翻訳|longitude
地球上の1点を通る子午面(線)と,基準にとった子午面(線)とが,極または赤道面において挟む角度をいい,ある地点の位置を表す量として,緯度および高さとともに使われる。基準子午面(線)は,イギリスの旧グリニジ天文台エアリー子午環の中心を通るものを採用し(1884年ワシントン会議),これを本初子午面(線),またはグリニジ子午面(線)と呼ぶ。東または西へ0°から180°まで数え,それぞれ東経,西経をつける。符号は東経をプラス,西経をマイナスにとる場合と,その反対の場合があって混乱していたが,1982年の国際天文学総会において,東経をプラスにとることが決議された。緯度と同じように4種の経度があり,それぞれ天文経度,測地経度,地理経度,地心経度という。天文経度は,地点を通る鉛直線を含む子午面とグリニジ子午面との間の角度である。経度の観測には緯度観測に使った地球の回転軸という観測可能な基準がない。そのため,ある位置の定まった恒星が,グリニジ子午面を天球に延長し天球と交わった線(天球の子午線)を通過した時刻と,地点の天球子午線を通過する時刻との差を,地点のグリニジ子午線から測った経度,正しくは天文経度という。このように経度は時刻の差に等しく,また正確な時計が必要である。したがって,経度の測定精度は時計の発達に比例しているので,精密な時計(クロノメーター)の発明によって,初めて本格的な大洋航海が可能になった。測地原点における鉛直線を通る子午面の天文経度を原点の測地経度とし,他の点までの測地測量と採用楕円体を用いて計算された経度をその地点の測地経度という。ある地点の天文経度と測地経度の差を経度の鉛直線偏差という。地球を近似する楕円体上の1点に立てた垂直線を含む子午面と,経度0°の子午面(グリニジ子午面)とのなす角を地理経度という。楕円体の中心と,楕円体上の1点を結ぶ直線を含む子午面とグリニジ子午面との作る角度を地心経度という。測地経度,地理経度,地心経度の差はほとんどない。グリニジ地方時とある地点の地方時の差は,ある地点とグリニジ間の経度差に等しく,その関係は時刻が同種(恒星時,平均時など)ならばつねに成り立つ。天文経度は極運動によって変化するので,緯度変化とともに極運動を決定する計算に利用されている。
地球の自転速度は,地球の内部構造や海洋・大気の影響によって一様ではない。そのため経度にはさらに暦表経度が定義される。太陽系の天体の公転運動は,ニュートンの運動法則によって記述されるが,このとき用いられる時系は物理学的に一様に流れるもので力学時と呼ばれる。現実地球の自転速度は減速しているので,力学時で測ったグリニジ子午線は,現在のグリニジ子午線より55秒だけ東にずれている(図)。これをグリニジ子午線と区別して暦表子午線と呼ぶ。暦表子午線は現実の地球とは無関係で,力学時を表現するように一様な自転速度をもつ仮想の子午線である。暦表子午線は,地球に固定したグリニジ子午線に対しては,地球自転速度の変動に伴い不規則な変化をするが,空間に固定した基準点(春分点)に対しては,地球の自転とは独立に一様な速度で回転する。したがって,ある地点の経度を暦表子午線を基準にして測れば,地球自転速度の変動の影響を除くことができる。このような経度を暦表経度といい,グリニジ子午線から測った経度との関係は,暦表経度=(グリニジ子午線から測った経度)-(1.0027379⊿T)となる。⊿Tは約55秒時(1985)である。暦表子午線に対して,グリニジ子午線のほうが,経度差で1.0027379⊿Tだけ自転が遅れている(暦表子午線の西にある)ことを意味している。
→緯度 →極運動 →恒星時 →世界時
執筆者:若生 康二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
緯度とともに、地球上のある地点の位置を示すために用いられる方向量。地球上のある地点の経度とは、その点を通る子午線(地軸を含む平面と地表との交線で、経線という)を含む平面(子午面)と、ロンドンのグリニジ天文台を通る本初子午線(経度0度)を含む平面とのなす角度である。本初子午線を経度0度とし、そこから東、西にそれぞれ東経180度、西経180度まで区分される。地球は24時間でほぼ360度回転するので、その回転角度と経過時間は比例する。すなわち、経度15度は1時間、経度15分は1分、経度15秒は1秒に相当する。
経度も、緯度と同じように地心経度、地理経度(測地経度)、天文経度が定義される。このうち、恒星の子午線通過時刻を観測して決めた経度が天文経度で、その地点の鉛直線を基準にする器械によって求められる。国または地域ごとに基準地点(原点)を選び、この原点の天文経(緯)度および高さと、世界測地系を用いて決めるのが測地経(緯)度である。
天文経度と測地経度の値にはわずかの違いがあるのが普通で、その差を経度の鉛直線偏差という。
宇宙測地技術と原子時計の精度向上および地球の形状と大きさが精密に決定されるようになったため、1988年以降は一般の人でも全地球測位システム(GPS)の受信機があれば、簡単に経緯度を求めることが可能になった。
[市川正巳・若生康二郎]
『デーヴァ・ソベル著、藤井留美訳『経度への挑戦 一秒にかけた四百年』(1997・翔泳社)』
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