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行政事件に関する裁判をするために、司法裁判所と系統を異にする行政機関の一環として設けられた特別裁判所。わが国でも、おもにプロイセン、オーストリアの制度に倣って、大日本帝国憲法第61条と、これに基づく「行政裁判法」(1890年6月30日法律48号)、「行政庁ノ違法処分ニ関スル行政裁判ノ件」(1890年10月10日法律106号)によって設置された。行政裁判所は東京にただ一つ置かれ、訴訟審理は、訴願を前審とする初審かつ終審の一審制とされ、行政訴訟事項は、列記主義をとってごく限られた事項に限定されるなどの特徴をもっていた。このようなわが国の行政裁判制度は、行政手続上の法令の不備、不統一といったことと相まって、行政権力に対する国民の権利救済としての制度的機能を十分に果たさなかった。日本国憲法第76条は、特別裁判所の設置を禁止したため、その施行とともに廃止された。
[吉井蒼生夫]
『『行政裁判所五十年史』(1941・行政裁判所)』▽『和田英夫著「行政裁判」(『講座日本近代法発達史 第3巻』所収・1958・勁草書房)』
…(2)行政権を普通の司法裁判所の管轄下に服させてきたイギリス,アメリカなどを司法国家と呼ぶのに対し,一般私法と異なる特殊な行政法の体系を発達させたフランス,ドイツなどのことを行政国家と呼ぶ。これらの国では,行政権を司法権の干渉から解放するために,行政争訟を行政府内に設けられた特別の行政裁判所(行政裁判)の管轄下におくなど,行政権の地位を特別に保障する制度を認めている。議会主権が貫徹した近代民主制を体験したことがなく,行政権の優越が一貫していた日本は,行政学的な意味では明治以来今日まで行政国家であり続けてきたといえる。…
…行政訴訟の観念はもともと行政裁判制度との密接な関連のもとに形成されてきた。行政事件に対する裁判制度のあり方は比較法的にみても一様ではなく,英米法系の国々では通常の司法裁判所が行政事件についても裁判権を行使してきたのに対し,ドイツ,フランスなどのヨーロッパ大陸諸国では,種々の歴史的事情を背景にしながら,行政権に対する司法権の干渉を排除するために,司法裁判所と系統を異にする行政裁判所が設けられ,これに行政事件の裁判権が与えられてきた。このような行政裁判制度の創設は,行政権と司法権を分離するという政策上の要請に基づくものであったが,理論的には,公法と私法の峻別,さらには私益に対する公益の優先性の承認によって正当化され根拠づけられた。…
…警察国家に対する法治国家Rechtsstaatの成立である。 つぎに,行政法成立のもう一つの前提条件としては,行政に特有な法体系と,それを保障するための,司法裁判所とは独立した行政裁判所による独自の裁判制度の存在があげられる。これを,通常,行政制度という。…
… 法解釈学,とくに行政法学で論ぜられるのは,私法が適用される法関係とこれと内容を異にする公法が適用される法関係の二つが制度上区別されている場合である。この点について,フランス,ドイツ等の大陸法系の国では,行政上の法律関係に関する訴訟のうち,公法上のものについては,原則として,民・刑事を管轄する通常裁判所とは別系統の行政裁判所(行政裁判)の管轄に服するものとし,かつ,その際,実体法上も,私法とは異なった公法原理が適用されることとされてきている。そこで,公法原理の具体的内容がどのようなものであるか,具体的な関係が公法上の関係か私法上のものか,これを識別する標準は何か,といった問題が,公法・私法論として,判例および法解釈学説によってとりあげられることになる。…
…連邦裁判所のすべての刑事事件および民事事件のうちコモン・ロー上の訴訟については,陪審審理が保障されており,州の裁判所でも,同様に陪審制度が重視されている。(3)ドイツ連邦共和国 司法権は,通常裁判所,労働裁判所,行政裁判所,財政裁判所および社会裁判所の五つに分属していて,それぞれにつき,各州の下級裁判所と連邦の最上級裁判所とがあり,このほかに違憲立法審査権をもつ憲法裁判所が連邦および州にある。それぞれの裁判官にも違いがみられるが,中心となるのは,キャリア・システムの職業裁判官である。…
…かつて明治憲法の下では,陸海軍の軍法会議,皇族間の民事訴訟等のために置かれる皇室裁判所などがあった。 次に司法裁判所の概念に対立する行政裁判所があり,これは行政権の内部に設けられる特別裁判所を指す。やはり明治憲法の下にはこの意味の行政裁判所が設けられていた。…
…
[司法の範囲]
歴史的・沿革的にみると,フランスやドイツなどのヨーロッパ大陸諸国においては司法は人民間の私法上の争いを裁断する〈民事裁判〉と人民に刑罰を科すための〈刑事裁判〉の作用だけを指すものとされてきた。これらの作用は権力分立制の確立とともに行政権から切り離され,独立した司法裁判所の権能に属させられるようになったが,公法・私法峻別論の下に,〈行政事件の裁判〉は行政作用であり司法作用ではないとされ,司法裁判所とは別に設けられる行政裁判所の権能に属することとされてきた。これに対して英米系の諸国においては公法・私法を峻別する考え方をとらず,行政事件の裁判も基本的に民事裁判と同じ性質のものとしてとらえ,行政事件を含むいっさいの争訟を裁判する作用を司法作用として同一系統の裁判所の権能に属させてきた。…
…任期は5年である。 なお,憲法上の機関ではないが,ほかに重要なものとしては,法案作成に関して政府に助言を与えるとともに,最高行政裁判所としても機能する参事院Conseil d’Étatがある。
[政党]
フランスでは,必ずしも政党が政治のなかでつねに重要な役割を演じてきたといえない。…
…(1)国王,行政権,その他権力をもつ者が,広範な,恣意的な,あるいは裁量的な権限をもつことを認めないこと。(2)すべての人が,通常裁判所の運用する通常法に服するのであり,公務員は行政裁判所の運用する法にのみ服するという(フランスに見られるような)制度がとられていないこと。(3)憲法の一般原則が,成文憲法によって一挙に宣明されるのではなく,判決の中で私人の権利について判断がなされたことの結果として生まれてきたものであり,それだけに実質的に保障されていること。…
※「行政裁判所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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