放下(読み)ほうか

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

放下
ほうか

中世から近世にかけて行われた大道芸の一つ。僧形のものを放下僧俗体のものを放下師といった。品玉,輪鼓,手鞠などの曲芸を演じ,筑子 (こきりこ) を打って歌もうたった。散楽系の曲芸技の流れをくむもので,その芸は伊勢や東京の太神楽 (だいかぐら) に伝えられている。また愛知県の下と呼ばれる太鼓踊や富山県の筑子踊などもこの芸系の一部を受継いでいる。

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デジタル大辞泉の解説

ほう‐か〔ハウ‐〕【放下】

[名](スル)
投げ捨てること。ほうげ。
「机の上の物を取っては、またすぐに―しなどしていた」〈鴎外魚玄機
一切を捨て去ること。ほうげ。
「生命をさえ―し終ろうとしたほどだったが」〈山本有三・波〉
田楽から転化した大道芸。品玉(しなだま)輪鼓(りゅうご)などの曲芸や手品を演じ、小切子(こきりこ)を鳴らしながら小歌などをうたったもの。室町中期に発生、明治以後、名称は絶えたが、その一部は寄席芸民俗芸能として今日に伝わる。

ほう‐げ〔ハウ‐〕【放下】

[名](スル)
仏語。禅宗で、一切の執着を捨て去ること。
「一切を―し尽して」〈漱石行人
ほうか12」に同じ。
「ヒトヲ―スル」〈日葡

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世界大百科事典 第2版の解説

ほうか【放下】

大道芸の一種。室町期から近世にかけて見られた雑芸。放下は禅家から出た用語で,ものごとを放り投げて無我の境に入ることを〈放下す〉といった。室町期には僧形をした放下(家)僧や,烏帽子(えぼし)姿で恋歌を書いた短冊を笹竹に吊り下げ背に負った放下師などが活躍し,弄丸(ろうがん),品玉(しなだま),輪鼓(りゆうご)など,品物を空中に投げ上げて曲取りする散楽(さんがく)系の曲芸や,コキリコなどでリズムをとって物語り歌をうたい歩き,子女の人気を得た。

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大辞林 第三版の解説

ほうか【放下】

( 名 ) スル
なげおろすこと。なげすてること。ほうげ。 「庭中に歯欠けの足駄脱ぎ捨ててはくやうなくて谷へ-す/狂言・伯養」
すて去ること。放棄。放置。ほうげ。 「一図に其事に意を傾け、余念を-し去る癖はあれども/未来の夢 逍遥
( 名 )
大道芸の一種。中世から近世初期にかけて、放下師・放下僧と呼ばれる芸人の演じたもの。品玉しなだま・輪鼓りゆうごなどの散楽系の芸や、小切子こきりこを打ちつつ歌う放下歌などを演じた。

ほうげ【放下】

( 名 ) スル
ほうか(放下)
」に同じ。 「自在に泥団を-して、破笠裏はりつりに無限の青嵐を盛る/草枕 漱石
禅宗で、捨てること。特に、悟りを開くためにあらゆる迷いや執着を捨て去ること。 「顔を戸の影から半分部屋の中に差し出した儘、此刹那の感に自己を-し去つた/三四郎 漱石

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

放下
ほうか

大道芸の一種の手品や曲芸のたぐい、あるいはそれを演ずる者のこと。禅家においてすべてを放擲(ほうてき)して無我の境に入ることを「放下す」というところから、品玉(しなだま)や輪鼓(りゅうご)をほうり投げて曲取りをする曲芸をもっぱらとする僧形の下級芸能者をさしていうようになり、放下師、放下僧ともいった。奈良時代に中国から伝来した散楽雑伎(さんがくざつぎ)から田楽(でんがく)法師を経て、さらに放下僧の手に渡ったという芸統で、室町時代ごろに放下の芸として定着した。品玉、輪鼓、手鞠(てまり)、筑子(こきりこ)などを行って大道に立ち、あわせて手妻(てづま)(手品)や人形回しも演じた。1669年(寛文9)京都において豊後屋団右衛門(ぶんごやだんえもん)なる者が、「放下物真似(ものまね)」の名代を許されて歌舞伎(かぶき)や人形芝居などに伍(ご)した。小屋掛けを許された放下は、鞠の曲、枕(まくら)の曲、籠抜(かごぬ)けなどを興行した。一方大道芸となった者は「辻(つじ)放下」ともよばれ、非人階級に扱われて車善七の差配を受けた。明治以後名称は絶えてしまったが、その芸は寄席(よせ)芸に入って残っている。伊勢太神楽(いせだいかぐら)にも、綾(あや)とりの曲、水の曲、手鞠の曲、傘の曲などが「放下芸」として残っている。[織田紘二]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ほう‐か ハウ‥【放下】

