蓋のある大型の箱。櫃は中国語の櫃子からきている。脚付きの唐(韓)櫃と脚の付かない和(倭)櫃(やまとびつ)とがある。唐櫃の脚は通常長側面に各2本,短側面に各1本の6本だが,正方形の小櫃などはだいたい4本脚である。漆塗の塗櫃と素木(しらき)の明櫃(あかひつ)とあり,塗櫃には蒔絵などが施されているものもある。櫃は古墳時代ころから使われていたと考えられるが,中世あたりまでは多く唐櫃が使われていた。正倉院には赤漆塗などの唐櫃が62合(ごう)遺る。保存,収納用家具であると同時に,櫃には運搬用具としての役目も大きく,その場合,脚に紐をかけて蓋の上で結び,担い棒を通して前後2人でかついだため,唐櫃のほうが便利であった。中には飲食物から武器,衣類,文書,経巻,貴重品,家具などあらゆるものが入れられた。人に物を贈る場合も櫃に入れて運んで行き,差し出すときは蓋を返してここに載せて出した。これが広蓋(ひろぶた)のもとである。近世になると唐櫃はほとんど使われなくなり,長持に変わった。長持も和櫃の一種であるが,近世以降は櫃というと葛籠(つづら)や行李(こうり)くらいの大きさの木製の物入れを指すようになった。
執筆者:小泉 和子
西洋では物を収納する蓋付きの大型の箱を〈チェストchest〉とよび,収納家具の原初的な形態を示す。すでに古代エジプトやギリシアには表面を象嵌細工や塗料で装飾した芸術的にも質の高い作品がみられた。中世前期の不安定な社会情勢の中では,移動に便利な持ち運びできるチェストが家具のなかで最も重要な種目であった。とくにロマネスク時代のチェストは一般に小型で,オークの板張りに鉄帯をまいたものが多い。中世後期になると,社会制度が固まり,人々の生活が落ち着くにつれて,チェストはしだいに大型化し,豪華なトレーサリー(はざま飾り)や襞(ひだ)模様の彫刻で飾られた。さらに上流貴族の生活様式が多様化するに従い,目的に応じて〈チェスト・オブ・ドロワーズchest of drawers〉とよぶ引出し付きの簞笥や高価な食器を収納する〈クレデンツァcredenza〉とよぶ戸棚,サイドボードなどに発展した。また,中世の城館では家臣たちが寝台の代りに長いチェストの上に寝る習慣であったので,長い箱型寝台はチェストから発展したものとみられる。中世期の椅子の多くが座部に蓋付きの箱型をとりいれていることも,チェストが中世の椅子の出発点であることを示している。ルネサンス時代のイタリアでは豪華な彫刻に金鍍金(めつき)を施した〈カッソーネcassone〉とよぶ装飾用の櫃が作られたが,これはとくに婚礼用調度として重要なものであった。アメリカでもチェストは家庭で最も重要な家具であった。17世紀末にコネティカット州で作られた下部に引出しを備え,表面にヒマワリやチューリップを浮彫りにした素朴な櫃は〈コネティカット・チェスト〉,18世紀のペンシルベニア地方で作られたダーク・グリーンの地に花文様と果物や鳥などを組み合わせたペイント塗りの素朴な櫃は〈ペンシルベニア・チェスト〉とよばれ,ともに婚礼調度として愛用された。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
… 作りつけの家具というものは,東西ともにほとんどなかったらしい。西洋の室内でのもっとも重要な家具は,戸棚と櫃(ひつ)と寝台とであった。戸棚はブルジョアジーの家庭でも農家でも,もっとも自慢のたねとしてすえつけた家具で,衣類,銀器,書類,貯金などを入れておいた。…
※「櫃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新