行政契約(読み)ぎょうせいけいやく

精選版 日本国語大辞典 「行政契約」の意味・読み・例文・類語

ぎょうせい‐けいやく ギャウセイ‥【行政契約】

〘名〙 公法上の法律関係を発生させる目的でする国家と私人との合意。任官帰化など。公法上の契約。

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デジタル大辞泉 「行政契約」の意味・読み・例文・類語

ぎょうせい‐けいやく〔ギヤウセイ‐〕【行政契約】

行政主体相互間または行政主体と私人間において、公法上の効果の発生を目的とする契約。報償契約など。公法上の契約。

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改訂新版 世界大百科事典 「行政契約」の意味・わかりやすい解説

行政契約 (ぎょうせいけいやく)

国や地方公共団体がその相互間でまたは国民との間で結ぶ契約。〈行政上の契約〉ともいう。行政活動は命令や許可・認可など公権力の行使としてなされる行政行為が主な形式となるが,行政機能が多様化し権力的方式への批判が強くなるとともに,当事者間の合意によって成立する契約が従来にも増して広く用いられるようになる。公用のための用地買収,私有地等を借り受ける公用負担契約,国有・公有財産の貸付・売渡契約,政府契約と総称される物品納入契約・公土木建築請負契約・製造請負契約,それに国や地方公共団体の相互間での事務委託契約は伝統的なものである。現代における行政による事業経営やその他の給付的活動の増大は,公共施設や国・公営事業の利用契約,資金交付・貸付契約を増加させている。さらに,かつて電力・ガス・鉄道などの民営公益事業者と地方公共団体との間で結ばれた報償契約(事業者側は一定の報償金の納付,地方公共団体による事業監督への服従などを約し,地方公共団体側は道路その他の公物の占用の許可,占用料の不徴収,他の事業者の不許可などを約すもの)のように,民間の事業活動を規制するための手法としての契約もあり,今日では公害防止協定がこれにあたる。

 個人相互間では契約自由の原則がいわれるのに対し,行政には〈法律に基づく行政〉の原理がいわれることから,行政契約についてはとくに法律上の根拠の要否が間題となる。単なる財産の取得・管理・処分を超える公益目的のための契約は法律上の根拠があってこれをなしうるとする説もあるが,契約が相手方の同意によって成立する非権力的な行為であることから必ずしも法律の根拠を要しないとする説が通説となっている。ただ,このことは,行政機関が行政行為を用いず,法律の統制外の契約を選択する〈私法への逃避〉といわれる傾向を生む危険性がある。つぎに,行政契約に関する一般法がないため,民法中の契約に関する規定の適用の有無が問題となる。従来の学説は行政契約を〈公法上の契約〉と〈私法上の契約〉に区別し,前者には民法の適用が全部または一部除外されるとした。行政事務委託契約,報償契約,国営・公営事業利用契約,公用負担契約がこれにあたるとされた。しかし,私法上の契約とされるものについても民法にない特殊の法規定があるなど両者の区別の基準が明確でなく,また公法上の契約に適用されるべき一般法理が明確に示されるに至っていないため,最近ではこの区別を採用しない学説が多い。

 公法と私法の区別にとらわれずに行政契約にみられる特殊の法規定および法原則の主なものを挙げれば次のとおりである。当事者間の合意により成立し民法上の典型契約(法律にその名称・内容が規定されている契約類型。贈与・売買など13種)に該当するとみられるものであっても,法律により訴訟手続上行政処分としてみなされ(国の補助金交付など),また解釈上行政行為とされるものがある(公務員の任命など)。財産に関する契約は経済性・公正の確保のために一般競争契約を原則とし,地方公共団体の重要な契約は議会の議決を有効要件とする。行政契約も行政活動である以上,平等原則や人権保障などの憲法上の制限に服することを要する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「行政契約」の意味・わかりやすい解説

行政契約
ぎょうせいけいやく

行政主体が他の行政主体または私人との間で締結する契約をいう。行政主体相互間の契約として、地方公共団体相互間の事務委託(地方自治法252条の14、学校教育法40条)、道路・河川の費用負担の協議(道路法54条、55条、河川法65条、66条)、地方税の課税に関する協議(地方税法8条1項)、地方税の徴収の嘱託(同法20条の4)、普通地方公共団体の区域外での公の施設の設置に関する協議(地方自治法244条の3)などがある。行政主体と私人の間の契約は、調達(政府)契約、報償契約、公害防止協定、保険医の指定など多数ある。私人相互間の契約でも、収用委員会の協議の確認を得た起業者と土地所有者等との間の協議(土地収用法116条以下)、建築協定(建築基準法69条以下)、緑地協定(都市緑地法45条以下)は行政上の効力を有するので、行政契約である。

 伝統的には公法と私法の区別の存在を前提として、公法上の契約と私法上の契約の区別がなされてきた。しかし、現行法上はこの区別の基準も明らかでなく、区別の実益もほとんど存在しないので、今日では公法か私法かを論ぜず、行政が当事者となり、または行政的意義のある契約を行政契約として考察の対象としている。

 行政契約のうち、とくに重要であり実例の多いのは、行政主体と私人の間の契約である。このうち、調達契約は一括競争入札によるのが原則であるが、指名競争入札、随意契約またはせり売りの方法も例外的に認められる(会計法29条の3、29条の5、地方自治法234条)。貿易自由化のために国等が一定価格以上の産品を調達するときは、外国企業が不利にならない入札手続によることが必要である(国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令=昭和55年政令第300号)。国等が物件の買入れ等の契約を締結する場合においては、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」(昭和41年法律第97号)により題名どおりの努力をすることが求められている。

 公害防止協定は、公害発生源たる企業等と自治体もしくは住民との間の公害防止を目的とする取決めをいう。法令が定めるより以上に企業に厳しい内容を有するのが通常である。

[阿部泰隆]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「行政契約」の意味・わかりやすい解説

行政契約
ぎょうせいけいやく

国または公共団体が相手方ないし当事者となる契約。従来の学説は行政上の契約を公法に属する公法契約と私法に属する私法契約とに二分し,公法上の契約のみを行政法学の対象としてきた。近時においては,行政契約をより広い概念と理解し,各個の法律関係を具体的に検討しようとする傾向が生じている。行政契約には,関係公共団体間の協議 (地方自治法 244の3) や民間委託契約などの組織法上の契約のみならず,作用法上の契約として,行政上の事務に関する契約,政府契約,国有財産または公有財産の貸付けまたは売渡し契約,資金交付契約,公務員の雇用契約,国公立学校の在学契約,公企業の利用契約および公害防止協定などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の行政契約の言及

【政府契約】より

…従来,行政主体相互間の事務委託契約や報償契約等は公益にかかわるがゆえに公法契約とされ,私法契約とされる政府契約等と区別されてきた。これに対し,近年,契約的活動を通じて行われる現代行政の民主的統制を確保する趣旨や,上記の法律のように,私法契約にも公益的見地からの規制もあることから,公法・私法の区分が相対化しつつあることに着目して,これらを行政契約と観念して特有の法理を検討することが適切である,とする考え方がみられる。このような行政契約の考え方からすれば,行政主体をその一方または双方の当事者とする契約をひろく行政契約と呼ぶことから,政府契約はその一種ということになる。…

※「行政契約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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