所務沙汰(読み)ショムサタ

デジタル大辞泉 「所務沙汰」の意味・読み・例文・類語

しょむ‐さた【所務沙汰】

鎌倉室町時代、所領問題に関する訴訟裁判

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精選版 日本国語大辞典 「所務沙汰」の意味・読み・例文・類語

しょむ‐さた【所務沙汰】

  1. 〘 名詞 〙 中世、土地問題を中心とする民事訴訟幕府引付衆が専門にこれを処理した。所務。
    1. [初出の実例]「所務沙汰とは所領之田畠下地相論事也」(出典:沙汰未練書(14C初))

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改訂新版 世界大百科事典 「所務沙汰」の意味・わかりやすい解説

所務沙汰 (しょむざた)

中世,とくに鎌倉幕府法で,土地所有権の帰属および土地から生ずる果実に関する権利についての訴訟,裁判。所務は収納の意で,《日葡辞書》では〈年貢の取立て〉とする。14世紀初頭の鎌倉幕府の訴訟制度解説書《沙汰未練書》は,所務沙汰とは〈所領の田畠下地(したじ)相論の事〉と定義している。

鎌倉初期には問注所で受理し,実務処理を経て,鎌倉殿自身が裁決した。1232年(貞永1)の評定衆設置後は執権連署の出席する評定会議で判決した。1249年(建長1)引付衆設置後は引付(引付方)で判決の原案を作成し,評定で判決した。この期間は幕府は当事者の身分によって裁判管轄を定めており,評定-引付は所務沙汰を主とはするが,御家人を当事者とする訴訟を裁決するのが原理で,内容的には検断沙汰をも含んでいる。六波羅探題は予備審理を主とし,終局判決をなしたか否かは明瞭でない。しかし引付設置後まもなく幕府は訴訟対象による管轄原理に転換し,引付は所務沙汰専掌機関となった。以後,越前・尾張を境として東国は鎌倉の引付方,西国は六波羅探題の引付方,1293年(永仁1)の鎮西探題設置後は九州は探題が管掌し,いずれも終局判決を与えた。

原告を訴人,被告を論人,訴象対象地を論所という。訴人は訴状を提出し,問注所の所務賦(しよむのくばり)という担当奉行が形式的な要件の欠陥を審査したうえで受理し,賦双紙(くばりそうし)という帳簿に登録し,訴状(申状ともいう)に銘を加え(折りたたんだ訴状の端の裏の部位に案件を示す見出しと年号月日の数字を書くこと),引付方に送付して,訴が裁判所に係属したことになる。訴状が受理されると,裁判所は論人あてに問状(といじよう)/(もんじよう)を発して答弁を求める。論人は応訴するならば陳状(支状(ささえじよう),申状ともいう)を提出する。この書面による弁論を3度繰り返すので三問三答という。訴状は解状(げじよう)とも,2,3度目は二,三問状とも重申状ともいい,訴陳状の交換を訴陳に番(つが)うという。訴陳状には証拠を提示する。証拠の筆頭は証文(権利を証明すべき文書)で,訴陳状にその正文,案文を添付する場合,具書(ぐしよ)という。証拠の追加は3番目の訴陳状までにしなくてはならない。書面弁論のみで理非明確ならば判決になるが,論人に召文(召喚状)を発して対決口頭弁論が行われることが多く,引付の座で行う。証人を要するときは請文(うけぶみ)(申告書)提出の形をとる。審理が終わると,訴陳状,具書はすべて張り継ぎ,引付勘録事書という審理記録を作り,引付で判決原案を作成し,評定で終局判決を決し,下知状という形式の判決書(裁許状)を作成して勝訴者に交付する。裁許状の用紙は杉原紙である。審理中,係争地の占有を停止させることがあり,論所を中に置く,という。所務沙汰の訴訟手続は徹底した当事者追行主義であり,申状,問状,召文は訴人が論人に伝達し,以後は双方とも裁判所へ自分で訴陳状を提出する。証拠も当事者の提出により,境相論を除いては裁判所が職権で証拠を収集することはない。敗訴者が実力で抵抗するときは使節2名(両使,一方は守護代)を派遣して実現させる。これを下地(使節遵行(じゆんぎよう))という。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「所務沙汰」の意味・わかりやすい解説

