水酸化ナトリウム(読み)すいさんかなとりうむ(英語表記)sodium hydroxide

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

水酸化ナトリウム
すいさんかなとりうむ
sodium hydroxide

ナトリウムの水酸化物。カ性ソーダcaustic sodaの別名がある。カ性とは「皮膚を侵す」の意。1884年グラスゴーの工場でソーダ母液を石灰乳でカ性化したのがカ性ソーダ工業の始めであるといわれている。現在ではすべて食塩水の電解によって製造されている。製品として市販されているものには、融解後ドラム缶に流し込んで固化したものと、片状・棒状あるいは半球形錠剤に成形したものなどがある。品質はJIS(ジス)(日本工業規格)および食品衛生法によって規定されている。

[鳥居泰男]

製法

工業的な製造法にはカ性化法と電解法がある。

〔1〕カ性化法 アンモニアソーダ法によって生じた粗重曹の水溶液に炭酸ガス(気体二酸化炭素)を吸収させて炭酸ソーダ原液とし、これに石灰乳を加えて
  Na2CO3+Ca(OH)2―→2NaOH+CaCO3
生じた沈殿を濾別(ろべつ)し、蒸発濃縮する。この方法は、近年の塩素工業の急速な発展に伴い、電解法にとってかわられ、1968年(昭和43)以降日本では行われていない。

〔2〕電解法 塩化ナトリウム水溶液を電気分解する方法で、水銀法、隔膜法、イオン交換膜法の三つの方法が行われている。

(1)水銀法 陽極に金属電極(黒鉛など)、陰極に水銀を用いる方法で、負極で放電したナトリウムが水銀に溶けてアマルガムとなる。このナトリウムアマルガムを解汞(かいこう)槽に導いて水と反応させ、水酸化ナトリウムを得ている。製品の品位の点で優れているが電力費が高く、高価で有害な水銀を多量に使用する点が問題である。日本では他の方法への転換が急速に進んでいる。

(2)隔膜法 陽極に金属電極、陰極に鉄を用い、両極間にアスベスト製の隔膜を入れて電解する。陽極で塩素、陰極で水素とともに水酸化ナトリウムが生成する。隔膜によって両極の生成物の混合が防止されている。この方法は電力効率が高い点で優れているが、塩化ナトリウムや塩素酸ナトリウムの混入率が高く、純度の点で他の方法に劣る。

(3)イオン交換膜法 陽イオン交換膜を用いて陰陽両極室を分離して電解を行う方法。両電極における反応は隔膜法とまったく同じであるが、塩化ナトリウムの混入率が低いなど純度の点では優れており、今後の進展が期待される。

[鳥居泰男]

性質

潮解性で、空気中に放置すると湿気を吸って溶けるとともに、炭酸ガスを吸収して炭酸ナトリウムとなる。水に溶けやすく、その際大量の熱を発生する。水溶液は強アルカリ性を呈する。エタノール(エチルアルコール)、グリセリンにもよく溶けるが、エーテル、アセトンには溶けない。強熱しても酸化物と水に分解しないが、簡単に融解し、金、白金、ケイ酸などを侵すので、岩石など反応しにくい固体物質を融解するのに用いられる。一酸化炭素と反応してギ酸ナトリウムとなり、油脂をけん化してせっけんとグリセリンを生ずる。またタンパク質、セルロースなどの有機物を分解する。

[鳥居泰男]

用途

化学工業全領域にわたって広い用途をもっている。レーヨン、ステープルファイバー、セロファン、紙、パルプなどの製造、せっけん、染料、香料、農薬、医薬などの製造、金属アルミニウムや各種ナトリウム塩の製造、石油、油脂の精製などがおもなものである。そのほか分析試薬、乾燥剤、二酸化炭素吸収剤に用いられる。

[鳥居泰男]

注意

劇薬(許容濃度1立方メートル当り2ミリグラム)であるから、水溶液が皮膚に触れたり、目に入ったりした場合には、水でよく洗ったのち、ホウ酸水などで洗う必要がある。誤飲した場合には、レモン水を大量に飲むほか、牛乳、卵白を飲むのも有効である。

[鳥居泰男]

