脳性麻痺(読み)ノウセイマヒ(英語表記)Cerebral palsy

デジタル大辞泉 「脳性麻痺」の意味・読み・例文・類語

のうせい‐まひ〔ナウセイ‐〕【脳性麻×痺】

胎生期から新生児期にかけて、脳が外傷・酸素欠乏などにより損傷されたことが原因で、四肢が麻痺し、運動障害の起こる病気。手足が勝手に動いてしまう、細かい動作がうまくできないなどの症状がある。機能訓練により運動能力の獲得をめざす。脳性小児麻痺。→小児麻痺

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精選版 日本国語大辞典 「脳性麻痺」の意味・読み・例文・類語

のうせい‐まひナウセイ‥【脳性麻痺】

  1. 〘 名詞 〙 胎生期から新生児期にかけて、外傷や酸素欠乏、先天的異常などにより脳に障害をうけ、永続的な、しかし変化しうる姿勢および運動機能障害が生じたもの。脳性小児麻痺。
    1. [初出の実例]「脳性麻痺の少年が盛り上った背を柱にもたせて」(出典:海燕(1968)〈大原富枝〉一)

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六訂版 家庭医学大全科 「脳性麻痺」の解説

脳性麻痺
のうせいまひ
Cerebral palsy
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 子どもがおなかにいるときから生後4週までに、何らかの原因で脳が損傷を受けると、その後、体や手足が自由に動かせなくなることがあります。これが脳性麻痺で、脳障害の後遺症といえます。運動の麻痺ですが、知的障害てんかんを伴うことがあります。麻痺が非常に軽度で生活上の障害がない人から、重度で座ることができない人までいます。

原因は何か

 脳障害の原因はさまざまで、次のようなものがあります。

①おなかにいるとき

 遺伝子や染色体の異常、脳の形成異常(小頭症(しょうとうしょう)など)、胎内感染風疹(ふうしん)サイトメガロウイルスなど)、子宮内外傷(しきゅうないがいしょう)など

②出産時とその前後

 仮死、脳室周囲白質軟化症(のうしつしゅういはくしつなんかしょう)頭蓋内出血(ずがいないしゅっけつ)核黄疸(かくおうだん)など

③生後1カ月まで

 脳炎(のうえん)髄膜炎(ずいまくえん)脳血管障害(のうけっかんしょうがい)頭部外傷(とうぶがいしょう)など

症状の現れ方

 首がすわる(3~4カ月ごろ)、おすわりができる(7カ月ごろ)、歩き始める(1歳ごろ)などの運動発達が遅れます。また、体や手足が硬い、手足の動きが少ない、体がそりやすいなどの異常がみられます。これらの症状は、およそ2歳ごろまでに現れます。一般的に重度なほど早期に症状が出ます。

 成長するにつれて、手足の筋肉が短縮したり、関節がこわばったり、大腿骨(だいたいこつ)下腿骨(かたいこつ)のねじれが強くなったりして、いったん得られた機能が学童期に低下する傾向があります。

検査と診断

 脳の超音波、MRI、CT検査の結果などと、手足の筋肉の緊張や運動発達の遅れなどの症状から総合的に診断します。ごく軽度の脳性麻痺では、これらの検査で異常がみつからないことがありますが、その場合は症状で診断します。

 麻痺のタイプには、痙直型(けいちょくがた)(筋肉に力が入りやすい)、不随意型(ふずいいがた)(意思とは関係なく、手足が動いてしまう)、失調型(バランスが悪く、ふらふら歩く)などがあります。

治療の方法

 治療の目的は、子どものもつ運動能力を最大限に引き出し、得られた能力を生涯にわたり維持させることです。

①訓練

 理学療法で筋肉の緊張を和らげたり、運動発達を促します。作業療法で手の機能の向上を目指します。

②装具

 歩きやすくする、手を使いやすくするなどの機能的な装具と、筋肉の短縮や関節が硬くなるのを予防する夜間につける装具などがあります。

③筋肉の緊張を和らげる治療

・選択的脊髄後根切断術(せきずいこうこんせつだんじゅつ)髄腔内(ずいくうない)バクロフェン持続投与:どちらも下肢全体の緊張を和らげます。

・ボツリヌストキシン筋肉注射:特定の筋肉の緊張を和らげます。

④整形外科的手術

 短縮した筋肉を延長したり、大腿骨・下腿骨のねじれ、足部の変形を治します。また、重度な子どもの股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)脊柱側弯変形(せきちゅうそくわんへんけい)(背骨が曲ること)も治療します。

