浄土教の根本聖典。鳩摩羅什(くまらじゅう)が402年ころ漢訳したもの。『無量寿経(むりょうじゅきょう)』『観無量寿経』とともに「浄土三部経」の一つに数えられ、『無量寿経』を『大経』とよぶのに対して『小経』と略称する。もとはサンスクリット語で書かれ、スカーバティー・ビューハSukhāvatī-vyūha(極楽(ごくらく)の荘厳(しょうごん))というが、おそらく西暦100年ころ北西インドにおいて成立したものと推定される。現在、この原典はインドでは散逸し、悉曇(しったん)文字で日本に伝えられたものだけが残っている。漢訳には、玄奘(げんじょう)が650年に訳した『称讃(しょうさん)浄土仏摂受(しょうじゅ)経』も現存しているが、中国、日本ではもっぱら鳩摩羅什訳のほうが用いられ、とくに浄土教諸宗派では、これを所依の根本経典の一つとして重視した。9世紀前半にチベット訳された『聖なる極楽の荘厳と名づけられる大乗経』も異本である。サンスクリット原典と対比すると、鳩摩羅什訳がもっとも近く、チベット訳がこれに次ぎ、玄奘訳はかなり増広されている。
本経の内容は、阿弥陀仏(あみだぶつ)の浄土である西方極楽世界の優れた光景(荘厳)を描写し、この浄土に往生するために阿弥陀仏の名号を一心に念ずること(念仏)を説き、六方世界の諸仏もこのことを称賛しているとして、浄土往生思想を簡潔平易に明らかにしている。とくに鳩摩羅什訳は、その流麗な訳文とあいまって、中国、日本では代表的な読誦(どくじゅ)経典の一つとなり、浄土信仰を広く流布せしめる役割を果たした。その注釈書も古来非常に多い。
[藤田宏達]
『藤田宏達訳『梵文和訳 無量寿経・阿弥陀経』(1975・法蔵館)』
阿弥陀仏信仰を説く大乗仏教経典の一つ。サンスクリット名スクハーバティービューハSukhāvatīvyūha(極楽の荘厳)。《大無量寿経》のサンスクリット名も同名のため,区別して〈小スクハーバティービューハ〉と呼ぶ。略称《小経》。1世紀ころ,北インドで成立したと推定される。サンスクリット本,チベット訳,漢訳2種が現存。漢訳は,鳩摩羅什(クマーラジーバ)訳《阿弥陀経》(402ころ),玄奘訳《称讃浄土仏摂受経》(650)各1巻のうち,簡潔で流麗な前者が多く用いられる。内容は,まず阿弥陀仏の極楽浄土の荘厳を説き,次にその浄土に往生するために阿弥陀仏の名号を執持(しゆうじ)することを勧め,最後に六方(東,南,西,北,上,下)の諸仏がこの説を讃嘆・証誠して信ずることを勧める。日本の浄土系諸宗では,《大無量寿経》《観無量寿経》と共に〈浄土三部経〉の一つとして重視され,短編のために読誦用に用いられる。サンスクリット本は古くから日本に伝えられ,江戸時代から出版・研究されてきた。
執筆者:末木 文美士
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…日本へは7世紀のはじめに伝わった。人びとをひきつけたのは《無量寿経》《観無量寿経》《阿弥陀経》であり,これらは阿弥陀仏とその浄土を語り,阿弥陀仏の救済が衆生の極楽浄土への往生で実現されることをのべている。奈良時代以前の阿弥陀信仰は弥勒信仰と混在した形であり,追善的性格が濃厚であった。…
…そのなかでも阿弥陀仏の西方極楽浄土は阿閦(あしゆく)仏の東方妙喜国と並んで特異なものである。《阿弥陀経》によると,阿弥陀の浄土は西方,十万億の仏土を過ぎたところにあり,苦はなく楽にみちているので極楽と名づけられる。この国土には七重の欄楯(らんじゆん),七重の羅網(らもう),七重の行樹があり,四宝で飾られ,美を極める。…
…ところで,《漢訳大蔵経》のなかで阿弥陀仏について説いている仏典は270余部で,大乗仏典全体の3割を占めていて,中国や日本では阿弥陀浄土の信仰が他の浄土教を圧倒して普及し,浄土教の名称を独占するかのごとき様相を呈するにいたる。この阿弥陀浄土をとくに説く浄土経典としては《般舟三昧(はんじゆざんまい)経》と《無量寿経》《阿弥陀経》《観無量寿経》のいわゆる〈浄土三部経〉がある。道安の弟子である東晋の慧遠(えおん)は,廬山の東林寺で僧俗123名と念仏結社,いわゆる白蓮社(びやくれんしや)の誓約をしたことで知られ,中国では慧遠を浄土宗(蓮社)の始祖と仰いでいる。…
…仏事の法要名。《阿弥陀経》を読誦して阿弥陀如来の救いを求める法要。天台系諸宗で常用するが,浄土系などにも勤める宗派がある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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