日本大百科全書(ニッポニカ) 「糖タンパク質」の意味・わかりやすい解説
糖タンパク質
とうたんぱくしつ
glycoprotein
糖とタンパク質が共有結合した化合物で、血清、粘液、細胞膜などに広く分布している。この糖部分はさほど大きくなく、分子量4000以下の場合が多い。しかし、構成する糖の種類は、ガラクトース、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸と多岐にわたり、またこれらの糖が枝分れ構造をもった特異な配列をし、糖鎖全体の構造は複雑なものとなっている。
糖タンパク質の糖鎖の機能としては、タンパク質全体を親水性にしたり、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の作用から守ることが、まずあげられる。また、糖鎖はタンパク質や細胞の移動を規定する「荷札」となっているということがある。白血球が炎症部位やリンパ節に移動するとき、最初のゆるい接着は細胞接着分子であるセレクチンというタンパク質が糖タンパク質の糖鎖を認識しておこる。さらに、血清中の糖タンパク質からシアル酸が除去されると、露出されたガラクトース末端が肝細胞表面の特異的タンパク質によって認識され、糖タンパク質は肝細胞に取り込まれ処分されてしまうことが判明している。また、細胞表面抗原のいくつかは糖タンパク質の糖部分によって担われている。その代表例はABO式血液型抗原である。
[村松 喬]
『小野修一郎編『タンパク質工学』(1989・丸善)』▽『日本生化学会編『新 生化学実験講座3 糖質1 糖タンパク質』上下(1990・東京化学同人)』▽『高橋礼子著『糖タンパク質と糖結合タンパク質』(1992・広川書店)』▽『永井克孝・箱守仙一郎・木幡陽編『グリコバイオロジーシリーズ1 糖鎖の多様な世界』『グリコバイオロジーシリーズ2 糖鎖の細胞における運命』『グリコバイオロジーシリーズ5 グリコテクノロジー』(1993~1994・講談社)』▽『横山茂之編『基礎生化学実験』(1994・東京化学同人)』▽『森野米三ほか著『学問の山なみ4』(1994・日本学術振興会、丸善発売)』▽『永井克孝ほか編『糖鎖1 糖鎖と生命』『糖鎖2 糖鎖と病態』『糖鎖3 糖鎖の分子設計』(1994・東京化学同人)』▽『木曽真編著『生物化学実験法42 生理活性糖鎖研究法』(1999・学会出版センター)』▽『小倉治夫監修『複合糖質の化学』(2000・シーエムシー)』▽『日本生化学会編『基礎生化学実験法5 脂質・糖質・複合糖質』(2000・東京化学同人)』▽『川嵜敏祐・井上圭三・日本生化学会編『糖と脂質の生物学』(2001・共立出版)』▽『阿部輝雄・吉岡亨編『物質としての脳』(2003・共立出版)』▽『大島泰郎・鈴木紘一・藤井義明・村松喬編『ポストシークエンスタンパク質実験法4 構造・機能解析の実際』(2003・東京化学同人)』