痒疹/皮膚掻痒症

EBM 正しい治療がわかる本 「痒疹/皮膚掻痒症」の解説

痒疹/皮膚掻痒症

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 痒疹(ようしん)は強いかゆみを伴うしこり丘疹(きゅうしん)のことです。これに対して、皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)は皮疹(ひしん)がみられずに強いかゆみだけが持続する状態をいいます。体のあちこちがかゆくなる全身性皮膚掻痒症と、体の一部だけがかゆくなる限局性皮膚掻痒症があります。痒疹と皮膚掻痒症はともに、かくことで症状がかえって悪化する病気です。かきすぎることによって皮膚がごわごわして厚くなったり、硬いタコのような発疹(ほっしん)ができたりすることもあります。また、皮膚以外の病気がもとになって、これらの症状が現れていることもありますので、くわしい検査が必要になることもあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 痒疹は虫刺され、薬疹アトピー性皮膚炎などが原因です。慢性的に広範囲におこる頑固(がんこ)な痒疹の場合は内臓疾患が原因となっていることがあります。全身性皮膚掻痒症の多くは、皮膚の老化に伴うものです。表面の角質層が水分を失い、かさかさになるとかゆみがおこります。空気が乾燥した寒い季節に症状が強くでます。
 限局性皮膚掻痒症は、とくに女性の場合、カンジダ腟炎トリコモナス腟炎月経、妊娠などが原因となって、陰部にしばしばみられます。男性の場合は、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)でみられることがあります。便秘下痢(げり)、痔(じ)が原因となって肛門の周囲にかゆみを感じることもあります。ほかに、肝臓病、腎臓(じんぞう)病、糖尿病高尿酸血症ホジキン病などの病気が背景にある場合、これらの皮膚症状が現れることもあります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]アトピー性皮膚炎が原因の痒疹では副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬(やく)の外用薬を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。(1)(2)

[治療とケア]抗ヒスタミン薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] アトピー性皮膚炎が原因となっているかゆみや目の症状を抑える目的でしばしば用いられます。その有効性については、臨床研究では明らかにはなっていませんが、専門家の意見と経験から支持されています。(3)(4)

[治療とケア]乾燥症状には保湿剤を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] はっきりした効果が臨床研究によって確かめられていないようです。使用に対しても専門家によって意見が分かれています。


よく使われている薬をEBMでチェック

副腎皮質ステロイド薬
[薬名]デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]リンデロン-V(ベタメタゾン吉草酸エステル)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ドレニゾン(フルドロキシコルチド)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ネリゾナ(ジフルコルトロン吉草酸エステル)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 痒疹に対して、副腎皮質ステロイド薬の外用薬を使用することは一般的ではありません。ただし、アトピー性皮膚炎によるものであれば、副腎皮質ステロイド薬の外用薬が効果的です。じんましんに対しては副腎皮質ステロイド薬の内服が効果的です。いずれの治療薬も信頼性の高い臨床研究によって確かめられています。

抗ヒスタミン薬
[薬名]ポララミン(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩)(3)(4)
[評価]☆☆
[薬名]セレスタミン(ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤)(3)(4)
[評価]☆☆
[薬名]アタラックス(ヒドロキシジン塩酸塩)(3)(4)
[評価]☆☆
[薬名]ジルテック(セチリジン塩酸塩)(3)(4)
[評価]☆☆
[薬名]アゼプチン(アゼラスチン塩酸塩)(3)(4)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎のかゆみや目の症状を抑える目的でしばしば用いられます。また、じんましんのようなアトピー性皮膚炎以外でも皮膚掻痒感の解消に用いられます。その効果については、臨床研究では明らかにはなっていませんが、専門家の意見と経験から支持されています。

保湿剤
[薬名]ヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質)
[評価]☆☆
[薬名]ケラチナミン/ウレパール(尿素)
[評価]☆☆
[薬名]白色ワセリン
[評価]☆☆
[評価のポイント] 保湿剤の効果については臨床研究は見あたりません。ただし、皮膚の水分量が減っているためにかゆみがおきている場合には、保湿剤によって水分を逃さないようにすることは、専門家の意見と経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは内科的な検査を
 痒疹の原因は、虫刺され、薬疹、アトピー性皮膚炎だけでなく、内臓の疾患である可能性もあります。一見皮膚には異常がないのにかゆみがあるときは、加齢に伴う皮膚の乾燥によるものと考えられる場合を除けば、一度は内科的な精密検査を受けるよう勧められます。肝臓や腎臓の病気、糖尿病、高尿酸血症、ホジキン病など、重大な病気によってかゆみが現れることがあるからです。そのような場合には、病気ごとにまったく異なった治療が行われます。

お年寄りの場合はまず日常生活のケアを
 お年寄りの皮膚掻痒症には、入浴の回数を減らしたり、一般的に用いられている石けんを低刺激のニュートロジーナやミノンなど(ニュートロジーナやミノンは皮膚科で勧める低刺激の石けんで、医薬品ではありません)に替えたりします。尿素やグリセリン軟膏(なんこう)を用いた保湿剤によって皮膚の水分を逃さないようにすることも勧められます。
 日常生活のケアだけでかゆみが抑えられなければ、抗ヒスタミン薬を用いてようすをみます。

場合によっては副腎皮質ステロイド薬を
 アトピー性皮膚炎やじんましんなど、特殊な痒疹には、副腎皮質ステロイド薬の外用薬を用います。その効果については臨床研究で確認されています。また、患部をかくこと自体が皮膚症状をさらに悪化させますので、抗ヒスタミン薬の内服を用いることもあります。

(1)Bingham LG, Noble JW, Davis MD. Wet dressings used with topical corticosteroids for pruritic dermatoses: A retrospective study. J Am Acad Dermatol. 2009; 60:792.
(2)Eichenfield LF, Tom WL, Berger TG, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: section 2. Management and treatment of atopic dermatitis with topical therapies. J Am Acad Dermatol. 2014; 71:116.
(3)Klein PA, Clark RA. An evidence-based review of the efficacy of antihistamines in relieving pruritus in atopic dermatitis. Arch Dermatol. 1999; 135:1522.
(4)O'Donoghue M, Tharp MD. Antihistamines and their role as antipruritics. Dermatol Ther. 2005; 18:333.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報