(読み)くも(英語表記)cloud

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精選版 日本国語大辞典 「雲」の意味・読み・例文・類語

くも【雲】

〘名〙
① 大気中の水蒸気が冷却、凝結し、微細な水滴や氷片の大集団となって空中に浮游しているもの。形によって巻雲、巻積雲、巻層雲、高積雲、高層雲、層積雲、層雲、乱層雲、積雲、積乱雲の一〇種に分類され、高度によって上層雲、中層雲、下層雲に分けられる。
※古事記(712)中・歌謡「畝傍山(うねびやま) 昼は久毛(クモ)と居(ゐ) 夕されば 風吹かむとそ 木の葉さやげる」
② (①が空にかかっているさまに似ているところから) ①にたとえていう。
(イ) 一面にひろがって霞んだりたなびいたりしているもの。
※夫木(1310頃)一九「思ふ人心隔てぬかひもなし桜の雲の八重の遠方(をちかた)〈藤原定家〉」
(ロ) 心の晴れないこと。
※金葉(1124‐27)雑上・五九三「何か思ふ春の嵐に雲晴れてさやけき影は君のみぞ見む〈周防内侍〉」
③ (雲の形は常に変化し、定めないところから) 頼みがたいこと、あてにならないこと、またあとかたのないことにたとえる。→雲を当て
④ ①は高所にあるところからたとえていう。
(イ) きわめて遠い場所や高い場所。また、天、空。
※浄瑠璃・曾我五人兄弟(1699頃)兵者揃へ「鈴鹿の鬼神退治の時、雲を攀(よ)ぢたる旗の上」
(ロ) きわめて高い地位、階級。→雲の上人(うえびと)
※宇津保(970‐999頃)楼上下「かねてより雲かかりけるさくら花むべこそ末の小高かりけれ」
(ハ) 程度が高く、及びもつかないもの。現実を離れたもの。→雲の上
⑤ 死人の魂や火葬の煙を①に見たてていう。また、死人の魂は昇天して「雲隠(くもがく)る」とも「天翔(あまがけ)る」ともいうのに基づく。
※書紀(720)斉明四年五月・歌謡「今城なる小丘(をむれ)が上に倶謨(クモ)だにも著(しる)くし立たば何か歎かむ」
⑥ 京、大坂から漉(す)き出す紙をいう女房詞。
※御湯殿上日記‐長享元年(1487)一〇月一日「ひんかしのとうゐんとのより御こふ、くも一御ふた、文にそひてまいる」
⑦ ①をかたどった模様。
たまきはる(1219)「雲つけたるひとへなど重ねて着たりき」
⑧ 紋所の名。一つ雲、降り雲、三つ重ね雲などがある。
⑨ (煙を①に見立てて) タバコをいう、大工・てきや・盗人仲間の隠語。
※新ぱん普請方おどけ替詞(1818‐30頃か)「たばこを、くも」

うん【雲】

〘名〙 餠のこと。雲門。雲子。
蔭凉軒日録‐延徳三年(1491)六月二七日「顕等喫雲飲霞又喫瓜」

くむ【雲】

〘名〙 「くも(雲)」の上代東国方言。→青雲(あおくむ)

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デジタル大辞泉 「雲」の意味・読み・例文・類語

くも【雲】


空気中の水分が凝結して、微細な水滴や氷晶の群れとなり、空中に浮かんでいるもの。高度や形状によって種類を分ける。→雲級

㋐確かでない形・行動・所在などのたとえ。→雲をつか
㋑きわめて高い所や遠い場所、また、そうした地位・身分のたとえ。「の上の人」
㋒一面にたなびいたり、広がってかすんだりしているもののたとえ。「花の
㋓すっきりしない気持ち・表情などのたとえ。
「身をさらぬ心の月に―はれていつかまことのかげも見るべき」〈新後撰・釈教〉
㋔火葬の煙のたとえ。
「あはれ君いかなる野辺の煙にて空しき空の―となりけむ」〈新古今・哀傷〉
紋所の名。浮雲をかたどったもの。
日本の新劇の劇団。主宰は劇作家・評論家の福田恆存。昭和38年(1963)、文学座を集団脱退した芥川比呂志ら約30名の劇団員が現代演劇協会を設立し、その附属劇団として同時に創設された。同年3月、福田の翻訳・演出によるシェークスピア真夏の夜の夢」の公演で旗上げ。昭和51年(1976)解散。正称は劇団雲。
[補説]書名別項。→
[類語](1ガススモッグ光化学スモッグ朝靄夕靄夕煙白雲はくうん白雲しらくも青雲紫雲茜雲黒雲暗雲彩雲浮き雲千切れ雲片雲横雲棚雲豊旗雲笠雲飛行機雲巻雲巻積雲巻層雲高積雲高層雲乱層雲層積雲層雲積雲積乱雲筋雲鰯雲鯖雲鱗雲薄雲羊雲群雲朧雲乱雲雨雲雪雲曇り雲霧雲積み雲綿雲入道雲雲の峰かなとこ雲雷雲夕立雲夏雲雲脚雲行き雲海雲形雲量

うん【雲】[漢字項目]

[音]ウン(呉)(漢) [訓]くも
学習漢字]2年
〈ウン〉
くも。「雲海雲散雲集暗雲暁雲巻雲けんうん彩雲紫雲瑞雲ずいうん星雲戦雲白雲風雲雷雲
高いこと、遠いことなどのたとえ。「雲客雲桟雲上人うんじょうびと
出雲いずも国。「雲州
〈くも(ぐも)〉「雲脚雲間雨雲浮雲薄雲黒雲白雲夏雲雪雲綿雲
[名のり]も・ゆく
[難読]雲丹うに雲母きらら東雲しののめ雲雀ひばり雲脂ふけ水雲もずく雲呑ワンタン

くも【雲】[書名]

山村暮鳥による詩集。著者没後の大正14年(1925)に刊行された。

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改訂新版 世界大百科事典 「雲」の意味・わかりやすい解説

雲 (くも)
cloud

微細な水滴(雲粒)または氷の結晶(氷晶)が集まって空気中に浮かんでいる状態をいう。ふつう平均の雲粒(または氷晶)の大きさは半径数μmから10μm程度であり,これらの落下速度は非常に小さいので,上昇気流のある空気中ではほとんど浮いている。なお,地球以外の惑星でも雲の存在が知られている。

大気中で雲粒ができるためには種々の段階を経なければならない。雲粒は大気中の水蒸気が凝結して水滴となるか,昇華して氷晶となったものである。凝結が起こるためには凝結核(凝結の心)が必要である。水蒸気はいくら多く集まってもそれだけでは容易に水滴にはなりにくいが,凝結核があると容易に凝結が起こり,水蒸気が多く集まってきて水滴が形成される。また同様の理由で,0℃以下で水蒸気が多く集まっても氷晶はできないが,氷晶核(氷晶の心)があると容易に昇華が行われ氷晶をつくる。

 雲の凝結核として重要なものは,海水のしぶきが乾燥してできた海塩の粒子や工場などから排出される微粒子や土壌物質などであるが,これらは大気中に十分に存在する。氷晶核として重要なものは鉱物質(黄砂,火山灰,粘土など)であるが,これらも1l中にふつう0.1個程度は存在する。

 次に,大気中の水蒸気が凝結,昇華し,雲粒や氷晶ができるためには,それぞれ飽和状態から過飽和状態を経なければならない。大気が含むことのできる水蒸気の量は気温が高いほど多い。もし水蒸気を含む大気が冷却されると,気温によって決まる飽和状態に達し,なお冷却されると余分な水蒸気を含む状態(過飽和状態)となる。この状態は不安定なため,余分な水蒸気は凝結核や氷晶核の上に凝結や昇華を起こして水滴や氷晶となる。