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化学辞典 第2版の解説

水酸化ナトリウム
スイサンカナトリウム
sodium hydroxide

NaOH(40.00).カセイソーダともいう.塩化ナトリウム溶液を隔膜を用いて電解すると陰極室に生成する(隔膜法).また,炭酸ナトリウム水酸化カルシウムとの反応によっても得られる.純粋なものは無色透明な固体で,融点328 ℃.通常は少量の水と炭酸塩などを含む白色のもろい固体で,融点318.4 ℃,沸点1390 ℃.密度2.13 g cm-3.潮解性で,水には多量の熱を発して溶ける.水100 g に対する溶解度は42 g(0 ℃),109 g(20 ℃),347 g(100 ℃).エタノールに易溶,エーテル,アセトンに不溶.水溶液は強アルカリ性で濃厚なものは腐食性が強く,有機物を分解し皮膚をおかす.とくに眼に触れると失明のおそれがある.二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムを生じ,アンモニウム塩からアンモニアを遊離させ,また多くの金属塩水溶液から金属酸化物や水酸化物を沈殿させる.熱的に安定で,ケイ酸塩,リン酸塩,硫酸塩のアルカリ融解により水溶性のナトリウム塩を生じる.化学工業全般にわたって広く用いられる.人造繊維工業,製紙,化学薬品,せっけん,石油精製,軽金属,染料工業,ナトリウム塩の製造,ゴムの再生,有機合成,分析試薬,乾燥剤,二酸化炭素の吸収剤などに用いられる.[CAS 1310-73-2]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

水酸化ナトリウム
すいさんかナトリウム
sodium hydroxide

化学式 NaOH 。カセイソーダともいう。工業的には食塩水の電解かソーダ灰のかせい化によって,多量に生産される。無色固体で,吸湿性が非常に大きく,水,アルコール,エーテルグリセリンに可溶である。純製品の融点 328℃。腐食性が強い。皮膚に直接触れないように注意する。特に,溶液を扱うときは,飛沫が目に入らないように保護メガネを着用する必要がある。用途はレーヨンスフ (ステープル・ファイバー) ,セロファン,合成繊維などの製造,染料,香料,医薬などの製造,油脂精製,石鹸の製造,紙やパルプの製造,石油,タール油の精製,各種ナトリウム塩の製造,水の軟化,アルカリ蓄電池用電解液,試薬など広く使用されている。

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百科事典マイペディアの解説

水酸化ナトリウム【すいさんかナトリウム】

化学式はNaOH。比重2.13,融点328℃,沸点1390℃。無色潮解性の結晶。苛性ソーダとも。きわめて安定で強熱しても分解しない。水には多量の熱を発してよく溶け,水溶液は強アルカリ性。アルコール,グリセリンに可溶。固体および水溶液は炭酸ガスを吸収しやすく,炭酸ナトリウムとなる。腐食性強く皮膚を冒す。工業原料として重要で,セッケン,油脂,染料,パルプ,織物,ゴム,化学実験試薬などに用いられる。工業的には塩化ナトリウム水溶液の電解あるいは炭酸ナトリウムの苛性化によってつくる。
→関連項目ソーダ工業建染染料電解ソーダ電気化学工業

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精選版 日本国語大辞典の解説

すいさんか‐ナトリウム スイサンクヮ‥【水酸化ナトリウム】

〘名〙 (ナトリウムはNatrium) ナトリウムの水酸化物。化学式 NaOH 白色、単斜晶系結晶。潮解性で水に溶けやすく、溶けるとき多量の熱を発する。空気中で水分や二酸化炭素を吸収して炭酸塩を生じる。熱に対して安定。水溶液は強アルカリ性を示す。劇薬。ビスコース人絹・パルプ・紙・石鹸・アルミニウム・ナトリウム塩などの製造、石油・植物油の精製、有機合成など化学工業全般にわたって広く用いられる。苛性(かせい)ソーダ。

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デジタル大辞泉の解説

すいさんか‐ナトリウム〔スイサンクワ‐〕【水酸化ナトリウム】

食塩水を電解して作る、潮解性のある白色の固体。水に溶けやすく、水溶液は強アルカリ性二酸化炭素をよく吸収し、炭酸ナトリウムになる。腐食性が強く、皮膚をおかす。石鹸(せっけん)合成繊維の製造、石油の精製、製紙・パルプ工業など用途が広い。苛性(かせい)ソーダ化学式NaOH

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世界大百科事典 第2版の解説

すいさんかナトリウム【水酸化ナトリウム sodium hydroxide】

化学式NaOH。強い腐食性をもつため,俗に苛性(かせい)ソーダcaustic sodaとよばれている。
[性質]
 潮解性の強い無色の固体。室温では斜方晶系のα型(低温型)。299.6℃で立方晶系のβ型(高温型)に転移する。試薬としては通常,ペレットの形で市販されている。完全に無水のものの融点は328℃であるが,実際はきわめて除去しにくい水と炭酸塩の少量を含むため,318.4℃と約10℃低い融点を示すのがふつうである。

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