日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済的自由」の意味・わかりやすい解説
経済的自由
けいざいてきじゆう
日本国憲法22条の保障する経済活動の自由、居住・移転の自由、憲法29条の保障する財産権などを総称して経済的自由とよぶ。もっとも居住・移転の自由は他者と接触し、知見を広めるためのものとする位置づけも可能であり、したがって、精神的自由の要素をあわせもつと理解されることが多い。
経済的自由に関しては、そのとらえ方の歴史的変遷に注意する必要がある。近代市民社会成立期においては、たとえば1789年のフランス人権宣言17条で「所有権は、神聖かつ不可侵の権利である」と規定されたように、その不可侵性が強調された。しかし、19世紀末から20世紀にかけて西欧諸国で資本主義が高度化すると、しだいに大資本の保有する財産権や大企業が行う経済活動が弱小な諸個人の生存を脅かすことが認識され、経済的自由の不可侵性が薄れた。むしろ、社会国家・福祉国家的見地から、これら自由を法的に規制する必要が高まった。このような経済的自由のとらえ方の変遷は、近代憲法から現代憲法への移行を象徴する。こうして、現代における自由を経済的自由と精神的自由(たとえば表現の自由、思想・良心の自由)とに分けるならば、精神的自由に対する法的規制は限定的にしか許容されない。しかし、経済的自由に対する法的規制は、社会経済の調和的発展の見地から広範に許されるとするとらえ方が広く受け入れられている。
こういったとらえ方は、自由に対する法的規制の合憲性が裁判所で争われた場合の審査のあり方にも反映される。精神的自由に対する法的規制の合憲性は厳しく審査されるが、経済的自由に対する法的規制の合憲性は、基本的に緩やかに審査されるのである。
経済的自由は、精神的自由に比べて人権の序列上、劣位に置かれるという考え方は、憲法学説上通説の立場を占めている。しかし、各人の人格の実現としての経済活動の自由や、人格の実現の基盤としての財産権については、精神的自由に劣らない高い保障が認められるべきだとする批判、さらにそれに対する再批判がなされつつある。このように、経済的自由のとらえ方をめぐり、新たな論議が展開しつつある。
[安西文雄]
『今村成和著『人権論考』(1994・有斐閣)』▽『渡辺洋三著『財産権論』(1985・一粒社)』