 大気の冷却は一般に大気の上昇によって起こる。すなわち,(1)下層の暖かい空気の上に上層の冷たい空気がくると上下方向に不安定となって起こる対流上昇,(2)山などの地形に気流がぶつかって起こる地形上昇,(3)暖かい空気と冷たい空気が接触した前面にそって暖かい空気が昇ってゆくか,暖かい空気が冷たい空気の下にもぐりこむような前線付近の空気の上昇,などである。こうした場合,空気は断熱上昇による変化(断熱冷却)を起こし,乾燥した空気では100mにつき1℃,湿った空気では約0.6℃気温は下がる。このために水蒸気は飽和状態を経てついには過飽和状態になる。その過飽和の度合は飽和状態を100%とすると,ふつうわずか1%以下でしかないが,水蒸気は凝結核(または氷晶核)を心として容易に微水滴(または氷晶)をつくる。

 なお,地面付近で,暖かい気塊と冷たい気塊の混合,または地面の放射冷却などで空気が冷えるときなどに発生したものはと呼ばれる。

雲粒の大きさや濃度(1cm3中の個数)は雲の種類や成長段階によって違うが,たとえば小さい大陸性の積雲では大部分の雲粒は半径5μmで200~300個/cm3程度,積乱雲中では10μmで100個/cm3程度である。急速にできた雲中では粒の大きさの程度(粒度分布)はそろっているが,比較的ゆっくりできた雲中においては大小の雲粒がまじって幅広い程度分布となっている(図1,2)。

 雲粒が落下するときの速度は,落下の初めはしだいに増加するが,最終的には空気の抵抗とつりあい,一定の速度(終端落下速度)となる。終端落下速度は半径5μmで0.3cm/s,10μmで1.2cm/s,20μmで4.7cm/sである。氷晶の終端落下速度は氷晶の形で大幅に違い,たとえば直径1.53mmの針状結晶で50cm/s,3.26mmの平面樹枝状結晶で31cm/s,2.45mmの雲粒付き結晶で100cm/s,2.13mmのあられで180cm/sである。

 一定体積中(1m3 中)の雲粒の総量を雲水(くもみず)量という。これは層雲や高層雲などでは小さく0.05~0.5g/m3 程度,小さい大陸性の積雲内で0.3~0.4g/m3 程度,積乱雲中で1~3g/m3 程度である。この量が大きいと雨滴の形成の速度が大きくなり,降雨の開始と密接な関係がある。

雲の形を雲形といい,おもに形態的特徴から世界気象機関(WMO)の《国際雲図帳》では類,種,変種と細分している。このうち類には10種あり,一般にこの基本形を10種雲形(雲級)と呼んでいる表。

 雲には,その発生する高さがほぼ定まっている層状雲と,高さの定まらない対流雲がある。前者は上層の雲,中層の雲,下層の雲に分類される。後者には積雲,積乱雲などがある。雲のうちに発生する高さがほぼ定まっているものがあるのは次の理由によると考えられる。雲の生成には大気の上昇による断熱膨張とそれに伴う冷却が必要である。しかし,凝結核の種類と濃度,そして水分と上昇流の速度によってできかたが違う。すなわち,下層では大きな吸湿性の凝結核が多く水分も多いので,雲水量の大きい下層の雲ができる。しかし,空気がそれ以上に上昇するとき,凝結核は小さく,濃度も小さいし,水分も比較的少ないため,そう簡単に大気は飽和しない。そのためふつう,ある程度高くならないと雲はできない。この高さは中層の雲の高さである。同じような理由で上層の雲ができる。したがって対流圏中ではだいたい三つの層に分かれて雲ができる。もちろん濃い雲の場合(高層雲,乱層雲など)のときは異なった層の雲と連続することがある。対流雲ではその中で混合が激しく,各層を貫いて存在する。

(1)層状雲 (a)上層の雲 対流圏の上層に現れる雲で,ほとんど氷晶によってできている。低気圧などがくるとき,地上から見ているとまず上層の雲,次いで中層の雲というように現れてくるので,天気の悪くなる目安ともなる。絹(巻)雲は昔は〈霊之雲〉とも呼ばれていたが,細い絹状などの構造をもち,絹(巻)積雲はよくまだら状を示し,絹(巻)層雲は一様な層状構造でよく日暈,月暈をかぶる。これらの雲はジェット気流の南側に広範囲に現れることを気象衛星が報じている。(b)中層の雲 高積雲,高層雲,乱層雲は対流圏の中層にできる雲(多くは水滴の雲で,上層に氷晶を含むことがある)で,この中層では上昇流も比較的活発なので,上層の雲と構造が異なっている。高積雲は絹積雲の塊より数倍大きい団塊状をなし,秋などの晴れたときに現れる比較的安定した雲である。高層雲は灰色に一様に広がっていて,上層は一部氷晶からできており,低気圧の近接しているときに現れる。底面から尾流が下がってきて下層の雲を刺激することがあり,シーダー(雨の刺激源)ともなる。(c)下層の雲 層積雲は団塊状や波状の構造の白色または灰色の雲で,積雲や積乱雲が広がってできることがある。また中層から降雨を刺激するシーダーとしての尾流が下がってくるとき,フィーダー(降雨の供給源)としての水分を補給する。すなわち,降れば層積雲または乱層雲により十分補給される。層雲は大気の下層でできる一様な灰色の,水滴からできた雲であるが,地面に近い高さでゆっくりした上昇流(前線や障害物による強制上昇)のとき発生する。したがって山にできる雲は層雲が多いし,海霧も層雲の下がってきたものであることがある。層雲は比較的薄いが,霧雨が降ることもある。乱層雲は全天を暗灰色におおい,ふつう雨や雪を伴っている。これは高層雲が厚くなって下層まで広がってきたときに起こる。また積乱雲が広がってきたときにも発生する。

(2)対流雲 積雲,積乱雲は大気が不安定なとき,上下の対流が激しくなってきて下層の湿った空気の急速な断熱上昇によって発生したものである。全体は鉛直にキャベツ形またはドーム状をしており,おもに水滴からできている。ときにしゅう雨を伴う。積乱雲はかなとこ雲,または入道雲ともいい,積雲の発達したものである。そして鉛直にドーム状またはかなとこ状に発達し,ときに成層圏までのびる。また上部は氷晶からなっており,しゅう雨,しゅう雪,そして雷やひょうを伴う。さらに竜巻,下降突風などを伴うこともある。積乱雲と乱層雲などが重なると,ときに持続する集中豪雨,集中豪雪が発生する。

雲の観測には以下にあげるようなものが行われる。

(1)雲量 全天に対し雲におおわれた部分の量を雲量と呼ぶ。雲量は肉眼で観測するほか,全天カメラ(半球状の反射鏡による雲の像を撮影するカメラ)で撮影して観測する。また近年,人工衛星により雲量を測定することも可能となった。雲量は太陽放射の量と地表の熱の収支を調べ,気候の変化を考えるうえに重要である。気象観測では雲量0~1を快晴,2~8を晴,9~10を曇といっている。

(2)雲頂と雲底 雲の最頂部(雲頂)の高さを雲頂高度という。現在では人工衛星により測定されている。雲頂付近が氷晶でできているか,また雲頂の一部が急に上昇しているかなどを知ることにより,雲中で降水が起こっているか否かの目安をたてることができる。雲の底面(雲底)の高度を雲底高度(シーリング)と呼ぶ。雲底高度は航空機の発着上重要なので,飛行場ではシーロメーター(地上から光を雲にあて,その反射光で雲底を測定する)やシーリングバルーンが使用される。

