年の閣議決定により翌 1964年春から生存者叙勲が再開された。栄典は,内閣の助言と承認により天皇が授与するが(憲法7条7号),ほかの国家機関や地方公共団体が授与するものもある。(1) 勲章 今日の叙勲制度は主として 1963年の閣議決定によるが,具体的な叙勲の規定はかつての太政官布・達,詔勅,勅令などによっている。今日も施行されているこの叙勲,勲章の制度は明治8年太政官布告54号(勲章制定ノ件)によって始められたものである。現行の叙勲は大勲位菊花章,桐花大綬章,旭日章,瑞宝章の 4種によって春秋 2度行なわれている。ほかに,外国人に対する儀礼叙勲など特別な場合に女性のみに授与される宝冠章がある。(2) 褒章 現行の褒章は明治14年太政官布告63号(褒章条例)によっている。当初,自己の危難を顧みず人命救助に尽くした者に対する紅綬褒章,徳行の卓絶した者に対する緑綬褒章,公衆の利益を興した者に対する藍綬褒章の 3種のみであったが,のち大正7年勅令349号で紅綬褒章に実業に精励した者などが加えられた。また,同勅令349号で公益のために私財を供した者に対する紺綬褒章が,昭和30年政令7号によって業務に精励した者に対する黄綬褒章,学芸上の事績の著しい者に対する紫綬褒章が新設された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「栄典制度」の意味・わかりやすい解説

栄典制度【えいてんせいど】

国家が特定の功労者の栄誉を表彰するために与える法的殊遇(しゅぐう)。日本では明治憲法下で爵位(しゃくい),位階勲等の制度があったが,第2次大戦後華族制度廃止により爵位はなくなった。現行憲法では内閣の助言と承認により天皇が授与するが,その効力は一代限りで,なんら特権を伴わない。
→関連項目勲章叙位叙勲瑞宝章大勲位褒章

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「栄典制度」の解説

栄典制度
えいてんせいど

栄誉を表すために天皇が位階・勲等などを与える制度。律令制以来の位階,近代では勲章(1875制定),褒章(1881制定),爵位(1884制定),金鵄(きんし)勲章(1890制定),文化勲章(1937制定)がある。明治憲法では栄典の授与は天皇の大権とされ,日本の近代化と密接に結びついていた。第2次大戦後,爵位・金鵄勲章は廃止,位階勲等は一時停止されたが,1964年(昭和39)池田内閣により生存者叙勲と戦没者叙勲が再開された。2003年(平成15)には勲等が廃止されるなど,制度の改正が行われた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の栄典制度の言及

【位階勲等】より

…国家社会に勲功のある者を賞すべく授けられる位と勲章と等級。第2次大戦前の日本において,爵と並んで天皇大権に基づく栄典制度の根幹をなすものであった。律令時代以来の伝統的な位階と西洋諸国をモデルとした勲章との和洋折衷的組合せに,日本の近代化が象徴されている。…

※「栄典制度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android