検断沙汰(読み)けんだんさた

精選版 日本国語大辞典 「検断沙汰」の意味・読み・例文・類語

けんだん‐さた【検断沙汰】

〘名〙
中世刑事事件をとりあつかうこと。検断方沙汰
※小早川家文書‐文永三年(1266)四月九日・関東下知状「沼田庄惣地頭并公文検断沙汰者、以茂平彼職畢」
② 中世、検断で、地頭らが犯罪人の没収財産の分配にあずかること。
醍醐寺文書‐寛元元年(1243)七月一九日・関東下知状「検断事〈略〉右対決之処〈略〉検断沙汰者、領家三分二、地頭三分一也」

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デジタル大辞泉 「検断沙汰」の意味・読み・例文・類語

けんだん‐さた【検断沙汰】

中世の裁判制度で、謀反強盗殺害放火刈田狼藉ろうぜきなど、刑事事件を扱うこと。また、その裁定に基づく処置

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改訂新版 世界大百科事典 「検断沙汰」の意味・わかりやすい解説

検断沙汰 (けんだんざた)

鎌倉幕府の刑事裁判。鎌倉幕府は当初,当事者の身分によって管轄を分かち,1249年(建長1)には御家人訴訟専掌機関としての引付方を発足させたが,まもなく訴訟対象によって管轄を分かつ制度に改め,不動産訴訟を対象とする所務沙汰,動産および債権債務関係を扱う雑務沙汰と,検断沙汰の3系列に訴訟制度を編成した。幕府の訴訟制度を解説した《沙汰未練書》によると,検断沙汰の対象は,謀叛夜討,強盗,窃盗,山賊海賊,殺害,刃傷,放火,打擲蹂躙,大袋,昼強盗,路次狼藉,追落,女捕,刈田刈畠であり(大袋・追落は強盗の一種,刈田・刈畠は他人の田畠の作物を強奪する行為),おおむね現在の刑事事件に相当する。

 検断沙汰を扱う機関は関東では侍所で,訴人が訴状を侍所へ提出すると,侍所頭人が銘を加えて(訴状の端裏に年月日と訴人名を記す)担当奉行に送る。京都では六波羅探題(九州を除き,美濃・尾張以西を管轄する)の検断方があたり,検断方頭人が銘を加えて奉行に送る。九州では守護が扱う。侍所・六波羅検断方とも,以後は所務沙汰に類似の訴訟手続となる。裁判所から論人(被告)に問状(もんじよう)/(といじよう)を発し,三問三答という書面による弁論,対決という口頭弁論を経て判決に至るのが所務沙汰の基本であるが,検断沙汰では直ちに問状召文(もんじようのめしぶみ)を発して論人を出頭させ,書面による訴陳を経て対決,判決に至る。訴状には犯罪発生の日時,場所,事実,論人を含む実行行為者の名を明示する必要があり,匿名の投書はこの制度のなかでは受理されない。

 刑事裁判もそれが当事者による訴の提起によって始まる以上は,民事訴訟と同じく当事者追行主義によるのが,鎌倉幕府に限らず中世の訴訟=裁判の特質である。ただし鎌倉幕府でも,幕府=権力の側が主体的に検断権を発動し,拷問を行って白状させ,断罪する手続があって,謀叛はむしろこれで処理される。検断沙汰は刑事裁判の一面にすぎない。
苅田狼藉 →山賊 →盗み →放火 →夜討
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「検断沙汰」の意味・わかりやすい解説

検断沙汰
けんだんざた

鎌倉幕府の裁判制度の一つで、現在の刑事裁判に相当する。鎌倉幕府は当事者の身分によって裁判機関を定めていたが、13世紀末ごろから、所務(しょむ)沙汰(不動産訴訟)、雑務(ざつむ)沙汰(田畑売買・動産および債権関係の訴訟)、検断沙汰と訴訟対象によって区分し、引付方(ひきつけかた)、問注所、侍所(さむらいどころ)がそれぞれ担当した。六波羅(ろくはら)探題では検断方が担当し、九州諸国の守護もこれを管掌、また諸国守護も部分的に関与した。裁判は訴人(原告)が論人(ろんにん)(被告=犯科人)を特定して訴状を提出することから始まり、およそ所務沙汰と同様の手続で進行する。訴状には犯科人のほか、事件の内容と日時を明示する必要があり、挙証責任は訴人の側にあった。室町幕府では侍所が担当し、侍所沙汰といった。

[羽下徳彦]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「検断沙汰」の解説

検断沙汰
けんだんざた

鎌倉幕府の訴訟の一区分。所務沙汰・雑務沙汰と区別され,今日の刑事訴訟に相当する。謀反・夜討・強盗・窃盗・山賊・海賊・殺害・刃傷・放火などに関する訴訟をいう。13世紀後半以降,関東では侍所(さむらいどころ),六波羅では検断方,九州では守護が扱う制度が整う。訴訟は公権力による犯罪の告発ではなく,被害者が犯人を特定し提訴することから開始された。室町幕府でももっぱら侍所で扱われ,侍所沙汰とよばれた。

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