所務沙汰
しょむざた

鎌倉幕府の法制上の用語で、所領(土地)の領有(所有)についての訴訟、裁判のこと。鎌倉幕府の裁判は、源頼朝(よりとも)のときは鎌倉殿(かまくらどの)たる頼朝の親裁であったが、執権政治の発展につれ、「御成敗式目(ごせいばいしきもく)」の制定を経て、評定(ひょうじょう)―引付(ひきつけ)という裁判機関が整備され、御家人(ごけにん)という身分を基準として管轄が定められていた。それが13世紀末ころから、所務沙汰、雑務(ざつむ)沙汰(田畑売買・動産および債権関係の訴訟)、検断沙汰(刑事訴訟)という、訴訟対象を基準として管轄を定める制度となり、所務沙汰は引付、雑務沙汰は問注所、検断沙汰は侍所(さむらいどころ)が管掌した。この制度の整備は弘安(こうあん)(1278~88)ころと考えられ、当事者の権利保護よりも訴訟案件の迅速な解決に重きを置く、幕府の姿勢の変化を反映したものである。所務沙汰の手続は時期により変遷があるが、典型的に発達した鎌倉末期の場合では次のようなものであった。訴人(原告)は訴状に具書(ぐしょ)(証拠書類)を添えて、問注所の賦奉行(くばりぶぎょう)に提出する。奉行は審査して手続の誤りがなければ引付に送る。引付から問状(もんじょう)を発して論人(ろんにん)(被告)に陳状(答弁書)を提出させる(これを三度繰り返すので三問三答という)。書面審理だけでは結審に至らなければ、訴人・論人を召喚して、引付の座で対決(口頭弁論)を行う。ついで引付で判決原案を作成し、評定会議の決定を経て、勝訴者を喚出して裁許状(判決書)を交付し、結審となる。裁判の進行は当事者遂行主義といって、訴・論人が自ら負担する役割が大きく、挙証責任は原則として訴人にあった。

[羽下徳彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「所務沙汰」の意味・わかりやすい解説

所務沙汰
しょむさた

鎌倉幕府法の訴訟制度の一つであり,所領の田畠下地相論事を対象とする裁判手続である。幕府にとっては,御家人の所領の保護は,きわめて緊要な政務であった。ゆえに,所務沙汰は,その訴訟制度の中心をなした。その手続の概要は次のごとくである。原告,すなわち訴人は,訴状に証拠書類の写しを添えて問注所賦奉行へ提出する。奉行は,それを五方引付中の一つへ送付し,引付は,担当奉行を選定して,被告,すなわち論人に問状を発する。論人はこれに対する反駁文,すなわち陳述を提出し,それ以後,3問3答の文書による攻防が重ねられる。奉行はこの3問3答の過程において判決が下しうるときには,ただちに判決作成の手続を開始するが,是非決しがたい場合には,訴論両造を引付の座に召して対決を行う。いずれにしても,かかる手続によって事実が認定されると,引付は,合議のうえ判決草案を作り,さらにこれを評定所に上呈する。これを受け,評定衆は重ねてその当否を議定し,ここに判決が確定された。判決には,執権,連署がこれに加判を加え,関東下知状の文書形式がとられ,勝訴者に下付される。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「所務沙汰」の解説

所務沙汰
しょむざた

鎌倉幕府の訴訟の一区分。検断沙汰・雑務沙汰と区別され,土地の所有をめぐる訴訟。所領の押領や境界紛争,あるいは地頭職の継承をめぐる争いなど。13世紀後半からは,もっぱら御家人訴訟機関の引付において扱われた。問注所に提起された訴えは引付に回され,引付では担当奉行を定めて書面による審理および口頭弁論を行い,判決原案(引付勘録事書(ことがき))を作成,評定の座に上程した。

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