緊急の必要があるが逮捕状を求める余裕のない場合に,事前に逮捕状をえずに行われる逮捕。死刑,無期または刑期の最大限が3年以上の懲役,禁錮にあたる事件について,嫌疑が十分であり,急速を要し逮捕状を求めることができないときに,その理由を告げて行うことができる(刑事訴訟法210条)。逮捕の直後に裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず,もし逮捕状が発せられなければ,すぐ釈放しなければならない。職務質問や任意での取調べの結果嫌疑が明らかになった場合などに行われることが多く,逮捕全体の約18%を占める(1980年。交通に関する業務上過失致死傷を除く刑法犯)。裁判官が令状申請を却下したのは約0.13%である(同年。全事件)。緊急逮捕は,新憲法立案当時政府は検察官なども憲法33条の〈司法官憲〉として令状を出せるとしていたところ,のちに裁判官しか令状は出せないとみられるに至ったため,とくに設けられた制度である。しかし,憲法33条は,現行犯以外は令状により逮捕すべきものとしているため(〈令状主義〉の項参照),その合憲性は問題である。実際の必要,立法の経緯,直後に令状が出ること,外国でも直後の裁判官によるチェックを条件に令状なしの逮捕を認める例が多いことなどを理由にこれを合憲とする意見が強いが,厳密な理由づけはむずかしい。最高裁判所の判例も合憲とするが,詳しい理由は示していない。いずれにせよ変則的な制度であるので,厳正な運用が必要である。
執筆者:平川 宗信
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検察官、検察事務官または司法警察職員は、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求められないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる(刑事訴訟法210条)。これを緊急逮捕という。この場合には、ただちに裁判官の逮捕状を求める手続をする必要があり、逮捕状が発せられないときは、ただちに被疑者を釈放しなければならない。逮捕後、ただちに逮捕状を求める手続をとらなかった場合には、その逮捕は違法となり、その間に得られた被疑者の供述は証拠能力がないことになる(判例)。緊急逮捕の合憲性については学説上争いがある。憲法第33条は、逮捕状による逮捕を原則とし、例外として令状なくして逮捕することができるのは現行犯逮捕の場合だけであると規定しているので、緊急逮捕は憲法に反するとする説もある。しかし、憲法第33条は、司法的抑制を働かせなくても逮捕が合理的である場合として現行犯逮捕を掲げていると解することができ、これに準ずる合理性がある場合にも例外を認めることができると考えられるので、憲法に反するものではないといえよう。判例も、緊急逮捕を合憲としている。
[内田一郎・田口守一]
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… 狭義では,刑事訴訟法上の術語として,公訴提起前に被疑者の身体を一時的に拘束することを逮捕という。刑事訴訟法上の逮捕には,通常逮捕(刑事訴訟法199条以下),現行犯逮捕(212条以下),緊急逮捕(210条,211条)の3種類がある。通常逮捕は,捜査機関が,その請求により裁判官があらかじめ発した逮捕状により,被疑者を逮捕するものである。…
※「緊急逮捕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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