病気に気づいたらどうする

 神経を専門にする小児科、小児を専門にする整形外科などに受診してください。わからない場合は、肢体不自由施設、小児病院、こども病院などに問い合わせてください。

則竹 耕治


脳性麻痺
のうせいまひ
Cerebral palsy
(子どもの病気)

どんな病気か

 胎児がおなかのなかにいる時から出生直後(4週まで)の間に起きた、脳の何らかの障害による「運動の異常」を指します。年齢とともに進行する麻痺や一時的な麻痺、あるいは単に発達が遅れているだけのものは脳性麻痺とは呼びません。間違えやすいものに「小児麻痺」がありますが、これはポリオウイルス感染によって発生する麻痺(急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん))のことを指し、脳性麻痺とはまったく異なります。

原因は何か

 遺伝的要因や脳奇形(のうきけい)(神経細胞が適切な位置に移動し成熟していかない…神経細胞の遊走障害)、脳血管障害脳梗塞(のうこうそく)脳出血など)、中枢神経感染症(胎内でのサイトメガロウイルス感染症ヘルペス感染症など)、分娩時の仮死(かし)(分娩時に赤ちゃんの呼吸循環状態が悪くなる状態)など大変幅広い原因があります。また現在の医学では原因がわからないことも多くあります。

症状の現れ方

 多くは、出生後の定期的な乳幼児健康診断時に、運動発達の異常で発見されます。主な症状として、①運動発達の遅れ、②異常な運動と姿勢、③胸郭(きょうかく)が変形して関節が硬くなる(拘縮(こうしゅく))などがあります。生後6カ月ころまでは、首の座りが遅い、反り返りが極端に強い、哺乳が極端に下手であるなどの症状で始まり、それ以降になると、興奮・緊張時に異常な姿勢をとる、手足が動きにくく突っ張る、消えるべき反射が残っている、「はいはい」やつかまり立ちができないなどに続きます。学童期に入ると、二次的障害として脊柱(せきちゅう)側弯(そくわん)、関節が固くなり動きが制限されることが認められたりします。

検査と診断

 母子手帳記録(妊娠中の様子、分娩の経過など)を参照し、症状がみられるようになるまでの精神と運動発達の状況について十分に把握します。体の診察、心理発達検査を基本として、必要に応じて頭部CT・MRI、脳脊髄液検査などが加わることがあります。これらすべての情報を総合して診断されます。

治療の方法

 現在の医学では病気を完全に治す(まったく障害がない状態にする)ことはできません。

 したがって治療は、障害があっても姿勢・運動、摂食、発語などをうまくコントロールしていけるように治療、訓練を受けることが中心になります。医師の診察で麻痺のタイプと程度および発達の程度を評価して、それに合った治療と訓練の目標を決めます。治療には、①薬物療法、②手術療法があり、①は筋肉の緊張を和らげる薬の内服、②は足の変形を治し、筋肉の緊張を和らげるための手術が行われます。

 訓練には、③理学療法、④作業療法があります。③は主に移動する機能の向上と筋肉の緊張の緩和、④は手を使った日常動作を向上させるために行われます。①は小児科、②は整形外科、③④はリハビリテーション科で主に行います。

病気に気づいたらどうする

 小児科、小児神経科の外来を受診し、本当に脳性麻痺が疑わしいかどうかを判断をしてもらいます。小児神経科のある医療機関での診断を受けることをすすめます。また診断後も、心と体の発達に関する適切な評価、日常生活のサポートを受けられる医療機関を選ぶことも大切です。

 同じ疾患をもった患者ご家族の会が多く活動されており、具体的な情報を得る参考になることがあります。

関連項目

 精神遅滞てんかん

山田 謙一

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改訂新版 世界大百科事典 「脳性麻痺」の意味・わかりやすい解説

脳性麻痺 (のうせいまひ)
cerebral palsy

脳は胎生期から出生後の早い時期にめざましい成長,分化を遂げるが,この過程で障害を受けると,後に運動や姿勢の異常が残る。このような異常を脳性麻痺という。いわば,発達途上の脳の障害の後遺症というべきものである。従来ドイツ語のzerebrale Kinderlähmungの訳〈脳性小児麻痺〉が,脊髄性小児麻痺ポリオ)と対比させて用いられたが,英語が一般化するにつれてcerebral palsyの訳〈脳性麻痺〉が一般的になった。

