流産・早産(読み)りゅうざんそうざん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

流産・早産
りゅうざんそうざん

妊娠初期に妊娠が中絶する場合を流産abortionといい、早期に中絶する場合を早産premature deliveryという。流産は胎児の母体外生活が不可能な時期にみられるものであり、早産はそれが可能な時期のものをさす。[新井正夫]

流産

日本産科婦人科学会では、母体外生育の可能な下限を現在、妊娠第24週としており、したがって流産は妊娠第24週未満の分娩(ぶんべん)をさすわけで、母体保護法による人工妊娠中絶の適用も妊娠第24週未満までと規定されている。
 流産の頻度は全妊娠の10%前後とみられているが、その大部分は妊娠第15週までにおこる。すなわち、胎盤が完成される妊娠第15週以後にはおこりにくくなる。妊娠初期の心得として流産予防に重点を置くのも、このためである。また、胎盤完成を境として徴候や経過に大きな差異がみられることから、妊娠第15週以前のものを狭義の流産、以後のものを未熟産といって区別することもある。なお、妊娠第4か月(妊娠第12週)以後の流産については、死産としての届出が必要となる。[新井正夫]
原因
多種多様であるが、卵性原因と母性原因に大別して考えられる。卵性原因は受精卵そのものが病的な場合で、受精前の卵や精子に異常があったり、正常な受精卵が激しい細胞分裂を繰り返すのに適した環境が得られないために発育異常をおこしたり、あるいは受精卵の着床異常などが考えられる。近年は受精卵の染色体異常が多くみつけられ、注目されている。母性原因としては、熱性感染症や糖尿病など全身疾患によって母体が甚だしく害された場合をはじめ、ホルモン作用の不良のため性器の発育不全がみられる場合、精神的な原因で自律神経や内分泌関係に異常をおこした場合、激しい性的興奮や栄養のバランスがとれていない場合などのほか、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、子宮腔(くう)癒着、子宮形態異常のうち治療を必要とする子宮奇形、頸管(けいかん)不全症などの疾患があげられる。なお、母児間の血液型不適合や免疫学的不均衡も原因となる。これらの原因は相互に密接な関連をもち、また重複する傾向もあり、できるだけ原因を確かめる必要があるが、それでも不明な場合が多い。[新井正夫]
分類
自然に妊娠が中絶する場合を自然流産といい、人為的に流産させる場合を人工流産(人工妊娠中絶)という。この場合、治療目的で妊娠を中絶させる治療的流産をさすが、非合法的に行う場合は堕胎といって区別する。また、自然流産が同一女性に3回以上続けておこった場合は習慣性流産といい、以後の妊娠予後が不良となる可能性が大きいので、独立疾患として扱われる。
 臨床的には、流産の進行状態や病態から次のように分類される。(1)切迫流産 流産が始まったばかり、あるいは始まろうとしている状態で、まだ子宮口があまり開いていないものをいう。治療によって妊娠の継続が可能と考えられるもので、絶対安静を守り、黄体ホルモンや子宮収縮抑制剤などを投与して経過をみる。この段階より進行したものは、妊娠の持続が不可能となる。(2)進行流産 子宮口が開いてしまい、出血も多くなって流産を食い止めることができない状態になったものをいう。(3)完全流産 妊娠子宮の内容がすっかり排出されて流産の終わった状態のものをいう。(4)不全流産 子宮内容の一部がまだ残留していて、出血や痛みが続いているものをいう。(5)遷延流産 流産徴候(出血や痛みなど)が出現してから数週間経過しても子宮内容が排出されず、出血が長く持続するものをいう。(6)稽留(けいりゅう)流産 妊娠第24週未満に胎芽(たいが)や胎児がすでに子宮内で死亡したままで流産徴候を示さず、数週以上も排出されないでいる状態をいう。妊娠月数のわりあいに腹が大きくならないことで発見されたりする。[新井正夫]
症状
顕著なものは子宮出血で、新鮮な色をしていて量もかなり多いことがあるが、普通の流産では生命に危険なことはないので、慌てずに医師の指示を受ける。子宮外妊娠の場合によく似ているので、医師の診察を受けておくことが望ましい。また、下腹部痛を伴うか、腹が張ったような感じが持続する場合と、間欠的に痛みを繰り返す場合がある。妊娠のごく初期では、下腹部痛を繰り返すうちに、小さい胎児(妊娠第8週までは胎芽という)が嚢(のう)状物に包まれたまま血液に混じって排出され、流産と気づかないこともある。妊娠第2~3か月(妊娠第4~11週)ころでは、出血とさし込むような下腹部痛がしだいに強くなり、胎児と卵膜が排出されてしまうと症状が軽くなってくる。[新井正夫]
治療と予後
前述のように治療の対象となるのは切迫流産だけであり、すでに進行してしまったものに対しては、子宮内容が自然に排出されるように促したり、子宮内容除去術(いわゆる掻爬(そうは))を行って処置するが、完全流産ではその必要もない。
 流産後は、出産後に準じた養生が必要で、数日間の安静を心がけ、入浴を避ける。約1か月後に月経がなければ医師の診察を受ける。流産の予防としては、原因がわかればその処置をすればよいが、原因のわからない場合が多く、そのときは、妊娠をできるだけ早く知って対応処置をとるために基礎体温を毎朝測定し、基礎体温曲線によって妊娠がわかればすぐに医師に相談してその指示に従う。[新井正夫]