(3)雲形 雲形は前述の分類に従い地上から肉眼で観測される。

(4)雲の運動 雲の進行してくる方向を雲の向きといい,北から45度ごとに区切った8方位で表す。また雲の速さは緩,中,急の3階級に分けて表す。雲の運動は上層の風や気流の変化を知るうえで大切であり,地上から観測するほか,近年は人工衛星によって観測されている。

(5)凝結核と氷晶核 凝結核数の測定には一般に熱拡散箱が利用される。これは湿った箱の上部を暖めて下部を冷やし,箱の内部を過飽和状態にして凝結核より雲粒をつくり観測する方法である。氷晶核は,冷却箱を用い,冷えた砂糖溶液内で氷晶を成長落下させて観測するなどの方法で測定される。

(6)雲粒と氷晶 雲粒は酸化マグネシウム膜につけるなどして直接観測するほか,ミリ波レーダーや光冠の状況などによって間接的に測定される。氷晶はプラスチックフィルムに氷晶をぶつけてその形を測定するレプリカ法などによって測定される。

(7)雲水量 雲水量は,ろ紙に水により変色する薬品(ウォーターブルー)をしみ込ませ,これに雲粒を衝突させて変化した痕跡から測定したり,熱線型雲水計で雲水を水に直接変えて測定するなど直接的な方法によって,あるいは雲粒の大きさとその濃度を測定することによって間接的に測定される。

(8)濃度 雲の濃度はミリ波レーダーにより,あるいは,一定の光が雲の中で見えなくなる距離を観測することなどから測定される。

従来,雲の測定は地上からの肉眼による観測に限られていたが,第2次大戦後半よりしだいに気象レーダーが使用されるようになり,近年は気象衛星によって宇宙から広域の雲の量や性質を把握できるようになっている。

 気象衛星は宇宙から大気を観察するものであるが,たとえば日本の気象衛星〈ひまわり〉を例にとると,二つの波長域の光を観察している。すなわち,可視光線と赤外線である。気象衛星のデータからは雲写真を得るほか,温度が測定できる。黒体から放射される光の波長と放射エネルギーは温度によって決まる(プランクの放射則)が,厚い雲からの光(放射)はほぼ黒体からの放射と状態が似ているので,衛星で観察した光を黒体放射の場合と比較することで雲頂温度が算出できる。これにより雲頂高度を推定できる。また気象衛星のデータによる雲頂高度とゾンデ観測のデータとを比較してみると,ゾンデの方はより精密にわかるので衛星のデータのチェックに使われる。将来マイクロ波を発射する気象衛星を日本でも打ち上げる計画があるが,これによると雲中の雲水量の多いところや降水域を検知できる。現在の〈ひまわり〉やNOAA(ノア)などの気象衛星では,雲の中で降雨があるか否かは明確にはわからない。ただ赤外線により雲の高度が,可視光線により雲の密度がわかるので,だいたい降雨域の推定はつく。

 衛星から雲を観察すると雲のパターン(型)の変化が見事にわかる。バンド状,回転渦状,波状,縞状など多くの雲の状態が観察される。とくに台風のときの巨大なスパイラルバンド雲,集中豪雨のときの停滞した背の高い雲,集中豪雪に関係する主風向に直角に並ぶトランスバーサルの雲など,最近では多くの研究結果が発表されている。雲の動きを刻々とらえて風ベクトルを計測し,雲の移動速度分布を広範囲に知ることもできる。また,台風の進路予想のうえで,衛星による台風中心(雲の渦の中心)の追跡,進行方向の低気圧との相互作用など衛星の役割は大変大きい。そのほか,極軌道衛星を利用して大気の鉛直方向の気温分布などを測定することもでき,大気構造と雲の発達の研究は最近著しく進歩してきた。さらに,先に述べたように衛星による雲の量と地上および上層の日射,放射量の対比にも着々と研究がのびている。もちろん,雲と前線の対応,地上天気との対比は天気予報上,重要な仕事になっている。

 気象観測用レーダーにはふつう波長5.7cmの電波を用いる。これにより雲中の大雲粒や雨滴を検知し,反射波(エコー)としてとらえることができる。すなわちDを大雲粒の直径,Nを単位体積中の雲粒数とすると,エコーの強さはΣND6となる。レーダーでは層状の雲は一様なエコーとして,対流雲はふつう比較的はっきりした点状のエコーとして検知する。また,雲粒自体はふつうのレーダーでは検知できないが,波長がミリ単位のミリ波レーダーを使用すれば雲の鉛直断面を見ることもできる。レーダーと気象衛星を組み合わせると,雲粒→大雲粒→雨滴の過程がかなりわかる。たとえば低気圧が近よってきて雨がしだいに降りだす過程などをとらえうる。

雲はふつう+と-の電気を,比較的少量であるがほぼ等量に帯びている。しかし,対流雲中では+と-の電気分離がもっと激しく行われ,この中で生成されるひょうや雪片は-の電荷を,まわりの空気は+の電荷を帯びていることが多い。雷雲中では雨滴の分裂,過冷却水滴と氷粒との衝突,氷粒どうしの衝突などで+と-の分離が大量に行われ,雲中の部分に蓄積される。それが,相互にまた地面に放電するのが雷放電()である。

 また地表で電場の強さを観測していると,雷雲の近くにあるときはもちろん,少し厚い雲が近くにきても電場は変動する。一見おだやかに見える雲でもその内部では電気的にも活発な変化がある。

