老化にともなう女性性器の病気と症状(読み)ろうかにともなうじょせいせいきのびょうきとしょうじょう

家庭医学館 の解説

ろうかにともなうじょせいせいきのびょうきとしょうじょう【老化にともなう女性性器の病気と症状】

卵巣(らんそう)ホルモンの減少が原因
 老化を厳密に定義するのは非常に困難ですが、一般的には、生物の成熟期以降に生じる個体の機能的、形態的変化をさして老化といいます。
 女性の性機能の老化は、加齢にともなう卵巣ホルモンの変動によっておこると考えられています。
 閉経期(へいけいき)は、卵巣ホルモンの減少という内分泌(ないぶんぴつ)環境の急激な変化がおこる時期であると同時に、年齢的にも、生活習慣病をはじめとして、さまざまな病気が現われてくる時期でもあります。
 これらの病気には、卵巣ホルモンの欠乏が関係しているものもあれば、そうでないものもあります。
 卵巣、外陰(がいいん)、腟(ちつ)、子宮などの女性性器は、卵巣ホルモンが関与する代表的な臓器です。ここでは、これら女性性器の老化現象について説明します。
●卵巣
 卵巣の重量、容積の減少は30歳代後半から始まりますが、閉経前後からはより急激に減少します。性成熟期には9~10gだった卵巣が、40~50歳代で6.6g、50~60歳代で4.9g、60~70歳代で4.0gに減少します。
 卵胞数(らんぽうすう)についても、思春期には約40万個あったものが、40歳には約8000個に減少するといわれています。とくに40歳代の減少率は著しく、39歳の卵胞数の値を100%とすると、41歳にはその約70%、45歳には約90%減ってしまいます。
 性成熟期には、視床下部(ししょうかぶ)‐下垂体(かすいたい)から分泌されるゴナドトロピンの作用により、卵巣から卵巣ホルモン(エストロゲンプロゲステロン)が分泌されています。しかし、更年期(こうねんき)には、卵巣のゴナドトロピンに対する感受性も低下します。
 したがって、更年期にはいると排卵周期(はいらんしゅうき)も減少し、月経周期も不規則になります。エストロゲンの減少、とくにエストラジオール卵胞ホルモンの1つ)はその傾向が著しく、50歳ごろには、性成熟期の4分の1~5分の1になるといわれています。そして、閉経により、卵巣由来のエストロゲン、プロゲステロンは急激に減少します。
●外陰、腟
 生殖器はエストロゲンの標的臓器なので、閉経後は萎縮性(いしゅくせい)変化が著しく現われます。外陰、とくに大陰唇(だいいんしん)の組織は減少し、陰毛もまばらとなります。皮膚も萎縮性変化によって、機械的刺激に弱くなり、細菌に感染しやすくなります。
 性成熟期には、腟上皮(ちつじょうひ)に蓄積されているグリコーゲンデーデルライン桿菌かんきん)の作用で乳酸化され、腟内は酸性に保たれるので、炎症をおこしにくい環境にあります(腟(ちつ)の自浄作用(じじょうさよう))。
 しかし、閉経によって腟粘膜(ちつねんまく)は薄くなり、自浄作用が低下するので、機械的刺激や細菌感染に弱くなり、黄褐色の帯下(たいげ)(おりもの)、不正性器出血、難治性掻痒感(なんちせいそうようかん)(治りにくいかゆみ)、疼痛(とうつう)などの症状がでやすくなります。
 このような状態は、老人性腟炎(ろうじんせいちつえん)(「老人性腟炎(萎縮性腟炎)」)または萎縮性腟炎(いしゅくせいちつえん)と総称されます。
 また、腟の容積、腟の伸展性・拡張性の減少も加わり、一部の閉経期前後の女性は、強い性交痛を感じることがあります。しかし、腟の縮小の程度は、分娩歴(ぶんべんれき)や性交経験などによって個人差が大きいものです。
●子宮
 子宮にみられる萎縮性変化は外陰や腟の変化より先に現われます。エストロゲンの減少によって、子宮内膜(しきゅうないまく)、子宮筋(しきゅうきん)は萎縮し、子宮の体積は縮小します。子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)(「子宮筋腫」)も同様で、縮小する傾向があります。したがって、閉経期前後の子宮筋腫で症状の軽いものは、悪性病変(あくせいびょうへん)(子宮頸(しきゅうけい)がん(「子宮頸がん」)、子宮体(しきゅうたい)がん(「子宮体がん」))でなければ、治療せずに経過を観察することができます。しかし、子宮筋腫が急激に発育する場合は、診断のむずかしい子宮肉腫(しきゅうにくしゅ)(コラム「子宮肉腫」)の可能性を考慮し、原則として手術を行ないます。
 子宮内膜は、閉経後でも外因性エストロゲンに対する反応性は保たれているので、エストロゲン補充療法によく反応し、消退性出血(しょうたいせいしゅっけつ)(「月経のおこるしくみ」)をおこすことがあります。したがって、エストロゲンによるホルモン補充療法を受けている場合は、不正性器出血がおこることがあります。
 その他の局所変化として、骨盤底筋(こつばんていきん)や基靱帯(きじんたい)などの子宮を支えている組織の萎縮や、老化のための弛緩(しかん)により、子宮の下垂(かすい)、脱出が生じやすくなります(「子宮下垂/子宮脱」)。また、腟、膀胱(ぼうこう)、直腸の下垂、脱出をともなうことも多くあります。しかし、これらは出産回数、出産時の骨盤底筋の離断の程度などにも影響されるので、個人差が大きいものです。
 子宮の萎縮とともに、子宮頸管(しきゅうけいかん)の狭窄(きょうさく)(狭くなる)も生じます。その結果、子宮内腔(ないくう)に分泌物がたまり、細菌が感染することによって発症するのが子宮留膿腫(しきゅうりゅうのうしゅ)です。下腹部痛、発熱、膿性(のうせい)分泌物などの症状がみられます。
 子宮留膿腫は、子宮頸がん・子宮体がんを合併していることがありますので、場合によっては、頸管を開いて、がん検査を行なう必要があります。
◎不正性器出血にご注意
 以上、女性性器の変化について述べてきましたが、エストロゲンの欠乏による生殖器の萎縮からおこる不正性器出血は、閉経期前後から老年期の女性にしばしばみられる症状です。そのため、不正性器出血は、萎縮性腟炎として治療されることが少なくありません。
 しかし、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、まれですが老年期におこりやすい外陰がんなどの悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を、つねに年頭においておかねばなりません。
 子宮頸がん検査は、比較的よく行なわれていますが、不正性器出血がある場合は、子宮体がん検診も積極的に受けるべきです。もし医師が、子宮頸がん検査しか行なわなかった場合は、ぜひ子宮体がん検査も受けたいと医師に伝えてください。
 また、卵巣がんの人のおもな自覚症状の約13%が不正性器出血であり、さらに、閉経後の人に限定すると、約27%に不正性器出血が認められたとの報告もあるので、注意が必要です。
 いずれにしても、不正性器出血がみられた場合は、自己判断せず婦人科の医師の診察を受けるようにしましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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