〘名〙
① (━する) 投げすてること。投げおろすこと。下におろすこと。ほうげ。
※虎明本狂言・伯養(室町末‐近世初)「はかけのあしだぬぎすててはくやうなくて谷へほうかす」 〔陳傅良‐春日和林宗易韻詩〕
② (━する) 捨て去ること。捨ててかえりみないこと。放棄。放置。ほうげ。
※俳諧・芭蕉庵小文庫(1696)春「なほ放下して栖を去」
③ 中世・近世に行なわれた芸能の一つ。小切子(こきりこ)を打ちながら行なう歌舞・手品・曲芸などの芸。また、それを専門に行なう者。多くは僧形であったが、中には頭巾の上に烏帽子をかぶり、笹を背負った姿などで演ずるものもあった。放下師。放下僧。放家。放歌。ほうげ。
※車屋本謡曲・放下僧(1464頃)「今程人のもて遊び候は、放下ならではなく候程に」
④ 能楽で、遊狂の場面や歌舞などにふさわしく仕立てられた男の遊芸人。
※三道(1423)「はうか、是は、軍体の末風、砕動の態の風也」
⑤ 民俗芸能の一つ。大きな団扇(うちわ)を背負い、笛・太鼓・鉦などを鳴らしながら激しく動くもの。念仏踊の一種として愛知県に分布。
[語誌]「放下」の字音としては、「ホウゲ」「ホウカ」の両者が考えられるが、「ホウゲ」に関しては、世俗との縁を切って無我の境に入る意味を示す禅語としての用法が中心で、一方「ホウカ」に関しては、ほうり捨てるという一般的な意味を表わす場合に用いられることが多かったと思われる。もっとも、室町末の「日葡辞書」には、人を投げ倒して、自分の体から突き放すという意味で、「Fitouo(ヒトヲ) fǒguesuru(ホウゲスル)」という例もみえ、「ホウゲ」と「ホウカ」の字音と意味との結び付きの揺れもうかがわれる。

ほう‐げ ハウ‥【放下】

〘名〙
① 仏語。禅で、精神的・肉体的な一切の執着を捨てて解脱すること。また、執着を起こさせる種々の条件を放棄すること。
※正法眼蔵(1231‐53)三十七品菩提分法「金剛経をききて仏法の薫力あるときは、重担を放下して出家す」
② =ほうか(放下)①②③
※日葡辞書(1603‐04)「ヒトヲ fǒgue(ハウゲ) スル」

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世界大百科事典内の放下の言及

【奇術】より

…このとき火を吐く術,刀をのむ術,ウリの種をまいて木に生長させる術などが日本に伝えられたのであろう。散楽は平安時代に猿楽となり,さらに分離して外術(げじゆつ),幻戯(めくらまし),放下(ほうか)などの名で呼ばれた。《今昔物語集》にはウリ売りが外術でウリを盗みくわれる話があり,《宇治拾遺物語》には外術師がわら沓(ぐつ)をコイに変えたという話が収められている。…

【曲芸】より

…〈曲〉には変化のあるおもしろ味とか,わざの変化といった意味があり,手や足を用いて主にその敏しょうな動きを見せる芸を称したが,のちには軽業と同義の言葉になった。奈良時代に散楽の一部として大陸から伝来した曲芸・軽業的技術が,中世にいたって放下(ほうか)師(僧)によって専門的に演じられる芸となる。その種目は長さ30cm内外,太さ1cmくらいの竹の棒2本を持って打ち合わせたり曲取りをする〈筑子(こきりこ)〉や平安時代から盛んに行われていた曲芸で,鼓の胴の形をして中央のくびれた部分に紐を巻き,回転させたり,空中高く飛ばせて曲取りをしたりする〈輪鼓(りゆうご)〉,田楽芸の高足(たかあし)から転化した〈連飛(れんとび)〉とか〈曲鞠(きよくまり)〉〈品玉(しなだま)〉などがあり〈放下〉はこれらの総称ともなった。…

【風流踊】より

…この歌は風流踊歌と称して,歌謡史のうえでも一つのジャンルを形成した。それは数曲の室町小歌を並べる場合と,放下(ほうか)歌など一種の物語歌を用いる場合とがある。またその歌の頭に格式ばった謡(うたい)の一節を用いることや,囃子詞を多用すること,一首の歌の最後に繰返しの文句を挿入することなどの特色が見られる。…

【豆蔵】より

…滑稽な身ぶりや口上で手品や曲芸をし,銭を乞うた大道芸人をいう。《嬉遊笑覧》に,〈放下師を今は豆蔵といふ,《斎諧俗談(さいかいぞくだん)》といふ物に,貞享元禄(1684‐1704)の頃,摂津国に一人の乞士あり名を豆蔵といふ,市中に出て常に重きものをささげて銭を乞ふ……〉とあり,大坂市中で豆蔵という者が腹の上に臼を置いて餅をつかせたり,鎗(やり)を鼻の先に立てるなどの曲芸をして人気があったらしい。これ以後ほかの者も豆蔵の名を使うようになり,芸の名称としても用いられた。…

※「放下」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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