 なお,雨との関連については〈〉の項目を,地球の熱収支に与える影響については〈大気放射〉の項目を参照されたい。

雲のコラム・用語解説

【雲の名称】

[雲の性質による名称]
過冷却雲
0℃以下でなお水滴にとどまっている雲。高層雲や積雲,積乱雲の一部にはこの現象がよくみられる。ここにヨウ化銀のような種をまくと氷晶ができ,これが成長すると降水の源となる。
対流雲
上昇気流が鉛直方向に強く起こったときに起こる雲。積雲,積乱雲がこれに属する。低気圧の寒冷前線,台風の中心付近,雷雲などに伴う雲。ときにひょう,雷などを発生することがある。人工降雨,ひょう抑制,雷防止などの実験の対象になり,カフカス地方の降ひょう抑制実験(大砲の砲弾中に火薬とともにヨウ化銀をつめて雷雲中心部で爆破)は有名。層状雲中に強く対流雲が起こるとしばしば大雨,大雪の原因となる。
[種に属する雲]
かぎ状雲
絹雲に現れ,端がかぎ状に曲がっているか,ふさ状になったコンマ形をしたもの。ふさ状の上部が丸みをもったこぶ形のものはふさ状雲である。
霧状雲
霧のように,また繊維がもつれて,よれ目の見えるような薄い絹雲のことをいう。夏以外のときに出現すると天気は下り坂になることがある。
層状雲
雲は多少にかかわらず上昇気流中で発生するものであるが,それがゆっくり斜め横方向に上昇してゆくと,雲は層状にたなびく。この状態の雲をさしていう。低気圧などに伴うことが多い。しかし,層状でも雲の内部では乱気流が多かれ少なかれ起こっている。この雲には外側からたえず新しい空気が取り入れられているので,その際,乱気流が発生する。対流性の雲(積雲,積乱雲)がこの層状雲に重なると大雨や大雪が降ることが多い。
多毛雲
積乱雲の頂部のかなとこ形の雲が多くの毛状構造をなしているとき,これを指していう。
断片雲
一様に広がらずに断片的に広がっている層雲や積雲を指していう。
塔状雲
雲の上部に丸いこぶや小さな塔の形をして多く並び,ちょうど城壁の塔のように見えるのでこの名がある。共通の雲底でつながって線状に並んでいる。絹雲,積雲,高積雲,層積雲に現れる。
並雲
キャベツ形のふつうの小規模の積雲。この雲の中では対流活動は比較的活発である。
濃密雲
ふつうの絹雲と違って雲全体が濃く半透明の部分が少なく,刷毛目などが比較的少ない雲。
ふさ状雲
絹雲,絹積雲,高積雲がふさふさとした模様を示すとき,これを指していう。
へん平雲
もくもく盛り上がらずにへん平状をなしている積雲のこと。
無毛雲
積乱雲の頂部のかなとこ形の雲が,毛状でなく一様に広がったとき,これを指していう。
毛状雲
ウマの尾やヤギのひげのような形をしている絹雲。とくに尾が下に向いたときは天気がくずれるとされている。上層の不連続面にそって発生する。
雄大雲
積雲が発達して雲頂が圏界面まで達するような雲。雲頂がまだ丸みを帯びている。これがかなとこ形に変化すると積乱雲である。
レンズ雲
笠雲やつるし雲と同様に上層の風が強いときに地形の影響でできたレンズ状の雲。山越えの気流は,大気が安定で風が強いときには,比較的安定した波状の気流をつくるが,その凸状部にこの雲は起こる。
[変種に属する雲]
すき間雲
あちこちにすき間が多くあるような層積雲のこと。
二重雲
絹雲,絹層雲,高積雲,高層雲,層積雲が2層の構造をなしているとき,これを指していう。たとえば2重の高積雲は斑状と綿状を示し,2重の層積雲は上層のが黄色を帯び,下層のは黒ずんでいる。一般に天気が急変するときに起こる。
波状雲
絹積雲,絹層雲,高積雲,高層雲,層積雲,層雲に共通して現れる変種で,波状の構造を示している雲。大気の成層状態によって波状構造が起こる。
蜂の巣状雲
雲層に丸みがかった穴があいたり,不規則に乱れた穴があく雲。絹積雲などに見られ,低気圧や前線の通過後にやってくる高気圧におおわれるときに発生する。
半透明雲
比較的薄い層積雲または層雲などで半透明状に広がっている雲。
不透明雲
層積雲や層雲などが不透明状に広がっているとき,これを指していう。
放射状雲
平行に並んだ帯状雲が透視効果のために水平線の一点から放射状に広がって見えるときこの名で呼んでいる。ふつう絹雲,高積雲,層積雲などの変種がある。
もつれ雲
絹雲の毛状の構造がもつれあっているとき,これを指していう。
肋骨雲
魚の骨や肋骨のように濃密な直線状の雲を真ん中にして直角に縞模様が出ているもの。この種の絹雲は雨天になる前によく出現する。
[部分的に特徴のある雲,付随して現れる雲]
アーチ雲
積乱雲の前面下部に現れる水平にのびたロール状の濃い雲で,アーチ状,弓状に見える雲。ときには積雲にも現れる。
かなとこ雲
積乱雲の上部に氷の結晶でできたかなとこ形の雲のことをいう。ときどきここから外部に雷が起こることもある。この雲ができるときは積乱雲の活動が強いことを意味している。この雲が横にたなびき隣の雲に氷の種をまき,降雨を促進することもある。
降水雲
降雨,降雪,降ひょう等の降水をもたらす雲を降水雲という。雲の厚さが大きいとか過冷却状態であるとかいうことなどが必要条件となる。降水が地表まで達しないものを尾流雲という。
ずきん雲
帽子のような形で,他の雲に付随して現れる雲。おもに積乱雲や積雲の上部にくっついたり,雲頂の少し上方に離れて現れることがある。
ちぎれ雲
ぼろぼろの断片状の雲で,他の雲に付随して現れる。高層雲,乱層雲,積雲,積乱雲の下に離れて現れるが,ときにはくっついて現れることがある。
乳房雲
層積雲,積乱雲,高層雲,高積雲などの雲底がウシの乳房のように垂れ下がっているときこの名がつけられている。
尾流雲
雲底から降水があっても蒸発してしまって地表まで到達しない状態のときの雲。地表に達するものは降水雲である。層状雲からはよく見られるが,降水は消滅しても蒸発により重くなった空気の下降流は起こることがある。
ベール雲
もともとベールは船の帆とかテントの垂幕の意味であるが,おもに積乱雲や積雲の上部にくっついたり,雲頂のすぐ上に水平に大きくベール状に広がる。これも,他の雲に付随する雲の一種である。
漏斗雲
積乱雲などの雲底にときどき見られる雲で,柱状または漏斗状の形状をしている。これは雲中に発生した強い渦の軸と一致しており,地表に達するときこの渦は竜巻またはトルネードといわれている。
[地形性の雲その他]
いわし雲,うろこ雲,さば雲
絹積雲の一種で魚のうろこのように見える雲。
雲海
層積雲や積雲などがたなびいたときに山の上から眺めると海面のように見えるのでこの名がある。富士山の場合,日の出,日の入りのときに雲海の上に山の影を見ることがあり,影富士といっている。人工降雨実験のとき,雲海の上に種まきしたあとが見えるならば効果があったということになる。
笠雲
富士山のような孤峰に強制上昇の気流が起こると,山頂付近に笠をかぶったような雲が発生することがある。一般にこのときは上空の風が強く,気層はある程度安定している。このとき山の風下で乱気流の起こることもある。雲が全体として動かないように見えるのは次々と風上で雲が発生して風下で蒸発して消えるためである。シチリア島のエトナ山には〈風の伯爵夫人contessa del vento〉という名の笠雲がかかる。
きのこ雲
火山爆発や大量火薬の爆発(最も大規模なものは核爆発)によってできた巨大なキノコ形の雲。はじめ球状になるが積雲状に盛り上がり,ベール雲やずきん雲を伴うことがある。上空に達した雲頂部は横に広がる。雲の大部分は煙や塵埃(じんあい)などの固形微粒子からできているが,一部には水滴も含まれている。しゅう雨や雷を伴うことがある。
くらげ雲
ふさ状雲の一種で,クラゲの形に似て丸い雲塊の下部にほつれた尾を引いている雲。
真珠母雲
真珠雲ともいう。成層圏に出現する雲で,おもに冬にスカンジナビアスコットランドで観測され,アラスカで見られることもある。平均約25kmが出現高度で,形と色がシンジュガイの内面に似ている。
滝雲
山の稜線の風上側から押し寄せた雲層が,風下側へ滝のように垂れ下がった状態の雲。
つるし雲
山岳があるとき,これに強い気流がぶつかると,気層がある程度安定のとき山岳波が発生する。この中でレンズ状に雲ができると,ちょうど空中からつるしたように見えるのでこの名がつけられている。笠雲と同じように風上では雲ができ,風下で蒸発して消えるので,形は全体として止まっているように見える。気流の流れがはっきりしているので人工降雨の効果を見るにはよいと思われる。ドイツ南東部の山岳地帯に出現する絹雲性のつるし雲はモアツァゴトルMoazagotlと呼ばれる。
入道雲
発達した積乱雲が巨大な団塊状になって坊主頭のように見えるのでこの名がある。江戸方言では利根川の異称である〈坂東太郎〉ということがあり,大阪地方では丹波方面の山に発生する入道雲を〈丹波太郎〉と呼ぶことがある。
旗雲
山頂付近に停滞して現れる雲。山頂から風下に向かって旗がなびくように見える。smoking mountainとも呼ばれ,アルプスのマッターホルンによく現れる。笠雲が風下側にのびて旗のように見えるときもこう呼んでいる。山頂付近から雪が飛ばされて旗のように見えるときにもこの名がついているが,雲ではない。
飛行機雲
飛行機の航跡にできた雲。大気が飽和状態に近いとき航空機の排気ガスが心核となって水蒸気が凝結してできる。その形を観察していると,速やかに拡散して消滅するときは大気が比較的安定であるが,この雲が発達してゆくときは大気が不安定であるため天気が悪くなる前兆である。飛行機が薄い雲層中を通過するとき,航跡にそって細長く雲のない筋ができることがある。これを〈消滅する飛行機雲〉といって,飛行機の排気ガスの熱によって雲粒が蒸発してできるものである。
ひつじ雲
ヒツジが群れをなしているように見える雲。雲の分類上は高積雲に属するが,積雲や層積雲の場合もある。
夜光雲
真珠母雲よりも高いところ(約80km)に出現する雲。高緯度地方の夏の夜間にまれに観測される。外見は絹層雲に似ているが,色は青みがかった白色で,地平線近くではやや赤みがかる。非常に薄い雲で,しばしば波状構造が認められる。
ロール雲
ローター雲ともいい,下層の風向が上層風向と逆向きになっているとき,その間で発生するつるし雲は水平のロール状となって回転する。このような風のこう配(シアー)のあるときロール雲がしばしば起こる。
執筆者:

