日本大百科全書(ニッポニカ) 「湖沼汚染」の意味・わかりやすい解説
湖沼汚染
こしょうおせん
湖沼にみられる汚染(汚濁)現象。集水域の人間活動の活発化、多様化に伴い、各種の湖沼汚染がおこっている。湖沼の汚染は、その原因、内容によって次の五つに大別できる。
(1)有機物汚染 もっとも一般的な水質汚濁で、食品工場、観光施設の排水、生活排水が原因である。排水中の有機物は湖水中の溶存酸素を消費し、湖の底層に貧酸素層を形成して、底生の魚貝類の死を招くこともある。
(2)有害物汚染 有害物質としては重金属、農薬や毒物がある。重金属は鉱山または工場廃水を原因とするカドミウム、水銀、銅、鉛などである。湖水が廃水の流入により酸性化する場合もある。水中の有害物質濃度が微量であっても、水生生物に吸収されて蓄積し、魚類に濃縮される場合があり、長期にわたっての広域的な汚染につながる。近年使用されている農薬類は分解性がよくなっているが、一時期、難分解性の農薬が使用され、生物濃縮が問題となった。農薬汚染は、後述の合成化合物汚染とも重なる汚染である。毒物としてのシアンの流入も事例としては多い。工場操業時の事故、操作ミスが原因となる。シアンは魚類などへの直接毒であることから大量の魚類が死んで浮上する。油汚染もこの種の汚染に近い原因と内容をもつ。
(3)合成化合物汚染 おもに石油を原料とする合成化合物が原因である。天然の有機物に比べ合成化合物の分解性がきわめて低いことから、環境中への残留、蓄積、水生生物による濃縮が心配されている。一見して判定しがたい汚染で、これまでにDDT、BHC、PCB、ABSなどの殺虫剤や合成洗剤などが問題となった。日本では1998年(平成10)から環境ホルモン関連物質が監視項目に加えられた。
(4)酸・アルカリ汚染 一般的には工場廃水や鉱山からの排水が原因としてあげられるが、1950年代から北欧やカナダの湖で酸性雨による湖沼の酸性化が問題とされてきた。日本の湖では田沢湖の酸性河川水導入による湖水酸性化の例がある。酸性雨の原因は工場の排煙、自動車の排気ガス中の硫黄(いおう)酸化物および窒素酸化物が主因である。
(5)富栄養化現象 集水域での人間活動によるリン、窒素を含む廃水の排出が原因である。植物の栄養元素であるリン、窒素などが大量に連続的に流入することにより湖の栄養度があがり、夏期には「水の華(はな)」現象で湖水が緑色となり、透明度が著しく減少する。生物相は単純化して、底層に貧酸素層が形成されやすくなり、底質が悪化する。
以上のほかに、湖沼の浚渫(しゅんせつ)、護岸、埋立てなどによる湖盆形態の改変も湖沼汚染に準ずる湖沼環境損傷の原因となる。
[沖野外輝夫]
『服部明彦編『湖沼汚染の診断と対策』(1988・日刊工業新聞社)』▽『沖野外輝夫著『湖沼の生態学』(2002・共立出版)』