(読み)エイ

デジタル大辞泉 「翳」の意味・読み・例文・類語

えい【翳】[漢字項目]

[音]エイ(漢) [訓]かげ かげる かざす
物におおわれてできる陰。かげり。「暗翳陰翳
さえぎり隠す。「掩翳えんえい
[補説]1は「」を代用字とすることがある。

さし‐は【×翳】

《「さしば」とも》鳥の羽や絹を張ったうちわ形のものに長い柄をつけた道具貴人の外出時や、天皇即位朝賀などで高御座たかみくらに出るとき、従者が差し出して顔を隠すのに用いた。

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精選版 日本国語大辞典 「翳」の意味・読み・例文・類語

かざし【翳】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「かざす(翳)」の連用形の名詞化 )
  2. 手や物などでおおうこと。おおって陰にすること。また、そのもの。あるいは、おおうように手や物を上や前に置くこと。また、そのように置いたもの。
    1. [初出の実例]「おふぎのかざしより竹のかざしこそな すんすしけれたけのかざしこそな」(出典:歌謡・田植草紙(16C中‐後)昼歌二番)
  3. かざしおうぎ(翳扇)
  4. 能で手に持ったものの呼称。たとえば、狂女などが手に持つ花や枝など。
    1. [初出の実例]「扇にてもあれ、かざしにてもあれ、いかにもいかにも弱々と持ち定めずして持つべし」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)二)
  5. 外から城の内部が見えないようにおおい隠し、敵の直進を妨げるための塀などをいう。
    1. [初出の実例]「茀と云は、外より見えざる様にするの仕方にて」(出典:武教全書詳解‐一七・城築(古事類苑・兵事二五))
  6. 料理を盛り合わせるとき、肴(さかな)などの上に置くこと。
    1. [初出の実例]「肴のかざしの事、総て肴の下に敷をかい敷といふ、上に置をかざしといふぞ」(出典:随筆・南窓筆記(18C後)四)
  7. 鍋のふた。〔物類称呼(1775)〕
  8. かざしもんく(翳文句)」の略。

さし‐ば【翳】

  1. 〘 名詞 〙 貴人の外出の際、従者がさしかざして、その貴人の顔を隠す長柄団扇(うちわ)。即位の大礼には女嬬(にょうじゅ)が左右から天皇の顔にかざし、大祭の神幸列にも供奉の神官がかざして奉仕する。羽と呼ぶ団扇に紫の羅をはった紫翳、菅を編んだ菅翳などがある。中国では漢代以後に用いられ、日本には古墳時代に伝来した。
    1. 翳
    2. [初出の実例]「渋谿(しぶたに)二上山に鷲そ子産(む)といふ 指羽(さしは)にも君がみために鷲そ子産(む)といふ」(出典:万葉集(8C後)一六・三八八二)

えい【翳】

  1. 〘 名詞 〙
  2. おおいかくすこと。くもりかすむこと。かげり。かげ。
    1. [初出の実例]「キンセツ タットシト イエドモ、マナコニ イッテ yeito(エイト) ナル」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. [その他の文献]〔司馬相如‐長門賦〕
  3. 鳥の羽や絹を張ったうちわ形のもので、長い柄のついたかざし道具。貴人の顔を隠すために用いた。さしば。きぬがさ。
    1. [初出の実例]「于時殿下撃鉦三下、二九女嬬執翳」(出典:内裏式(833)元正受群臣朝賀式)
    2. [その他の文献]〔説文通訓定声〕

は【翳】

  1. 〘 名詞 〙 鳥の羽や絹を張った団扇(うちわ)状のもので、貴人の顔を隠すための長い柄(え)のついているかざしの道具。さしば。〔十巻本和名抄(934頃)〕

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普及版 字通 「翳」の読み・字形・画数・意味


17画

[字音] エイ
[字訓] はね・かざす・かげ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(えい)。は呪矢を殴(う)って病をはらう呪儀。(羽)にも呪飾の意がある。〔説文〕四上に「蓋なり」とあり、車の羽蓋とする。

[訓義]
1. はね、かざしのはね、きぬがさ。
2. かざす、おおう、かくれる、かげ。
3. くもり、かすむ。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕翳 オホフ・クラシ・シホムヒ・カクル・マブシ・ハ・タフレキ/躬翳 マブシ 〔字鏡集〕翳 カクシ・カクル・アカル・オホフ・サハル・マブシ・クラシ・シボム・クモル・メノヤマヒ

[熟語]
・翳陰・翳鬱・翳雲・翳翳・翳景・翳障・翳然・翳霾・翳・翳没・翳昧・翳滅・翳茂・翳
[下接語]
陰翳・雲翳・掩翳・翳・幻翳・光翳・荒翳・遮翳・障翳・塵翳・清翳・繊翳・竹翳・沈翳・日翳・微翳・浮翳・氛翳・翳・翳・目翳・幽翳・壅翳・淪翳・

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改訂新版 世界大百科事典 「翳」の意味・わかりやすい解説

翳 (さしは)

儀式用の調度の一種で長柄の団扇である。〈さしば〉ともいう。その字形が示すように,中国では鳥の羽で作った。北魏の竜門賓陽洞前壁の浮彫(6世紀前半)にその形を見ることができる。しかし,遺品はほとんどなく,千葉県金鈴塚古墳出土の1対の金銅透金具を翳の飾金具とする解釈が正しければ,稀有の1例となる。敦煌莫高窟第138窟の晩唐の維摩経変相図(9世紀)には,縦長と円形との2種の翳を同じ画面に描いてある。《延喜式》巻四に,伊勢太神宮や度会宮(わたらいのみや)の装束を挙げて,〈紫翳・菅翳〉などと記すものは,紫羅を張った楕円形のものと,菅(すげ)を編んだ円形のものとであるらしい。前者は柄の長さ約4m,後者は約2mという。奈良県高松塚古墳壁画や,唐の永泰公主墓壁画の女子が持つ円扇を翳と見る人もあるが,これらは柄の長さ1mに足らぬ短いものである。器財埴輪にも翳をかたどったものが若干ある。円板形の下端に細い円筒をつけた形に作り,円板の中央に円形の透孔のあるものや,円周に三角形の飾りをめぐらしたものもある。円板に放射状の線をいれたものがあるのは,後世の菅翳と同じく菅製であることを示すものであろうか。《万葉集》巻十六に〈渋谿(しぶたに)の二上山に鷲そ子産(む)とふ 指羽にも君がみために鷲そ子産とふ〉という越中の国の歌がある。ワシの尾羽で翳を作ることは,日本でも奈良時代に行っていたのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「翳」の意味・わかりやすい解説


さしば

鳥の羽などで扇形につくり,長い柄をつけたもの。貴人の行列などでさしかけ威儀を正した。中国では竜門や敦煌莫高窟などの壁画に若干みられる。日本では埴輪や,福岡県竹原古墳の壁画などに,それらしいものがみられる。実物としては,千葉県の金鈴塚から出土した金銅製の翳があり,伊勢神宮の遷宮に用いられる翳は全長 4.36mもある紫色の羅 (うすぎぬ) である。

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