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北欧神話によれば,太古に神々の王オーディンが,弟のビリとベーの2神と協力して巨人ユミルを殺し,その死骸から宇宙を創造したときに,雲はこの〈世界巨人〉の脳髄から造られた。

 ギリシア神話では,雲は,最高神ゼウスが持つアイギスという山羊皮の楯によって,自在に集められたり散らされたりする。この〈雲楯〉をゼウスは,彼より前に世界を支配していた神々のティタンたちと戦ったときに,自分がその乳で養われた牝山羊アマルテイアの皮を剝いで造ったといわれる。ゼウスはまたあるとき,彼の妃のヘラに,ゼウスによって天上に住むことを許されていた英雄のイクシオンが恋慕し,人間の身で非道にも神々の女王を犯そうとすると,雲でヘラとそっくりの姿を造り,イクシオンにこの雲ネフェレNephelēを抱かせた。そして妊娠したネフェレから生まれたのが,上半身が人間で下半身が馬の好色で乱暴な怪物ケンタウロスたちであるという。雲女のネフェレは,後に人間の王アタマスと結婚し,フリクソスという息子とヘレという娘を産んだが,アタマスはそのあとでネフェレを離別しテーバイの王カドモスの娘イオを妃に迎えた。しかし自分の産んだ子どもたちがイオに迫害され殺されそうになると,ネフェレはゼウスから空を飛ぶ金の毛の牡羊を与えられ,フリクソスとヘレをそれに乗せて故国から脱出させた。空を飛んで行く途中でヘレは,彼女にちなんでヘレスポントスと呼ばれることになるダーダネルス海峡に落下して溺死したが,フリクソスは無事に黒海の東端にあった国コルキスに着き,そこで牡羊をゼウスに捧げ,金毛の羊皮は剝いでその国の王アイエテスに贈った。後にそれをギリシアに取り戻す目的でアルゴ船の遠征が(アルゴナウタイ伝説)おこなわれるこの〈金の羊毛皮(金羊毛)〉には,雲と結びついた王権のしるしであるという点で,アイギスと共通した意味が認められる。

 北アメリカの原住民のプエブロ族は,雲を死者の霊とみなして〈雲の人々〉シワンナと呼び,神話の中で活躍するカチナと呼ばれる祖先たちとも同一視している。
執筆者: インドネシアティモール島のアトニ族の社会では,雨季の訪れがおそいときには一匹の黒い色の動物を供犠してきた。黒い雲が必要だから黒い動物を捧げるのだという。アフリカのサンにとって黒い雲は雨をもたらすから吉兆と考えられている。

 鹿児島県大島郡徳之島においては,人々は正月元旦早朝に起きて,未明の空が明るくなると空をぐるりと見渡して雲のあるところを探し,雲が多く黒雲の出ている方位をその年の恵方とした。この恵方が定まると一家の主人はその方位にある泉に若水をくみにおもむく。かくて雲をもって恵方定めとするほどに島人にとって雨水は稲作のみならず飲水として貴重であり,水を粗末にすると水神のたたりでハブ(毒蛇)の災難にあうとされてきている。
雨乞い → →
執筆者:


雲 (くも)
Nephelai

前423年にアテナイのディオニュシア祭において上演されたアリストファネス作の喜劇。家族の浪費のため借金に苦しんでいるアッティカ郊外の農夫ストレプシアデスは,この借金を返さずに済むようにと,〈負け目の議論を勝たせる法〉を伝授するとのうわさがあるソクラテスの学校へ入学する。自身で術を会得することを断念した彼は,息子に術を得させるが,息子は借金を言いくるめて帳消しにする議論とともに,子が親をなぐっても良い論理をも習得してきてこれを実行。あてがはずれ怒ったストレプシアデスは,ソクラテスの学校に放火して幕となる。構成上,アリストファネスの初期喜劇の中では変わった点が多く,そのためか,上演審査員は3等すなわち出品されたもののうちでは最低,との評価を下した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雲」の意味・わかりやすい解説


くも
cloud

大気中に、微小な液滴または固体の粒が群をなして浮かんでいるもの。惑星大気中には、さまざまな物質からできた雲が生じる。地球大気の場合は、おもに対流圏の中で、空気中に含まれる水蒸気が水滴または氷晶に変化し、いろいろな形の雲が生じる。雲底(雲の底面)が地表面に接しているときは、雲といわずに霧という。しかし、山頂の霧(登山用語ではガスという)は、遠くから見ると雲に見えるから、両者の区別が明確にできない場合もある。

[木村龍治]

雲形の分類の歴史

紀元前200年ころ、古代ギリシアのテオフラテスが雲形についての記録を残しているが、それ以後2000年間にわたって、雲形に関する文献はみいだされていない。18世紀末にドイツのマンハイムで作制された『気象観測の指針』には、雲量を7階級で観測し、雲形の特徴を記録することが述べられている。しかし、雲形を分類するまでに至らなかった。

 初めて雲形を分類したのはフランスの自然科学者ラマルクである。彼は生物の進化論で有名であるが、1802年に『雲形について』という論文を発表し、雲形を五つの基本形に分類した。05年には分類を発展させて12種としたが、広く一般に採用されることはなかった。今日の10種雲級の基礎は、ラマルクと同時期に提案されたイギリスの気象学者L・ハワードによる。彼は、巻雲(けんうん)、積雲、層雲を雲の基本形とし、これらの中間の形態をもつ雲、および基本形が混合した形態をもつ雲(雨雲)を考えた。この考え方はヨーロッパに広まり、1870年に高積雲、1879年に積乱雲せきらんうんが区別された。当時は、雲が何でできているかよくわかっていなかった。微小な気泡であるという説が広く信じられていたようである。

 また、雲形は、地方や国によって異なると考えられていた。スウェーデンの気象学者ヒルデブランドソンは各国を旅行して、雲形がどこでも同じであることを確かめ、当時実用化された写真を利用して雲形図を作成した(1879)。1887年には、彼はイギリスの気象学者アーバークロンビーと共同で、現在用いられている10種雲級の基本形を提案した。1891年ドイツのミュンヘンで、また1894年スウェーデンのウプサラで開かれた国際気象会議で、雲の分類を世界的に統一することが議題になり、国際雲級図が作成された。現在の雲形分類の基準は1956年に世界気象機関(WMO)から発行された国際雲級図である。

[木村龍治]

雲の分類

国際雲級図は雲の基本形を10種に分類してあるので、10種雲級(または10種雲形)とよばれる。まず、10種の基本形を類generaとし、それぞれの類に数種類の種species、変種varieties、補足的な特徴および付随雲を定める。基本雲形の定義は次のとおりである。

