祇園信仰(読み)ぎおんしんこう

日本大百科全書(ニッポニカ)「祇園信仰」の解説

祇園信仰
ぎおんしんこう

行疫神(ぎょうえきしん)である牛頭天王(ごずてんのう)に対する信仰で、京都市東山区祇園町北側に所在する八坂(やさか)神社(祇園社)を宗祠(そうし)とする全国的な御霊(ごりょう)信仰。御霊とは死霊の故実用語で、祇園祭はもと祇園御霊会(え)とよばれた。ほかにも同じ信仰による御霊会として、北野御霊会と稲荷(いなり)御霊会とがある。菅公(かんこう)(菅原道真(すがわらのみちざね))の死後、天下にしきりに災禍が続発したので、それを菅霊の祟(たた)りとして始まったのが北野祭である。また生物を犠牲にして人の生命を維持できることから、その食物霊を御霊として祀(まつ)るのが稲荷祭である。

 中古、人々のもっとも畏怖(いふ)したのは疫病であった。彼らは、これを流行させるのは死霊や怨霊(おんりょう)が疫神(えきじん)となるためと信じたのである。素戔嗚尊(すさのおのみこと)をもって疫神を代表させたのは、記紀の神話にみるように、素戔嗚尊が罪を犯して根の国へ追放されたからで、この神を祀ることによって疫病から免れると信じられるようになった。また、疫神は災禍をなす邪神であるとともに、これを除去する祓(はらい)神として相反する二つの神格をもつ。すなわち、疫神は祀られることによって疫病を鎮圧する善神に転化するわけで、素戔嗚尊は諸神のなかでもっとも広く祀られる神となった。しかも彼らは、この神を行疫神として祀るときは、本名を隠して、インドの祇園精舎(しょうじゃ)の守護神である牛頭天王なる外来の神にかえたのである。

 牛頭天王は、869年(貞観11)清和(せいわ)天皇の代、東山の感神院(かんしんいん)(現在の八坂神社)に勧請(かんじょう)されたという。平安時代京都にしばしば流行した疫病の恐怖を背景に、祇園社は朝野の信仰を集めて、やがて全国の祇園信仰の中心となった。この神の祭りが一般に夏に行われるのは、おそらく夏にいちばん疫癘(えきれい)が流行したためであろう。また、一般に祇園信仰は、水辺における禊祓(みそぎはらい)の習俗と関係するところ深く、その祭りも川辺で行われることが多い。

[菟田俊彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「祇園信仰」の解説

祇園信仰
ぎおんしんこう

牛頭天王に対する信仰で,天王信仰の一つ。牛頭天王は,仏教上では八部衆の一つ天部の神で,武塔天神あるいはスサノオノミコト(素戔嗚尊)とされることもあり,疫病をはらう威力をもつと信じられた。平安時代の初期,伝染病が流行したとき,その病をもたらした怨霊をしずめるための御霊会(ごりょうえ)が,牛頭天王を合祀した京都府の八坂神社において執行されたが,これがのちになって祇園祭として知られるようになった。かつて祇園祭は 6月15日に営まれたが,これはその頃が年間を通じて疫病の発生しやすい時期であったからである。牛頭天王は,中世以来各地に勧請されており,兵庫県の広峰天王,愛知県の津島天王(→津島天王祭)が有名である。

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百科事典マイペディア「祇園信仰」の解説

祇園信仰【ぎおんしんこう】

京都の八坂神社(祇園社)に始まる信仰。平安初期に京師を風靡(ふうび)した御霊(ごりょう)信仰のため,怨霊(おんりょう)のたたりを和らげる呪術(じゅじゅつ)が盛んに行われ,祇園社はその中心となった。やがて牛頭天王(ごずてんのう)(素戔嗚尊(すさのおのみこと))とその八王子の信仰と結びつき,疫神(やくじん)および水神と仰がれ,その信仰は全国に流布し,祇園社・天王社は各地に勧進された。
→関連項目博多山笠

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精選版 日本国語大辞典「祇園信仰」の解説

ぎおん‐しんこう ギヲンシンカウ【祇園信仰】

〘名〙 牛頭天王(ごずてんのう)の信仰。日本には防災除厄の神格として取り入れられ、在来の信仰とも結びついて多くの華美な夏祭を生じた。

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世界大百科事典 第2版「祇園信仰」の解説

ぎおんしんこう【祇園信仰】

疫病を鎮める強い力をもつ疫病神として牛頭天王(ごずてんのう)をまつり,消厄除災を祈願する信仰。牛頭天王については天竺(てんじく)(インド)の祇園精舎(ぎおんしようじや)の守護神とするをはじめ諸説があるが,要するに疫病流行など不慮災厄にさいなまれつづけた古代の人々が,既往の信仰・伝説とも結び合わせながら信仰の対象として育成した神格である。この神は別に〈武塔神(むとうしん)〉の名をもつが,それは《備後国風土記逸文》にみえる〈蘇民将来(そみんしようらい)〉と〈巨旦将来(こたんしようらい)〉という兄弟の伝説にもとづく。

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世界大百科事典内の祇園信仰の言及

【素戔嗚尊】より

…それは文明に汚染されぬ原初的素朴さの個性化ともいうべく,記紀の神々のなかでも独特の魅力を放つものである。そのすぐれて神話的な形象のゆえか,後世の伝承にスサノオがあらわれることはまれだが,祇園(ぎおん)信仰においては,牛頭天王(ごずてんのう)と習合しつつ災厄除去の神としてあがめられており,この神の創造神の側面を伝えた例とみられる。出雲神話英雄神話【阪下 圭八】。…

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