精選版 日本国語大辞典「野」の解説
の【野】
[1] 〘名〙
① 平らな地。山に対するもの。
※古事記(712)上・歌謡「青山に 鵼(ぬえ)は鳴きぬ さ怒(ノ)つ鳥 雉(きぎし)は響(とよ)む 庭つ鳥 鶏(かけ)は鳴く」
③ 墓場。野辺。
④ 野良。田畑をさしていう。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)六「私は北川村で藤三と申す百姓、野で働いておりましたら」
[2] 〘語素〙
① 動植物を表わす名詞の上に付いて、そのものが野生であること、山野で自然に生長したものであることを表わす。「のうさぎ」「のいちご」など。
② 人を表わす名詞の上に付いて、粗野である意を込めて、これを卑しむ気持を表わす。「の出頭(しゅっとう)」「の幇間(だいこ)」など。
[語誌](一)①の上代の用法は「はら(原)」とよく似ているが、古代に「の(野)」と呼ばれている実際の土地の状況などを見ると、もと、「はら」が広々とした草原などをさすのに対して、「の」は低木などの茂った山裾、高原、台地状のやや起伏に富む平坦地をさして呼んだものかと思われる。
ぬ【野】
〘名〙
① =の(野)(一)
や【野】
〘名〙
① 平らで広々とした地。また、放置されて草や木などの茂ったままになっている地。の。
※武蔵野(1898)〈国木田独歩〉二「風強く秋声野(ヤ)にみつ」 〔易経‐坤卦〕
② 野良。田畑。の。
※文明本節用集(室町中)「農夫相与抃二於野(ヤ)一〔喜雨亭記〕」
③ 官途につかないこと。政権の側に立たないこと。民間。
※内幕話(1883)〈渡井新之助編〉帝政党の内幕、並機関の事「絶世の名文章いよいよ光を増し、朝となく野となく喝采せざるはなく」 〔書経‐大禹謨〕
④ (形動) 無風流であること。粗野であること。また、そのさま。
※甲陽軍鑑(17C初)品四「花と承るに、まいらぬは野(ヤ)なり」
⑤ (形動) 品位がおちること。いやしいさま。野鄙。卑俗。
※史記抄(1477)七「あまりに夏の弊が野なるほどに多威儀ぞ」
※小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「あるひは其気韻の野(ヤ)なるに失して、いと雅びたる趣向さへに為にひなびたるものとなりて」 〔論語‐雍也〕
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