(読み)ツルバミ

デジタル大辞泉 「橡」の意味・読み・例文・類語

つるばみ【×橡】

クヌギ、またはその実のどんぐり古名。〈和名抄
1の実またはそのかさを煮た汁で染めた色。灰汁あく媒染して薄茶色、鉄媒染して焦げ茶色黒色に染める。また、その色の衣服。
奈良時代家人奴婢ぬひの着る衣服の色。
㋑平安中期ごろから、四位以上の人のほうの色。
藤衣ふじごろもの色。喪服の色。

とち【×橡/栃/×杼】

トチノキの別名。 花=夏 実=秋》「―咲くやまぬかれ難き女の身/波郷
[補説]「栃」は国字。

とち‐の‐き【×橡/栃】

ムクロジ科の落葉高木。山地に自生。葉は大きく、倒卵形の5~7枚の小葉からなる手のひら状の複葉。5月ごろ、白色で紅斑のある花が円錐状に咲く。実は丸く、熟すと三つに裂け、中にある褐色の種子は食用。近縁種マロニエがある。庭園や街路に植栽。とち
[補説]「栃」は国字。

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精選版 日本国語大辞典 「橡」の意味・読み・例文・類語

つるばみ【橡】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「つるはみ」 )
  2. 団栗(どんぐり)の古称。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「橡子弐斗壱升 以一升染紙十五張」(出典:正倉院文書‐天平勝宝二年(750)一〇月一二日・造東大寺司解)
  3. 団栗の梂(かさ)を煮た汁で染めた色。媒染液によって色相が異なり、白橡、赤橡、青橡、黒橡などがある。また、その色の衣。
    1. (イ) 古代では、身分の卑しい人の着る衣服の色。
      1. [初出の実例]「紅はうつろふものそ都流波美(ツルハミ)のなれにし衣(きぬ)になほしかめやも」(出典:万葉集(8C後)一八・四一〇九)
    2. (ロ) 平安中期頃から、四位以上の人が着用する袍(ほう)の色。
      1. [初出の実例]「つるはみの衣の色はかはらねど一重になればめづらしき哉〈藤原顕仲〉」(出典:類従本堀河百首(1105‐06頃)夏)
    3. (ハ) 藤衣(ふじごろも)の色。喪服の色。墨染めの色。
      1. [初出の実例]「衣の色、いと濃くて、つるはみのきぬ一かさね、小袿(こうちき)着たり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)

とち‐の‐き【橡・栃】

  1. 〘 名詞 〙 トチノキ科の落葉高木。日本の特産種で、各地の山地の沢沿いに生え、庭木や街路樹にもされる。大きいものは、高さ三〇メートル、径二メートルぐらいに達する。葉は掌状複葉で五~七個の小葉からなり、長柄をもち枝先に対生する。各小葉は長さ一〇~三〇センチメートルの倒長卵形で、両端がとがり、縁に不規則な鋸歯(きょし)があり、裏に赤褐色の軟毛を密布する。五月ごろ、白色で紅色の斑のある径一五ミリメートル内外の四弁花を開く。花は多数密集した大きな円錐花序となる。果実は倒円錐形で径五センチメートル、種子はクリに似て光沢のある赤褐色に熟す。種子から澱粉をとり、橡餠橡粥をつくる。材は良質で建築・器具・楽器・彫刻などに用いる。よく似たものに、ヨーロッパ原産のマロニエがある。漢名に当てる天師栗、七葉樹はいずれも中国産の別種の名。とち。
    1. [初出の実例]「時に吉野の郡桃花の里に椅(トチノき)有り、〈国会図書館本訓釈 有椅 下云土知乃木〉」(出典:日本霊異記(810‐824)中)

とち【橡・栃・杼・栩】

  1. 〘 名詞 〙とちのき(橡)

▼とちの花《 季語・夏 》

  1. [初出の実例]「橡飲茶菜、一旬不給」(出典:三教指帰(797頃)下)
  2. 「山ふかみ岩にしだるる水ためんかつがつ落つるとち拾ふほど」(出典:山家集(12C後)下)

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普及版 字通 「橡」の読み・字形・画数・意味


16画

[字音] ショウ(シャウ)
[字訓] とち・くぬぎ

[字形] 形声
声符は象(しよう)。とち、くぬぎ。今、ゴムの木をいう。

[訓義]
1. とち、つるばみ、くぬぎ。
2. 字はまた、様に作る。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕橡 止知(とち)〔名義抄〕橡 ツルバミ・ツルバム・トチ/橡實 トチヒ/樣 トチ 〔字鏡集〕橡 カヘ・トチ・ツルバミ・クリ

[熟語]
橡果・橡橡膠・橡子橡実・橡斗・橡飯・橡皮・橡栗

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「橡」の意味・わかりやすい解説


つるばみ

植物染料の一種。またその色名。橡はクヌギ(ブナ科の落葉高木)の古名で、その実(どんぐり)を砕いたものまたは実の殻斗(うけ)(傘形のもの)を煎(せん)じ、灰汁(あく)媒染して薄茶色、鉄媒染して焦げ茶色や黒色に染める。黒に染めたものを黒橡とよび凶服に用いた。そのほか、「橡」を付して、薄茶色みのある色合いをよぶ場合がある。たとえば、白橡はいわゆる白茶色。黄橡は黄赤みの薄茶色で、木蘭(もくらん)色と同じとされる。青白(おおしろ)橡は『延喜式(えんぎしき)』によると刈安(かりやす)と紫根で染め出されるくすんだ黄緑色で青色(あおいろ)ともいわれる。赤白(あかしろ)橡は『延喜式』によると櫨(はぜ)と茜(あかね)で染め出される、赤みのある黄茶色である。養老(ようろう)の衣服令(りょう)に服色を身分の高低順に掲げ、黄橡は紅の次、纁(そい)の上に記され、上級の者が、橡は最後に掲げられ、家人(けにん)・奴婢(ぬひ)が用いるものとした。

[高田倭男]

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動植物名よみかた辞典 普及版 「橡」の解説

橡 (トチノキ・トチ)

学名:Aesculus turbinata
植物。トチノキ科の落葉高木,園芸植物,薬用植物

橡 (クヌギ・ツルハミ;ツルバミ;ドングリ)

学名:Quercus acutissima
植物。ブナ科の落葉高木,園芸植物,薬用植物

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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