種々のものがあるが,その原因となる障害の起こる時期は胎生期から乳児期早期に及び,ことに環境の大変化の起こる周産期が重要である。以前脳性麻痺の三大要因として新生児仮死未熟児,重症黄疸があげられたが,新生児と妊産婦の治療管理が進歩した結果,発生率が減ったほか,黄疸によるものも減り,仮死と未熟児も以前よりずっと重症のもののみが問題になるようになり,代わって胎生期の発育障害の比重が増してきている。

多くは生後しばらくしてから(3~4ヵ月以後)運動発達の遅れ,筋緊張の異常などの形で現れる。最終的な症状は,麻痺のほかに異常な運動パターンや姿勢が形成されるため,有効な運動が阻害されるが,麻痺の形として痙直性(強剛性)とアテトーゼ型に大別される。また運動障害の分布から,両麻痺,対麻痺(両下肢の麻痺),四肢麻痺,片麻痺,単麻痺,三肢麻痺などと分けられる。合併する異常として精神遅滞が高率にみられ,また痙攣(けいれん)発作(てんかん),視覚・聴覚の障害,栄養障害などが高率にみられる。

治療の重点は運動機能訓練におかれるが,早期に行うことにより,脳の代償機能を促進し,異常な運動や姿勢のパターンの出現を抑えて予後(最終的な運動機能や姿勢異常の程度)をよくすることができると考えられている。このため診断確定を待たず,脳障害の危険因子の大きい場合は治療を始め,経過をみながら治療の続行か中止かを決めるという方法がとられるようになってきている。脳障害の危険因子としては,高年初産,母体の病気,周産期の胎児仮死,新生児仮死,低体重児(未熟児),重症黄疸,分娩の異常(遷延など),新生児期の呼吸障害,痙攣,低血糖,自発運動・哺乳力などの低下などがあげられる。また,生後の原始反射の異常な残存,姿勢反射の出現の異常,筋緊張の異常の有無などに注目して,早期訓練の対象とすべきか否かの判定をする。運動機能の予後は,脳の障害の程度によってもさまざまであるが,生命の予後も,軽症では問題ないが,重症例は栄養障害,呼吸機能の低下,反復感染などのため小児期の死亡例もかなりある。
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家庭医学館 「脳性麻痺」の解説

のうせいまひ【脳性まひ Cerebral Palsy】

[どんな病気か]
 胎児(たいじ)や新生児(しんせいじ)のころの脳の病気のために生じた運動と姿勢の異常を脳性まひといい、いろいろな病気の結果としておこる症候群(しょうこうぐん)の1つです。
[症状]
 運動障害の部位に応じて、つぎのように分類されています。
■単(たん)まひ
 障害が、一肢(いっし)(いわゆる両手足のうちの1か所)だけにおこる。
■片(へん)まひ
 からだの片側が障害される(左右いずれか)。
■両(りょう)まひ(対(つい)まひ)
 両側の上肢(じょうし)(両手)と下肢(かし)(両足)が同時に障害され、下肢の障害のほうが重い。
■三肢(さんし)まひ
 障害が、三肢(両手足のうちの3か所)におこる。
■四肢(しし)まひ
 障害が、四肢(両手足)に同程度におこる。
 運動異常の性状により、痙直(けいちょく)型、アテトーゼ型、強剛(きょうごう)型、失調型、振戦(しんせん)型、無緊張型、混合型、分類不能型などに分類されることもあります(コラム「(脳性)運動障害のタイプ」)。
 知能障害が合併するとはかぎりませんが、てんかん、行動異常、情動障害、言語障害、知覚障害などの症状をともなうことがあります。
[原因]
 かつては、成熟児の分娩障害(ぶんべんしょうがい)や血液型不適合妊娠による核黄疸(かくおうだん)が多かったのですが、周産期(出産前後)医療の進歩で、これらが原因の脳性まひは著しく減少しました。
 現在では、超低出生体重児(ちょうていしゅっしょうたいじゅうじ)(出生体重1000g未満)や極低出生体重児(1000~1500g)におこる脳性まひの割合が増えています。とくに極低出生体重児は、低酸素性脳症(ていさんそせいのうしょう)にともなう脳室周囲白質軟化症(のうしつしゅういはくしつなんかしょう)による両まひ型の脳性まひの頻度が高くなっています。そのほか、発生異常や胎内感染(たいないかんせん)などの出生前原因による脳性まひの割合も増えています。
[検査と診断]
 重症の場合は、生後1~2か月のうちに症状が出ます。中等症は、生後3~4か月までは順調に発達しているようにみえますが、生後6~7か月ごろに四肢の突っ張りで気づかれることが多いものです。
 胎児期、分娩時、新生児期に問題のあった子どもや低出生体重児は、定期的な乳児健診をかならず受け、必要があれば、小児神経科医を紹介してもらいます。出生体重が1500g以下の子どもは、少なくとも歩いて話せるようになるまで、定期的に診察を受けることが必要です。MRIや脳波検査も考慮されます。
[治療]
 地域の療育センターなどの専門施設で、早期から運動機能の発達を促し、関節の変形を予防する訓練を受けることが重要です。ボバース法やボイタ法による機能訓練が行なわれています。
 てんかんや知的障害があれば、小児神経科医の定期的な診察が必要です。
 最近は、子どもに対する総合的なアプローチがたいせつという考え方から、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士などによる総合的な援助を行なう施設が増えています。
 また、障害児が快適に日常生活を過ごすためのさまざまな工夫や努力が、各施設で行なわれています。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳性麻痺」の意味・わかりやすい解説

