自然の事物や社会的事象に即して観察や調査を行い,それらの構造や機能あるいは法則等を学ばせる教育の方法。それは教育が現実の世界に存在する事実や子どもたちの具体的な経験から離れ,抽象的な概念のつめこみや空理空論に流れたりする弊害を改めようという立場から唱えられた教育改革の主張でもあった。この主張は古代から存在するが,17世紀にJ.A.コメニウスがその主著《大教授学Didactica magna》においてその理念と方法を詳しく説いて以来,近代教育学の基本的な課題の一つとされてきた。なかでもJ.H.ペスタロッチは,概念の形成に先んじて直観を重視することを教育改革の基本とする理論や実践を深く追求し,その後の〈ペスタロッチ主義運動〉といわれる改革への努力も,具体的には直観教授のあり方を問うことをもって課題としたといってよい。日本においては,アメリカに〈オブジェクト・レッスンobject lesson〉として伝わっていたペスタロッチ主義運動が,明治初期にアメリカ人教師M.M.スコットや高嶺秀夫らの留学生によって紹介され,〈庶物指教〉という名で普及した。その際,自然や社会の事物の観察・思考そのものを内容とする〈直観科〉という特別の教科を設ける試みや,各教科の教育をつらぬく方法原理として直観教授が重視されることもあった。1930年代に展開された〈郷土教育〉なども,歴史的には直観教授の系譜上にあったものである。第2次大戦後は〈教授〉ということばが一般には使われなくなったこともあって,直観教授が問題とされることは少なくなった。しかし,そのねらいは,子どもの認識をよりたしかなものにするために社会科や理科の教育をはじめ教育のすべての分野でなお追求されていかなければならない方法である。
執筆者:中野 光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
言語や文字や概念による教授に対して、教材としての事物や事象を直接観察させたり、あるいはその感覚的代理物である絵とか標本とか模型などを提示したりすることによって、児童・生徒に具体的に学習させる教育をいう。
近代教授理論史における直観教授の最初の提唱者はコメニウスである。彼は、「事物こそ認識の対象である」という立場から、教授は事物からの感覚内容を学習者に与えることから始めなければならない、という感覚論的直観教授論を展開した。それをさらに発展させて、直観を単なる感覚的受容ではなく、事物の本質を直観し、把握する点にあるとしたのはペスタロッチである。彼は、直観をすべての認識の絶対の基礎と認めることによって、教授のもっとも高いもっとも優れた原理を確立しようとした。そして、彼は「数・形・語」という認識発展の基礎的原理を発見したことによって、感覚的直観から明瞭(めいりょう)な概念へ至る直観の術Kunst(ドイツ語)を確立した。
[林 忠幸]
『石井正司著『直観教授の理論と展開』(1982・明治図書出版)』▽『コメニウス著、鈴木秀勇訳『大教授学』(1962・明治図書出版)』▽『ペスタロッチ著、長田新訳『ゲルトルートはいかにしてその子を教うるか』(1960・平凡社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…初期のころの最も代表的なものは,コメニウスの絵入り教科書《世界図絵》(1658)であろう。このような直観教授の重視は,ペスタロッチやデューイにもひきつがれた。こうして,はじめは教科書中心の教育の補助手段として活用されていたが,20世紀に入ってからのめざましい視聴覚メディアの開発に伴い,教育の場で広く利用されるようになり,さらには複雑な電気的機器を組み合わせて用いるなど,視聴覚教材による教授そのものが教育の中心になる場合も多くなってきた。…
…翌72年〈学制〉により全国に学校制度を施行するのに先立って,小学校教員養成のモデル校として創設された師範学校(東京,東京高等師範学校の源流)へただ一人の教師として招かれた。以後74年8月まで,スコットは東京師範学校においてアメリカ公教育をモデルとした新教授法を教授したが,その指導により日本に初めて欧米式の一斉教授法やペスタロッチ主義の直観教授法などが紹介,移入された。75年からは東京英語学校,東京大学予備門などの語学教師を歴任したが,78年1月解任され,81年に帰国。…
※「直観教授」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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