(1)巻雲cirrus 記号Ci。白く細い繊維状、もしくは白く細い帯状の雲であり、一つ一つが離れ離れになっている。繊維(毛髪)、または絹の光沢、またはその両方の感じを与える。

(2)巻積雲cirrocumulus 記号Cc。粒状またはさざ波状の非常に小さい要素からなる薄い影のない雲。全体の形は空高く水平に広がる層状。その中の模様は比較的規則的に配列され、くっつき合っているときも離れていることもある。配列の間隔は1度(腕を伸ばしたときの小指の幅の程度)以内である。

(3)巻層雲cirrostratus 記号Cs。透き通った感じの白っぽいベール状の雲であり、全天または空の一部を覆う。繊維(毛髪)状の感じ、または滑らかな感じを与える。ハローhalo(暈(かさ))を生じることが多い。

(4)高積雲altocumulus 記号Ac。白または灰色、あるいは白と灰色の混ざった層状の雲であり、部分的にけば立った、まるい塊またはロールの規則的な配列が見られる。配列の間隔は1度から5度(腕を伸ばしたときの指3本の幅)の間である。

(5)高層雲altostratus 記号As。灰色または青みがかった層状の雲であり、筋が見えることも、全体が均一に見えることもある。薄い部分では、太陽が、曇りガラスを透かして見るように、ぼんやり見える。ハロー(暈(かさ))は生じない。

(6)乱層雲nimbostratus 記号Ns。持続的に雨や雪を降らせる灰色の暗い雲であり、乱層雲の雲底、または雲底の下には、紙をちぎったような不規則な下層雲があることが多い。乱層雲を通して太陽は見えない。

(7)層積雲stratocumulus 記号Sc。灰色または白っぽい層状の雲であり、モザイク、まるい塊、ロール状などの暗い部分がある。その配列は規則的で、各要素が離れているときもあるし、くっついていることもある。間隔の幅は5度程度である。

(8)層雲stratus 記号St。雲底が平らな灰色の雲であり、霧雨、細氷、雪を降らせる。薄い層雲を通して、太陽の輪郭がはっきりわかる。気温が非常に低い場合を除いて、ハローは見えない。層雲はときどき不規則なまだら模様になることがある。

(9)積雲cumulus 記号Cu。一つ一つが離れ離れになった雲であり、濃く、はっきりした輪郭をもつ。ドーム状または塔状の形で上方に発達していく。上部はカリフラワーのような形になる。日射を受けた部分は白く輝いているが、雲底は比較的暗く、平らである。ときどき積雲は不規則な形になる。

(10)積乱雲cumulonimbus 記号Cb。 山か巨大な塔のように、鉛直方向に発達した濃い雲。少なくとも上部の一部分は平らかつ滑らかであり、繊維状になっている。この部分はしばしば鉄床(かなとこ)か巨大な煙のように広がっている。雲底は暗く、不規則に乱れた雲が雲底、または雲底の下に存在する。尾流(びりゅう)雲(雨足)が見られることもある。

 基本雲形の記号だけでは、雲形が十分表現できないので、種、変種、補足形、付随雲の記号を基本雲形の後ろに添える場合がある。種、変種、補足形は形状から決められており、特徴のある雲、話題の多い雲をそのなかから拾ってみると次のようなものがある。航空機の排気ガスを核にして生ずる飛行機雲、肋骨(ろっこつ)雲、雨しらすともよばれるかぎ状巻雲、蜂(はち)の巣状巻積雲、二重高積雲、また強風と地形との影響で生ずるレンズ雲や笠(かさ)雲とつるし雲、降水に関連する尾流雲および降水雲と乳房(ちぶさ)雲、夏にみられる積乱雲になる前の塔状積雲や雄大積雲、また、山岳地帯の地形によって生ずる滝雲や旗雲およびベール雲や棚雲などが知られる。

[木村龍治]

雲をミクロに見る

雲粒(くもつぶ、うんりゅう)は直径10マイクロメートル(ミクロン)程度の水滴または氷晶でできている。雲の内部の気温が零下4℃以上であれば、ほとんど水滴、零下20℃以下であれば、ほとんど氷晶である。零下4℃から零下20℃の間は、全部水滴(過冷却水滴)のこともあるし(水雲(みずぐも))、全部氷晶のこともあり(氷晶雲)、また両者が混在していることもある。一般に水滴からできている雲は、輪郭がはっきりしている。氷晶からできている雲は、輪郭がぼやけたり、繊維のような感じを与える。前者は積雲など下層雲や中層雲に多く、後者は巻雲、巻層雲、鉄床雲など上層雲に多い。

 雲粒の数は、薄い層雲で1立方センチメートル当り数十、積雲で300程度である。落下速度は、直径10マイクロメートルの雲粒で毎秒0.2センチメートル。直径100マイクロメートル以下の水滴の落下速度は直径の2乗に比例する。

[木村龍治]

雲の発生する原因

野外の雲について考える前に、たとえば浴室について考えてみると、浴槽の水面からは絶えず水蒸気が蒸発しており、その一部は空中で水滴(湯気)になる。一部は、窓ガラスや鏡に結露してガラスを曇らせる。この現象は次のことを意味している。すなわち、浴室内の空気中には限られた量の水蒸気(気体の水分子)しか存在できないということである。その量を1立方メートル当りの空気に対する水蒸気の重さ(グラム)で表したものを飽和水蒸気量、水蒸気の分圧で表したものを飽和水蒸気圧という。飽和水蒸気量は気温が高いと大きくなる。浴槽に接した空気は暖められるから未飽和になり、水面からの蒸発が持続する。暖められた空気は上昇し、周りの冷たい空気と混ざって過飽和になり、湯気が発生する。窓ガラスに接触した空気はさらに冷やされるので、飽和水蒸気量が小さくなり、結露する。露の場合はガラスの面上に水分子が集まって水滴になるのであるが、湯気の場合は、空中で水分子が偶然に衝突して結合する現象は、よほど過飽和にならないとおこらない。ほとんどの場合は、空中に浮かんでいる塵(ちり)(凝結核)の周りに水蒸気が結露して水滴に成長する。

 さて、野外の雲は浴室の湯気と似ているが、水蒸気を含んだ空気の冷やされ方が浴室と異なっている。冷たい空気と混ざり合うのではなく、水蒸気を含んだ空気の塊自身が冷える。冷える方法としては、放射冷却と断熱冷却がある。放射霧は放射冷却で生じるが、雲は断熱冷却が原因で生じることが多い。

 断熱冷却とは、空気の塊が上昇すると気圧が低くなるので膨張し、その際に気温が下がる現象をさす。膨張すれば水蒸気圧も低くなる(したがって、飽和水蒸気圧から遠ざかるようにみえる)が、気温が下がることによる飽和水蒸気圧の低下のほうが大きいので、空気塊が上昇すると水蒸気は飽和し、雲が発生する。逆に、飽和した空気塊が下降すると未飽和になるため、雲は消える。したがって、おおよそ雲のある所は上昇気流、ない所は下降気流があると考えてよいであろう。

 雲粒が非常に小さい場合は、表面張力の作用で、飽和水蒸気圧以上でもすぐに蒸発してしまう。大気中では、過飽和度が非常に小さい状態(相対湿度が100%をほとんど超えない状態)で雲粒が容易に発生するので、最初からある程度の大きさがあるはずである。それは、凝結核の周りに水滴が形成されることを意味する。凝結核としては、海水の飛沫(ひまつ)が蒸発したあとに残る塩の粒子や、燃焼生成物などが有効のようである。

 氷晶雲の雲粒は、過冷却水滴が凍結する場合と、氷晶核の周りに水分子が昇華して氷晶ができる場合がある。氷晶核としては、雪結晶の破片がもっとも有効であるが、粘土粒子も有力である。人工降雨に使われるヨウ化銀は人工的な氷晶核として働く。