早産

かつては妊娠第29週から第38週までの分娩を早産としていたが、周産期医学の進歩に伴い、日本産科婦人科学会では現在、妊娠第24週以後第37週未満の分娩を早産としている。早産は臨床的に自然早産と人工早産に分けられる。
(1)自然早産 原因は流産と同様に多種多様であり、不明なものも多い。胎児側の原因としては、双胎(ふたご)や骨盤位(さかご)のほか、先天性の形態異常、梅毒、胎盤や臍帯(さいたい)の異常などがある。母体側の原因としては、子宮筋腫、子宮奇形、子宮頸管無力症、妊娠中毒症、心臓病、慢性腎炎(じんえん)、糖尿病、感染症、虫垂炎などのほか、ガス中毒、下剤やワクチンの使用などもある。また、外傷、手術、過激な運動、温熱、X線などによる機械的・物理的刺激をはじめ、黄体ホルモン、ビタミンKやEなどの不足も原因となることがある。これらの多くは早期に診断され、対症療法による早産の予防処置がとられる。とくに子宮頸管無力症の場合は、早期に子宮口が開大するので、子宮頸管縫縮術を行って予防する。
(2)人工早産 分娩予定前に胎児を人為的に娩出させる方法で、胎児が胎内生活を継続するうえで好ましくない状態が認められたときに行われる。人為的に陣痛をおこして分娩を誘発する。場合によっては帝王切開をすることもある。母体の状態がよくコントロールされておれば、できるだけじょうぶな児を得るため、普通は妊娠第34週以後に行うのが望ましい。[新井正夫]
症状
早産開始の症状は本質的に正常分娩の開始症状と似ており、下腹部の緊張感や重圧感、腰痛などを主訴とする。早産徴候として子宮収縮と子宮頸部の変化がみられる。進行すると、産徴としての血性粘液の排出や少量の出血を認めるようになる。また、前期破水による羊水の流出をみることもある。
 早産が始まろうとしているとき、あるいは始まったばかりのときを切迫早産といい、この時期に適切な治療が行われなかったり、治療が不成功の場合には、進行早産となって胎児娩出まで進行する。[新井正夫]
治療と予後
入院、安静を原則とし、妊娠継続が母児ともに不利となるもの以外は、早産阻止の方法がとられる。薬物療法として子宮収縮抑制剤が用いられる。これにはβ2受容体刺激剤(テルブタリンやリトドリンなど)や硫酸マグネシウムなどがある。
 早産後は正常分娩後と同様に母体が衰弱しているので、入浴、性生活、長期旅行などを避けて摂生を守るほか、外陰部を清潔にして細菌感染をおこさないように注意する。
 なお、早産は全妊娠の5%前後にみられ、早産によって生まれた新生児は未熟児の場合が多く、危急新生児(ハイリスク児)として扱われる。とくに妊娠第33週未満、出生時体重1500グラム未満のものは、リスク度が高いので、なるべく子宮内での成熟が図られる。[新井正夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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