知的財産に関する事件を専門的に取り扱う高等裁判所。知財高裁と略称している。日本の経済社会における知的財産の活用の進展に伴い、知的財産に関する事件について、控訴審の段階における法の解釈適用について統一性をもたせ、裁判の充実と迅速化を図るために、2004年(平成16)制定の「知的財産高等裁判所設置法」(平成16年法律第119号)により東京高等裁判所の特別の支部として、2005年4月に設置された。
知的財産高等裁判所は、「知的財産立国」を目ざす日本の施策により知的財産の創造・保護・活用を目ざす国策が展開されるなかで、2001年6月の司法制度改革審議会意見書、2002年7月の知的財産戦略大綱、2003年の知的財産戦略本部「知的財産推進計画2003」などにおける議論を経て、「知的財産に関する事件を専門的に取り扱う」高等裁判所が必要であるとされ、設置が決定されたものである。
知的財産高等裁判所が管轄するのは、技術的知識が要求される特許権、実用新案権、回路配置利用権またはプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えのほぼすべての控訴事件と、意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についてのものを除く)、出版権、著作隣接権もしくは育成者権に関する訴えまたは不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴えを東京高等裁判所の管轄区域内の地方裁判所が第1審として終局判決したものの控訴事件および審決取消訴訟である。
このうち、重要な事件や社会的に注目されている事件に関しては、5人の裁判官の合議体からなる「大合議」で審理と裁判が行われる。大合議の最初の判決は、2005年9月30日の「一太郎判決」(情報処理装置および情報処理方法の特許権侵害差止請求控訴事件)であり、その後、同年11月11日には「パラメータ判決」(偏光フィルムの製造法の特許取消決定取消請求事件)、2006年1月31日には「インクカートリッジ判決」(インクジェットヘッドカートリッジおよび液体吐出記録装置の特許権侵害差止請求控訴事件)が出されている。この「大合議」による判決は、知的財産権の分野における裁判実務、知的財産政策、企業活動に大きな影響を与えるものとなっている。
[瀧野秀雄]
『村林隆一著『知的財産高等裁判所と審決取消訴訟の実務』(2005・経済産業調査会)』
(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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