[木村龍治]

さまざまな雲形のできる理由

10種雲級は、雲の形と発生する高さによって分類したものであるが、雲の形だけに着目すると、図Aに示す3種類の形の組合せからできていることがわかる。Aは塊になっているもの、Bは水平方向に広がっているもの、Cは刷毛(はけ)でこすったような感じを与えるものである。A、B、Cはそれぞれ、雲の発生する原因が異なっている。

 Aは、大気の安定度が悪く、雲が自分の浮力で上昇しているときの形である。水蒸気が凝結する際に、1グラムの水蒸気当り600カロリーの潜熱(凝結熱)が発生して、雲粒を含んだ空気塊を加熱するために、熱気球と同じ原理で上昇するのである。浮力を失うとA´のように輪郭がぼやけて消えてしまう。Aを含む雲は積雲系の雲という。

 Bは、安定度がとくに大きな層(前線面など)に沿って、大気が緩やかに上昇しながら動くときに発生する。雲の発生している面内が上下にうねると波状雲になる。また、雲の発生している面内で対流が生じると蜂の巣のようなパターンが現れる。対流は、雲の上面が放射冷却または水滴の蒸発で冷やされるときに生じる。Bの形をした雲は層雲系の雲という。

 Cは、雲粒が落下しながら風に流されるときに現れる形である。風が吹いていても、風向・風速が高さによらず一定であれば、雲も風に流されているので、真下に向かって落下するはずである。しかし、普通は高さによって風向または風速が異なるので、横にたなびくような形になる。巻雲や尾流雲はこのような理由で生じる。

 特殊な形の雲としては、山の近くにできる笠雲、つるし雲、山旗雲、レンズ雲、また、風下波、成層圏にできる真珠母雲、中間圏にできる夜光雲などがある。

[木村龍治]

宇宙から見た雲

10種雲級は、地表面から空を見上げて得られた空の知見に基づいている。地表面から見える空(対流圏)の範囲は水平方向100キロメートル程度である。航空機から雲を観察したとしても、水平線に近い部分は斜めになってよくわからないから、結局、地表から眺められる範囲と大差がない。したがって、10種雲級で分類できる雲の水平の広がりは数メートルから数十キロメートルに限られる。

 1966年にアメリカによって世界で初めて打ち上げられた実用気象衛星は、このような事情に革命的変化をもたらした。今日では、静止気象衛星によって1時間ごとに地球全体の雲の分布がモニターされ、宇宙から見た雲のようすは天気予報に用いられている。

 図Bは、1984年1月1日正午(日本時間)の可視画像(可視光線で撮影した画像)で、ここには、10種雲級では整理できない雲の分布が見られる。低緯度には不規則な塊になった雲が分布している。不規則な塊は大小あり、赤道を挟んで東西に連なっているように見える。これらの雲は巨大な積乱雲で、積乱雲から吹き出す鉄床(かなとこ)雲が見えているのである。これらの雲は日々激しく変動するが、雲の現れやすい場所は定まっており、熱帯内収束帯とよばれる。

 中緯度の雲の分布は、気圧の分布と密接に関連している。気圧の分布図(天気図)を基にして天気予報ができるのである。線状の雲は前線(おもに寒冷前線)に沿った雲である。数日間持続し、形をすこしずつ変えながら、西から東へ移動する。寒冷前線の北側に網目状の雲の分布が見られる。これは、寒気が海面上で下から加熱されて生じる中規模細胞状対流の結果生じる下層雲である。網目状の下層雲やその中に生じるカルマン渦などは、気象衛星によって発見された現象である。温帯低気圧や台風に伴う雲の特徴は顕著である。

[木村龍治]

雲量

見える範囲(または、あらかじめ定めた一定の範囲)の空の面積を10とするとき、その中で雲の占める面積を雲量という。天気予報では、雲量1以下を快晴、2から8を晴、雲量9以上を曇という。

 地球全体では、雲量0(ゼロ)になることも10になることもない。理由ははっきりしていないが、つねに雲量が5に近い状態が保たれている。雲は、地球に入射する太陽放射をよく反射するから、雲量は大気が吸収する太陽放射エネルギーの量、したがって気温と密接に関連している。このため、地球全体の雲量は気候を変化させる要因として重要である。

[木村龍治]

惑星の雲

1962年にアメリカのマリナー2号が金星探査を行って以来、多くの無人惑星探査機が火星、金星、木星、土星などに接近または着陸して、さまざまな気象データを送ってきた。これらの観測は惑星の気象について飛躍的な知見をもたらした。惑星大気については、それぞれの惑星の項目で述べるが、ここでは、各惑星の雲のようすを概観する。

(1)金星の雲 可視光線で金星を見ると、つねに真っ白に輝いている。全体が雲に覆われているからである。金星の雲は、高度50キロメートルから70キロメートル層に存在し、濃硫酸の微小な液滴からできている。雲の内部に入っても数キロメートル先まで見渡せるので、それほど濃い雲ではない。雲層の下に塵の多い層(ヘイズ)が存在する。この塵は、金星の活火山から供給された火山灰である可能性がある。紫外線で金星の雲を見ると、大規模な模様が出現する。

(2)火星の雲 現在の火星大気は気温と気圧が低いために、水は氷か水蒸気のどちらかの形になっている。地球大気に見られるのと似た山岳波や渦巻状の白い雲が観察されているが、これはおそらく氷晶雲であろう。しかし、雲量はごくわずかで、地球から見えるオレンジ色の部分は地表面である。しかし、ときどき大規模な砂嵐(すなあらし)が発生して、塵が火星大気の全部を覆ってしまうことがある。砂嵐は数週間も続く。それが晴れても、細かい塵が上層大気に残っているので、空は赤みがかった色になっている。逆に夕焼けは青い。

(3)木星の雲 木星の内部は液体水素の海に覆われており、その上に広がる厚さ1000キロメートルほどの水素とヘリウムの大気中には、上層から赤、白、茶、青とさまざまな色のついた雲が存在する。雲の主成分は、アンモニア、硫化水素アンモニウム、水と考えられている。もしもメタンの雲が存在したとすると、地球の場合と異なり、下降気流の部分で雲が発生し、上昇気流の部分で消える可能性がある。メタンの飽和蒸気圧が水蒸気ほど気温によって変化しないから、下降域で圧縮すると気体が凝集し、上昇域で膨張すると気化するためである。地球から見える木星表面の縞(しま)模様と大赤斑(はん)は雲のパターンである。

(4)土星の雲 土星の雲のようすは木星と似ている。しかし、木星ほど縞模様のコントラストははっきりしない。木星の渦と似た形の渦も観察されている。

[木村龍治]

雲にまつわる民間伝承

日本人も古代から雲や霧に深い関心をもっていたことは、『万葉集』の約4500首のなかで雲について触れた歌が119首、霧について触れたものが77首もあることなどが示している。江戸時代には1759年(宝暦9)に伊予松山の法眼明逸(めいいつ)が『通機図解』を著し、雲の図を44点ほど載せて、雲と天気の関係を解説している。科学的な見方の萌芽(ほうが)もみえるが、多くは民間伝承のレベルのものである。民間では船乗りや漁民たちが空模様を見て天気の変化を予測していた。富士山の見える駿河(するが)湾沿岸の漁民は、この山にかかる雲の形で天候の変化をよく予知し、カンヌキ雲が出るとナライの風が吹くとか、笠(かさ)雲には十数種もの名前があって、ハナレ笠は日和(ひより)、ヒトツ笠は雨、レンズ笠は風雨、ヨコスジ笠は風というぐあいに、雲の形態的特徴に対応させて天気を予知している。富山湾では、立山に雲が坊さんの三角襟の法衣のように見えると、漁師たちはホーブクが立ったといい、大時化(おおしけ)の前兆とみた(『能都(のと)町史』)。越後(えちご)(新潟県)長岡在では、弥彦(やひこ)山に雲がかかったら翌日は雨、雲がとれたら晴れ。紀伊鬼ヶ城(三重県)付近では、春季に那智(なち)山に雲がかかったら雨が降る(川口孫治郎『自然暦』)などと伝えられている。

