鎌倉・室町両幕府の裁判機関。単に引付ともいう。1249年(建長1)12月9日に初めて置かれた機関で,三~五方の部局に分かれ,所領相論を中心とする裁判を担当した。一方は引付衆と引付奉行人とからなる。引付衆は評定衆兼務の2~3名を含んだ若干名で構成され,評定衆兼務の1名が引付頭人として,他の引付衆の補佐を得て,訴訟全体の指揮をした。引付奉行人は右筆と呼ばれた事務官であるが,引付衆の1~2倍おり,1件の訴訟に対し執筆を担当する本奉行人と,それを補佐しかつその非違を正す役を担う合奉行の2人の奉行人がそえられた。引付方での裁判は厳密をきわめ,問注所から送られてきた訴状に対して,担当奉行人を選んで審理が開始される。まず書面審理(三問三答)の上で,引付の座での口頭の弁論が行われ,引付衆・奉行人の評議を経て判決原案が作成される。それはさらに評定会議に送られ,最終決定をみ,判決文は引付頭人の手から勝訴者に渡される。こうした多くの人員と厳密な手続とを特徴とするところからも明らかなごとく,鎌倉幕府は裁判の迅速化と公正さを求めて引付方を設けたのであった。
初めて引付方の設けられた1249年は,摂関家出身の将軍頼経を退けた北条時頼が,さらに有力御家人の三浦氏を滅ぼした直後にあたり,そこには幕府への御家人の信頼を回復するねらいがあったと思われる。このときは御家人のかかわる所領相論をおもに扱い,三方の編成であった。ついで61年(弘長1)には五方へと編成が拡大されて,引付方の充実がうかがえるが,やがて引付方で取り扱う訴訟は,御家人・非御家人を問うことなく,所務沙汰といわれる所領相論を対象とするようになる。これは幕府の訴訟体系の全面的整備の一環で,このほか雑務沙汰を問注所,検断沙汰を侍所が担当した。六波羅探題においてもそのころには引付方の置かれたことが確かめられ,また93年(永仁1)には鎮西探題に引付方が見られる。このように引付方は鎌倉幕府裁判制度の根幹をなしたが,一時期北条貞時によって廃止され,かわって執奏制という執権直断の制度の置かれたこともあった。しかし2年ほどで再び引付方は復活し,その後は三方,五方と番数の変更はあっても長く維持された。鎌倉幕府を倒して成立した建武政権は引付方の機能を盛りこんだ雑訴決断所を設置したが,政権の倒壊とともに失われた。
鎌倉幕府の引付方をそのまま継承して設けられたのは室町幕府の引付方で,1337年(延元2・建武4)には五方引付制が見いだされる。その成立は前年末までさかのぼると見られるが,構成・機能は,ほとんど鎌倉幕府のそれと変わるところはない。しかし44年(興国5・康永3)に三方制の,内談方が設けられ,同じく所務沙汰を取り扱うにいたって,引付方の独自性は薄れ,幕府の裁判制度は複雑さを増し,さらに南北朝の内乱の長期化の影響を受けて,引付方の機能は著しく低下した。かくて将軍足利義満による,管領を中心とする訴訟制度の改革によって,引付方は機能しなくなった。
執筆者:五味 文彦
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…1232年(貞永1)の評定衆設置後は執権連署の出席する評定会議で判決した。1249年(建長1)引付衆設置後は引付(引付方)で判決の原案を作成し,評定で判決した。この期間は幕府は当事者の身分によって裁判管轄を定めており,評定―引付は所務沙汰を主とはするが,御家人を当事者とする訴訟を裁決するのが原理で,内容的には検断沙汰をも含んでいる。…
…鎌倉・室町両幕府の職名。両幕府の裁判を担当した引付方では,三方あるいは五方等のいくつかの部局で構成されており,その一方(部局)の長官が頭人で,部局を構成する引付衆,奉行人を統率して裁判を指揮した。御家人の指揮や検断(警察裁判)を担当した侍所では,鎌倉幕府においては長官たる別当の腹心として事実上指揮・検断権を行使したのが頭人で,室町幕府においては別当が置かれなかったため,頭人が長官として侍所を管轄した。…
…室町幕府において,引付方,侍所,政所(まんどころ),問注所,地方(じかた)などの各部局内会議のことを内談と称した。中でも,所領問題についての裁判機関である引付方の内談は重要で,引付衆のことを内談衆とも呼んだ。…
…【橋本 初子】(2)鎌倉・室町両幕府の裁判機関。引付方の略称。名称の由来は,幕府の評定会議に提訴された訴状や会議の議事録を書き留めた書類を引付といったことにちなむのであろう。…
※「引付方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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