脳性麻痺
のうせいまひ

脳損傷児にみられる主として運動機能障害を示す疾患。1968年(昭和43)に厚生省(現厚生労働省)旧脳性麻痺研究班が発表した定義によると「受胎から新生児(生後4週以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現し、進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」となっており、単一の疾患ではなく、症候群と解されている。かつては脊髄(せきずい)性小児麻痺(ポリオ)に対比してドイツ語の訳語である脳性小児麻痺zerebrale Kinderlähmungとよばれたが、近年は英語の訳語である脳性麻痺cerebral palsy(略称CP)が一般化した。なお、小児の脳損傷にはこのほか、知的発達に注目した知的障害、けいれん発作を示すてんかん、行動や情緒異常を呈する行動異常があり、それぞれ合併または随伴しやすい。

 脳性麻痺の原因としては、いわゆる脳損傷を引き起こす三大原因である新生児仮死、未熟児(低出生体重児)、重症黄疸(おうだん)があげられてきたが、周産期医学の発達とともにこれらによる発生率が減り、むしろ周産期以前の因子、すなわち頻回の流産傾向や妊娠中毒症、子宮内発達障害などが注目されている。主症状として運動および姿勢の異常があげられるが、その麻痺の部位別分類からは、体の片側にみられる片麻痺、下肢にみられる左右対称性の対麻痺、リットル病に代表される上・下肢の両麻痺、おもに不随意型の四肢麻痺、片麻痺が左右にみられる重複片麻痺などに分けられる。このほか、他の脳損傷である知的障害やてんかんなどをはじめ、言語障害、斜視や弱視などの目の異常、歯の異常、知覚異常などの合併・随伴症状もみられる。

 治療の原則は、なるべく早く発見して機能訓練を開始することであり、近年は発症前、すなわち周産期の危険因子および強い反り返りや手足の動きが固いなどの小児神経学的異常所見から脳性麻痺の可能性があれば訓練を開始するようになっている。なお、薬物療法や手術療法はあくまで補助療法にすぎない。また、脳性麻痺には合併症が多く、これらの治療も重要で、重症の脳性麻痺ほど合併症の比重が大きく、訓練よりも生命維持に重点が置かれる場合もある。

 機能訓練は、理学療法士、作業療法士、言語治療士など多くの専門家がチームを編成して行うが、その目標は、軽症の場合は社会的自立を目ざし、重症の場合には軽症に向かって介助しやすくすることである。

[山口規容子]

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世界大百科事典(旧版)内の脳性麻痺の言及

【アテトーシス】より

…アテトーゼAthetoseともいう。手足に生ずるゆっくりとした不随意運動の一つで,脳性麻痺のアテトーシス型にしばしばみられる。主として大脳基底核の障害によって起こり,脳性麻痺のほか,周産期の無酸素脳症や血液型不適合妊娠による核黄疸が原因となることが多い。…

【リハビリテーション】より

…すなわち患者の心理的,社会的,経済的な問題の相互関連を知ったうえで,具体的な技術を行うことができる看護の専門職である。身体障害
【疾患別にみたリハビリテーション】

[脳性麻痺のリハビリテーション]
 脳性麻痺はリハビリテーション医学の対象として,小児疾患の代表的なものである。運動麻痺が目立つが,これは非進行的であって成長の過程に生じた脳の損傷による。…

※「脳性麻痺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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