[神野善治]

『B・J・メイソン著、大田正次・内田英治訳『雲と雨の物理』(1969・総合図書)』『孫野長治著『雲と雷の科学』(1969・NHKブックス)』『伊藤洋三著『雲の表情』(1974・保育社・カラーブックス)』『安藤隆夫著『雲――気象歳時記』(1980・日本書籍)』『藤井幸雄著『雲と天気のかんさつ』(1980・講談社)』『浅井富雄・武田喬男・木村龍治著『大気科学講座2 雲や降水を伴う大気』(1981・東京大学出版会)』『高橋浩一郎ほか編『衛星でみる日本の気象』(1982・岩波書店)』『石崎秀夫監修『原色写真集「雲」――高度一万米の素顔』(1982・日本航空協会)』『飯田睦治郎・渡辺和夫著『気象衛星「ひまわり」の四季』(1982・山と渓谷社)』『倉嶋厚・鈴木正一郎著『自然観察シリーズ26地学編 雲』(1986・小学館)』『中村和郎著『シリーズ自然景観の読み方6 雲と風を読む』(1991・岩波書店)』『高橋健司著『風と光と雲の言葉――写真で見る気象の日本語』(1996・講談社)』『高橋健司写真・文『空の名前』(1999・角川書店)』『今井正子写真・文、綾一解説『高度1万メートルから見た雲たち』(2000・成山堂書店)』『木村龍治編、水野量著『応用気象学シリーズ3 雲と雨の気象学』(2000・朝倉書店)』『湯山生著、日本気象協会気象情報部編『くものてびき――わかりやすい雲の解説』(2000・クライム気象図書出版部)』『日本気象協会編著『風・雲・霧を調べる』(2001・ポプラ社)』『マイケル・アラビー著、小葉竹由美訳『地球気象探険――写真で見る大気の惑星』(2002・福音館書店)』『山田吉彦著『天気で読む日本地図――各地に伝わる風・雲・雨の言い伝え』(PHP新書)』『武田康男著『雲のかお』(小学館文庫)』『高橋和夫著『日本文学と気象』(中公新書)』『高橋浩一郎著『雲を読む本』(講談社・ブルーバックス)』


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百科事典マイペディア 「雲」の意味・わかりやすい解説

雲【くも】

微小な水滴または氷晶からなる雲粒(くもつぶ)が集まって大気中に浮かんで見えるもの。水滴の場合,普通半径10μm程度のものが1cm3に50〜500個浮かんでいる。赤道地方で高度約18km,極地方で約8kmが分布の上限で,真珠雲夜光雲などの特殊な雲だけが20〜100kmの超高空に発生する。大気中の水蒸気が凝結して雲粒となるためには,空気が露点温度以下に冷却され飽和または過飽和の状態になることが必要である。この冷却は主として各種の上昇気流中で行われ,空気塊が気圧の低い高層に移動する際の断熱膨張により冷却する。地表面の空気は,気温をt℃,露点温度をτ℃とすると,h=125(t−τ)mの高度まで上昇すると飽和状態になり水蒸気が凝結して雲が発生する。この高さを凝結高度と呼び,地表面の空気が上昇して発生する雲の雲底の高さがこれで決まる。雲の成因となる上昇気流には,温暖前線,寒冷前線,低気圧に伴う大規模な暖気の上昇,台風や雷雲などでみられる垂直な熱上昇気流,山を吹き上る風,上空の気流の波に伴う小規模な上昇気流などがあり,それぞれの場合に生じる特有の雲形や雲の分布(雲系)を観測することによって大気の運動状態を逆に推測することができる。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雲」の意味・わかりやすい解説


くも
cloud

大気中に落下せずに浮かんでいる水滴および氷晶の群。地表面に接している場合をという。水蒸気を含む空気が,上昇気流によって気圧の高い地上付近から気圧の低い上空へ急速に押し上げられ,断熱的に膨張して冷却を起こし,水蒸気が凝結してできたもの。大部分の雲はこのように上昇気流に伴って発生し,下降気流に伴って消滅するが,一部は赤外放射冷却(→放射冷却)や,暖かい空気塊が冷たい空気塊と接して冷却することによって発生する。雲は大気中に広がって浮かんでいるため,その観察は水平および鉛直方向の大きさ,高さ,見かけの状態など,すなわち雲量,雲高,雲形などについて行なわれる。雲はその発生から消滅までそのときどきの気象状態に左右され,大きさ,形を変える。このため,雲を観察することによって上空の気象状態をある程度知ることができ,以後の気象変化も予知できることから,その観察は古くから重要なものであった。
雲の語源は諸説あるが,太陽が雲に包まれる・隠される様子の「隠る」「籠る」から「こも」と呼ばれ,それが転化して「くも」になったという説と,雲が地上から水を「汲む」ところから「くむ」と呼ばれ,「くも」になったという説が代表的である。漢字の雲は,かつて「云」と書いた。「云う」は雲が渦巻きながら上昇していく姿を表した象形文字である。(→気象気象観測天気予報


くも
Nephelai

ギリシアのアリストファネスの喜劇。前 423年初演。ソフィストの新教育を攻撃した社会風刺喜劇の一つ。息子の浪費のために借金で首の回らない父親がソクラテスの「妙案工房」という学校に来て,善悪を逆転させることのできる新式の雄弁術を習おうとするが,むずかしすぎるので,代りにいやがる息子を入学させる。やがて卒業した息子は早速借金取りを新式弁論で追返すが,父親をなぐっておいてそれが正しい行為であることを証明してみせるので,腹を立てた父親は「妙案工房」に放火する。このなかのソクラテスは,ソフィストや自然哲学や新しいさまざまな学問の代表者に仕立てられているが,外貌が似ているだけで,歴史上のソクラテスの思想を表わすものではないといわれている。

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デジタル大辞泉プラス 「雲」の解説

日本の劇団。1963年、芥川比呂志、福田恆存ら文学座を退団した劇団員により結成。同年3月、シェークスピアの喜劇「夏の夜の夢」で旗揚げ。同年5月に発足した現代演劇協会傘下の劇団として活動。1973年頃から芥川と福田の対立が表面化、福田は同じく現代演劇協会傘下にあった劇団「欅」の活動に専念するようになる。現代演劇協会内でも福田派(=欅)と芥川派(=雲)の対立が激しくなり、1975年には芥川および仲谷昇、岸田今日子ら「雲」の俳優の多くが現代演劇協会を退会。演劇集団「円」を結成した。「雲」には小池朝雄ら一部の俳優が残留したが、翌1976年、現代演劇協会は「雲」と「欅」を統合して、新たな劇団「昴」を創設した。

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知恵蔵 「雲」の解説

大気中の水蒸気の凝結でできる小さい水滴の集まり。雲が空全体の何割を占めるかを0から10までの数で表したものが雲量。雲形には次の10種類ある。上層の雲(巻雲、巻積雲、巻層雲)、中層の雲(高積雲、高層雲、乱層雲)、下層の雲(層積雲、層雲)、垂直に発達する雲(積雲、積乱雲)。冬期日本海上の積雲列を筋状の雲、また東京・環状8号線道路付近で、主に夏に発生する積雲列を環八雲(かんぱちぐも)と呼び、風系の異なる海風の収束やヒートアイランドなどが雲をつくる。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)

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