家庭医学館 「精巣(睾丸)腫瘍」の解説
せいそうこうがんしゅよう【精巣(睾丸)腫瘍 Testicular Tumor】
精巣(睾丸)に発生する悪性の腫瘍です。
5歳以下と壮年期(20~40歳)の人に発病率が高く、泌尿器科(ひにょうきか)領域では、高年齢層に少ない唯一の悪性腫瘍です。また、停留精巣(ていりゅうせいそう)(「停留精巣(停留睾丸)」)の人に発生率が高くなっています。
[症状]
精巣が徐々に大きくなってきますが、痛みや熱がないので、ある程度以上大きくならないと気づかないことがあります。
進行すると、精巣の表面がでこぼこしたかたいしこりとなったり、片側の精巣が重たく感じたりします。
転移がおこりやすく、生命にかかわることが多いので、片側の精巣におかしいところを見つけたら、医師の診察を受けましょう。
●受診する科
精巣腫瘍にはいろいろな種類があり、種類によって治療法も異なりますから、泌尿器科を受診しましょう。
[検査と診断]
問診、視診、触診などによって精巣腫瘍が疑われたら、できるだけ早く入院して手術を行ない、診断を確定する必要があります。最近では、超音波検査が容易にできるようになりましたので、超音波検査で確認する場合もあります。
また精巣悪性腫瘍では、血中のホルモンや腫瘍マーカーの数値が高くなることがあります。
これは後で治療効果の判定に必要ですから、手術前に血液を採取して測定を始めます。
そのほかに排泄性尿路造影(はいせつせいにょうろぞうえい)、CT、MRI、シンチグラフィーなどの画像診断が行なわれますが、これらの画像診断は、時間的な余裕がなければ手術後になる場合もあります。
[治療]
まず手術で精巣を摘出し、腫瘍の種類を調べる病理学的検査を行ないます。腫瘍の種類によって、手術後の治療法が異なります。
●手術
高位精巣摘出術(こういせいそうてきしゅつじゅつ)が行なわれます。鼠径部(そけいぶ)の上で皮膚を切開し、精巣に通じる動静脈やリンパ腺(せん)を、できるだけ中枢(ちゅうすう)で切断して、精巣とともに摘出します。このとき切開したところから手指を挿入して、骨盤内(こつばんない)のリンパ節への転移の有無を確認します。
腫瘍の大きさにもよりますが、手術は1時間くらいで終わります。
●精巣摘出後の治療法
病理学的検査の結果によって治療法がちがいます。
精上皮腫(せいじょうひしゅ) 放射線がよく効きますので、放射線療法を追加します。腫瘍が精巣内だけにとどまっていて、転移がはっきりしない早期の場合には、精上皮腫の通り道となっている下腹部のリンパ腺をめがけて、あまり多くない量の放射線治療をします。これを予防照射といいます。
早期の精上皮腫では、高位精巣摘除術と予防照射とで、ほぼ完璧に治癒(ちゆ)します。最近は予防照射をしないで、ようすをみていき、転移がはっきりしてから、がんの治療を行なうこともありますが、この場合には、約1割の人に転移がおこります。予防照射については、担当の医師とよく相談したうえで、どちらにするか選択してください。
転移の範囲が狭い場合には、転移のある場所に放射線を照射します。転移が広い場合や、がんが進行していて、がん細胞が血液中に入って全身を巡っていると思われる場合、がんの広がりが広いときには、放射線を照射しきれませんので、全身的ながん化学療法を行ないます。
胎児性(たいじせい)がんと絨毛(じゅうもう)がん これらのがんには、全身的ながん化学療法が行なわれます。精上皮腫でも同じですが、数種類の抗がん剤を組み合わせたがん化学療法を数週間かけて静脈注射することを3~4回くり返します。この化学療法で転移が残った場合には、手術で残った転移をすべて切除することもあります。
精巣の悪性腫瘍に行なわれるがん化学療法は非常に強力なもので、嘔吐(おうと)などの消化器症状、白血球減少症(はっけっきゅうげんしょうしょう)や貧血などをおこす骨髄(こつずい)障害、肝機能障害や腎(じん)機能障害などの強い副作用がおこります。しかし、精巣腫瘍に対する効果も非常に強力です。また最近では、これらの副作用に対する有効な対策もたてられていますので、担当の医師に十分な説明を受け、納得したうえでがん化学療法を受けてください。
せいそうこうがんしゅよう【精巣(睾丸)腫瘍】
精巣腫瘍は、精巣が徐々に大きくなりますが、痛みや熱をともないません。したがって、ある程度、精巣が大きくならないと気づかないことがあり、また睾丸炎(精巣炎)、陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)といった病気との鑑別が重要です。
精巣腫瘍の詳しい解説については、「男性性器のがん」の精巣腫瘍(「精巣(睾丸)腫瘍」)を参照してください。